お誘い
新キャラ登場。
「女の子にしつこいと嫌がられますよ」と、チャラ男と四宮さんの間に割って入って啖呵を切る。こんなこと普段の俺ならビビッて出来ない。が、しかし、今回そんな行動が取れた理由―――それは。
「ああ? なんだ、テメー。関係ない奴はすっこんでろや!」
すぐに間合いを詰めてチャラ男の耳元に周りに聞こえないくらいのボリュームで囁く。
「いいんですか? こんな所で騒いで。さっき、猿渡先生が校内見回ってて、あと10分もしない内に図書室に来ちゃいますよ」
「なに……」
「―――それに、四宮さん、男らしい寡黙な人がタイプだと聞きましたから。四宮さんに振り向いてもらいたのなら髪の毛とか服装直して口調も固くないと駄目だと思うんですよ……。撃沈した友達がそう言って泣いてましたから」
考える余地を与えないようにさらに畳み掛ける。
「だから―――せっかく今でもカッコいい先輩が優等生の格好するなんて勿体ないと思うんですよね。先輩なら女性におモテになるから選び放題なんじゃないですか? 四宮さんと付き合ったら息苦しくなるかもしれませんよ」
「……。確かにな……俺もまだまだ遊びたい。よし! 四宮の事は諦めて他の女をモノにしよう」
「その方が先輩らしいと思いますよ!」
「おう! そうだな! あんがとな! 四宮も騒ぎにして悪かったな」
「え……あ、はい。私は大丈夫ですので」
笑顔で「じゃーな!」と去って行くチャラ男。一番の難関を諦めさせることは出来たが、まだ四宮さんの周りを有象無象の男達が埋め付くしている。
仕方がないので、四宮さんに手伝ってもらおうと画策する。まあ、四宮さんは何もしなくていいのだが。ちょっと声を張って四宮さんに伝える。決して中身を伝えたいわけじゃない。そして、伝える相手は四宮さんなわけでもない。耳をダンボにしている彼らだ。
「なんか、猿渡先生が見回りしてるらしいんだよね。図書室も後で来るって言ってたから出来るだけ仕事終わらせておこうか」
ザワリ。猿渡先生の名を出すと早かった。四宮さんを中心に出来上がった要塞のような垣根は我先にと図書室から出ていった。何故、彼らが慌ただしく図書室を後にしたかというと、猿渡先生がキーワードになる。
猿渡先生とはこの学校の生徒指導部長で生徒指導部の中で一番偉く、且つ学校一恐いのだ。不良も3日と持たず真面目になったと聞く。頭髪や服装には割と寛容な学校だが、行事や人様に迷惑になる行為や態度は厳しく指導される。
なので、今回の図書室の騒ぎは猿渡先生の逆鱗に触れる事案なのだ。誰もいなくなった図書室は静寂で本来の姿以上に静か過ぎて利用者が誰もいないことに驚きを隠せない。え……マジでみんな四宮さん目当てだったの?
「あ、あの……」
「え? あ、はい」
「先程はありがとうございました。少し困ってて……猿渡先生がいらっしゃるんですよね? 急いで出来てない仕事片付けないといけませんね」
「どういたしまして……。あ、猿渡先生の事なら気にしないで下さい」
「え、でも」
「あれ、嘘なんで。誰も先生が来る予定ないですし。困ってそうだったので、嘘付いただけなので」
「そうだったんですね! 本当にご迷惑をお掛けしました。えっと……」
丁寧にお辞儀をした後、窺うような目を向けてくる四宮さん。これは、俺が何者かわかってないご様子。俺は四宮さんの存在を知っていたが、四宮さんは俺を知らない。モブならではですね。
「俺は3組の三隅秋人。図書委員なんだけど、今日の四宮さんとペアの人が風邪引いたらしくて、その人の代わりで来たから。宜しくね」
「こちらこそ、宜しくお願いします。私は5組の四宮夏希と言います。誰か代わりの人を手配してくれるって聞いてましたけど、三隅君だったんですね。今日はお世話になります」
「いえいえ。こちらこそ。で、何しようか? 返却の整理した方がいいかな?」
本の返却口へ向かう。そこで、はて? と頭に? が浮かぶ。ないのだ、返却本が。覗き込んでも手を入れてみても空を切るばかり。やはり、何も入っていない。え? なんで? と四宮さんの方へ目を向ける。すると、四宮さんが困ったように眉毛をハの字にして人差し指で頬を掻く。
「なんか、私が図書委員の日って何故か返却本がないんですよね」
「それって―――」
マジかよ。そこまでみんな四宮さん目当てって事? 恐らく、純粋に本を借りて返しに来る人はこの異常な図書室の光景を目の当たりにして、違う日に返却をしているのだろう。俺だって利用者だったら今日みたいな日は利用したくない。
これ以上藪蛇を出したくないので、黙っておく。四宮さんとは他愛もない話をして、他に出来るラベル貼りなどをして時間を潰した。飼ってる猫が可愛いとか、好きな本は歴史系とか嵌まっているものが猫カフェ巡りとか。そんな友達みたいな会話をして、図書室も締めなくてはいけない時刻となった。
鍵を閉めながら、四宮さんが提案をしてくる。
「そうだ! 今度猫カフェ一緒に行きませんか? 猫好き同士。私、一緒に行ける人いなくて……」
四宮さんの友達は猫アレルギーとか猫より犬派とからしく、猫カフェに誰かと一緒に行った事がないらしい。俺も動物全般大好きだし、猫を飼っているので、間髪入れずに返事をする。
「喜んで、お供させていただきます」
「ふふっ。そんな畏まらなくても大丈夫ですよ。同級生ですし、ため口で。来週の月曜日とかどうですか? 夏休みに入りますし」
「え、そう? じゃあ、そうさせてもらうね。わかった、月曜ね。四宮さんもため口でいいよ?」
「いえ、私は敬語が身に付いてしまっているので。もしかしたら、砕けた喋りになる時もあるかもしれませんが、基本はこれなので……気になりますか?」
「ううん、そんなことないよ。じゃあ、来週の月曜日に。場所とかはトークで教えて」
「はい。わかりました。待ち合わせ場所と共に送りますね」
最後にトークアプリを交換し、鍵を返却してから帰るという四宮さんとそこで別れた。猫仲間が出来た嬉しさで足取り軽く廊下を歩く。その姿を見られていたなんて知りもせずに―――。
犬も猫も可愛いですよね。ほっこりします。




