猫カフェ
続きまーす。
早いもので、高校生活二度目の夏休みに突入した。結局、生まれて初めて出来た彼女は2ヶ月と持たず、寂しい夏休みを迎える事となった。
雪矢と海じゃなくて、彼女―――二葉さんと海に行きたかった……。まあ、落ち込んでも仕方がない。俺と二葉さんでは住む世界が違うし、何よりあのまま付き合っていてもお互いに良いことはなかったと思う。
まだチクリと胸を失恋の痛みが襲うけど、今日は気持ちを切り替えていこう。なんたって、『図書室の妖精』こと四宮夏希さんと猫カフェへ出陣する日なのだから。おっと、出陣なんて大袈裟と笑ってくれるな。こちとら本気なので。
トークアプリを交換してからほぼ毎日のようにやり取りをし、お互いの家のペットを写真で送りあっては歓喜したものだ。俺が飼ってるロシアンブルーのアオはそれはそれは目に入れても痛くない。爪で引っ掛かれても勢い余って噛んじゃっても、許してしまうくらい可愛い。
目が青いからアオって付けたけど、俺は飼い始めた時に大きな間違いをしていたので、名前が雄でも雌でも両方大丈夫な名前にしていて良かったと安堵している。雄だと思っていたアオは去勢手術を受けに病院に連れて行って、そこで初めて雌だと知った。
だって、トイレする時とか猫って見せてくれないんだもの! 足も上げないし……何よりも警戒心が最初の頃高めで中々心を開いてくれなかったから勘違いしてもしょうがなかったと思ってる。うん。
ちなみに、四宮さん家はゴールデンレトリバーの女の子を飼っているらしい。四宮さんも俺と同じく、動物全般好きで家で猫を飼えないから猫カフェ巡りに精を出しているそうだ。
俺なんて猫を飼っていようがいまいが、あの空間に男一人で入る勇気はない。もし、持ち合わせていたら、男らしいと二葉さんにも認めてもらえたかも―――って、何また二葉さんの事考えてんだよ。鼻で笑い、思考を振り払った。
もう別れたんだと納得させる。そうこうしていると、約束していた駅の時計広場の10時を知らせる鐘がなった。と、同時に遠くから俺の名前を呼ぶ声がした。辺りを見回すと、四宮さんがこちらに手を振りながら駆け寄ってきた。
―――可憐だ。その一言に尽きる。流行りの服を着こなすのではなく、自分のポリシーを貫いたのだろうなと連想させてくれる。爽やかな色合いが特徴のターコイズブルーのワンピースだ。その上に白の夏用カーディガンを袖を首元で結んで羽織っている。その着こなしが似合い過ぎてて思わず携帯で写真を撮りたくなったほどだ。
「すみません! 電車が遅延してて……慌ててトークに書き込んだんですけど、既読にならなかったので」
「え! ほんと?」
ポケットに入れてる携帯を取り出し、急いで確認する。着信とアプリ通知が5件程入っていた。こんなに入ってるのに、何故気付かないと疑問に思っているとサイレントになっていることに気が付いた。
「ごめん。何故かサイレントになってた……」
「あ、そうだったんですね。何事もなくて良かったです」
「いや、こちらこそ。でもお互いに何もなくて良かったよ」
「ふふっ。そうですね。では、時間が勿体ないですし、行きましょうか」
「うん。そうだね」
四宮さんの先導で歩き始める。ほどなくして猫カフェが入っている建物にたどり着いた。高揚感が抑えられない。四宮さんも同じらしく、急に腕をグイッと引っ張られた。戸惑いが生まれ、目が泳ぐ。上擦った声が出る。
「し、四宮さん……」
「行きましょう、三隅君! たくさんの猫達が私達を待ってますよ」
その純粋な目とワクワクが止まらない四宮さんを見ていると、腕に手を回されたくらい何も指摘しない方がいいだろうなと指摘するのを思い止まった。
手続きを済ませて、猫のいる空間に足を踏み入れると、もう駄目だった……四宮さんが。はしゃぐ、はしゃぐ。決してはしゃぐのが悪いわけじゃない。ただ精神衛生上悪いだけだ。俺の腕に体をベッタリくっ付け、密着している状態ではしゃぐのだ。猫と戯れたら離してくれるかと思ったが、更に密着度が上がった。
「四宮さん」と声をかけても俺の声が届いていないらしい。キャーと声を上げながら更に密着。俺に猫を見せようとして更に密着。ドリンクを飲む時も密着。猫にチュールを上げるときも密着。結局、最初から最後まで、2時間ずっと俺の腕を離さなかった。
何度か背中とかにとある2つの物体を押し付けられた事はあったが、怒られてしまうかもしれないが、敢えて言わせてもらう。その時よりもめっちゃデカい。なんなの、あれ? 夢と希望が入ってたりするわけ? 二葉さんも結構ある……って、何言ってんだ。
楽しい時間も終わりを告げ、お店から出て四宮さんがテンション高いまま俺に話しかけてくる。
「三隅君。可愛いかったですね! 特に子猫がなんとも―――」
そこで、会話がピタリと止む。至近距離まで近付いていた四宮さんの顔が急激に赤くなる。自分の状況が理解できたのか、即座に後方に後ずさった。
「ご、ごめんなさい! 夢中になってて。もしかしてずっと今のままでした?!」
「えっと……うん」
「恥ずかしい! 本当にごめんなさい。私、テンション上がったりすると周りが見えなくなって、よく人にしがみついちゃうんです」
「そ、そうなんだ。うん。驚きはしたけど、大丈夫……って信用ならないよね」
「いいえ! そんな事ないです! 私普段どんなにテンション上がっても男性にしたことはなかったんですけど……。何故でしょう?」
うーん、と頭を悩まかしている姿を少しお兄さん気分で見つめてしまう自分がいる。ほんわかするんだよね。四宮さんって。妖精と言った奴あながち間違いでもないかも、と穏やかな目で四宮さんを見つめていると視界の端に見知った姿が写ったように感じて、顔をバッと上げる。
周囲をくまなく探すが知り合いなんていなかった。恐らく、俺の勘違いだろう。そのことに気にも止めず、四宮さんを伴い、お昼ご飯を食べ、軽くショッピングをした。
女性のウィンドウショッピング好きは有名だが、四宮さんも例に洩れなかった。見事に夜の19時までショッピングを楽しんでいた。俺もなんだかんだで、四宮さんの豆知識とかも道中教えてもらい退屈することがなかった。
さすがに、女性だけの空間―――レディースだけ置いている洋服屋とかには戸惑いも起きたが、比較的楽しい一日となった。
その夜、四宮さんとあの子が可愛いかった。次はこの猫カフェに行きたいねなどトークしていると、ピコンとトークアプリのアイコンが1と増えた。
誰だろう? とタップすると、二葉さんの名前が書かれた欄にマークが付いていた。別れる前もそんなにトークしたことがなかったのに、今更なんだろう? と疑問に思いつつ、開く。そこには、
『明後日、映画見に行かない?』
と、お誘いが書かれていた。
猫可愛いですよねー。作者は犬派ですが、猫も大好きです。




