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目覚めたら異世界で人魚だった  作者: 御餅屋ハコ
目覚めたら異世界で人魚だった 第四章
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第四章 11 お嬢様


11 お嬢様


「シン様、私、うろこの色がオレンジと茶色でしょう? だから同じ縞模様のニッコ貝も好きですし、こうしていつもカチューシャに付けてますの。暖色系が好きなんですわ。だから肌の色も、わたくしと同じ黄色っぽい方が好みなんですの。

 ねえシン様、男になってわたくしと結婚する気はありません?」

 私は突然のことに、返事もできずに硬直していた。

 ……そういえば、こういう形の髪飾りをカチューシャと呼ぶのは日本独自の言い方だった気がするなあ、日本語訳されてるから、異世界の人もこれをカチューシャって呼ぶんだなあ。オレンジ色って言葉も、この世界にオレンジってあるのかな、木の実があるからあるかもしれないな、でも日本語訳として赤と黄の中間色をそう呼んでいるだけかもしれないな……。

 身動き一つできないまま、私の頭の中にはそんな思考がめまぐるしく浮かんでは消えていった。

「あら、驚かせてしまったかしら? でもわたくし、今、結婚相手を探してますの。こういうことなんですのよ。ねえあなた、あれを持ってきて」

 トトラは受付の人魚を振り返った。

「あっはい、ギームメーコ様」

 受付の彼女はどこかへ何かを取りに行った。

「えっ……ギームメーコ?」

 私がつぶやくと、トトラは胸を張った。

「そう! わたくしがあの、ギームとメーコの発見者、ハツケン・ギームメーコの直系の子孫ですわ!」

 ハツケン……発見……まんまじゃないか……と思って無言でノアタムを見ると、ノアタムも無言でトトラを見つめていた。だが目が見開かれ、驚いた顔に見えた。

「ご存じでしょう? 今から何千年も前は、わたくしたち人魚の食生活はとても貧しかったのです。植物を栽培してはいましたけど、当時の人魚が畑に植えていた作物は実りが少なく、栄養も乏しかったのです。

 わたくしのご先祖、ハツケン・ギームメーコ様も農場を営んでいらしたのですけど、畑を手入れする手間のわりには収穫が少ないことを悩んでいらっしゃったのですわ。

 だからこのノアタムアの神、ノアタム様にお祈りになったのです。

 栄養が豊富で、我々人魚の主食になるような、おいしい実を付ける海草が見つからないかと……。

 そして、その祈りはノアタム様に届き、ご先祖様は白く柔らかい実を付ける海草を二種類、発見なさったのです。

 ご先祖様はご自分の名前を二つに分け、つややかな実を付ける海草に『ギーム』、でこぼこした実を付ける海草に『メーコ』と、名前をお付けになりました。そしてギームとメーコを自分の畑に持ち帰り、育てることにしたのです。

 ギームもメーコもよく育ち、滋養たっぷりの実を付けるので、たちまち評判になりました。お優しいご先祖様は他の方々にも苗を分けて差し上げました。そしてギームとメーコの栽培はノアタムア中に広がり、我々人魚の生活になくてはならない食べ物となったのです。

 有名な話ですもの、もちろん、ご存じですわよね」

 トトラに言われ、私はあいまいに微笑む。

「ご先祖様は農地をどんどん拡大していき、その広い農場は、今、わたくしのお母様に受け継がれています。そしていずれ、わたくしが後を継ぐことになるのですわ。

 ご先祖様は農地を増やすだけでなく、自分にギームとメーコを授けてくださったノアタム様にお礼をするため、二つの海草を見つけた場所にほこらを建てて、ノアタム様をお祀りになりました。

 ギームメーコ家では毎年、ご先祖様がギームとメーコを見つけた五月に、ノアタム様のほこらにお供えをしてお参りをしてきました。

 ですが時代を経るにつれ、形式だけの物になってきたことも事実です。

 ですのでわたくしのお母様は、今年から毎年五月に、ノアタム様のほこらの周りで派手なお祭りをすることに決めましたのよ。

 わたくしも二十歳になりましたし、そのお祝いも兼ねておりますの」

 二十歳!?と思わず声が出そうになったが、なんとかこらえた。そしてそのタイミングで受付の人魚が何かを持って戻ってきたので、私の動揺は誰にも気づかれなかったようだ。

「ギームメーコ様、こちら、お持ちしました」

 受付の彼女がトトラに差し出したのは、A4ぐらいのサイズのチラシの束だった。トトラはそれを受け取り、一枚を取り上げて私に差し出した。

「今年はこんなお祭りをいたしますのよ。シン様もよろしければいらして!」

 手渡されたチラシには、上半分には大きな字で見出しが、下半分には挨拶文が書かれていた。チラシの全体はギームとメーコを図案化したらしい模様で華やかに飾られている。

 私は日本語訳されたその文面を読んだ。


『ギームメーコ家主催 武闘大会


 時  : 契世暦5999年 五月一日~三十日


 場所 : オーレの町 ノアタム様のほこら周辺


 種目 : 布剣試合、腕相撲大会、早泳ぎ競争、的当て競技など


 毎日各種の試合を開催し、その日の成績優秀者に賞金を進呈



 ギームメーコ家の現当主、ネオーヌ・ギームメーコです。

 今から三千年ほど前の五月、ギームメーコ家の先祖、ハツケン・ギームメーコは、ノアタム様に栄養豊富な作物を与えてくださるように祈り、ギームとメーコを授かりました。

 そのお礼のため、ギームメーコ家はノアタム様を祀るほこらを作り、毎年五月に感謝の祈りを捧げてきました。

 ですが、ギームもメーコも、我々人魚の生活に無くてはならない重要な食物です。

 それを与えてくださったノアタム様への感謝の気持ちを表すには、もっと大々的に人を集めて祝うべきではないかと、わたくしは考えました。

 そこで、きたる契世暦5999年五月には、ひと月の間、ノアタム様のほこら周辺で、武闘大会を開催します。

 武闘大会では様々な種目の試合を行い、それぞれの成績優秀者には賞金を進呈いたします。皆様、ふるってご参加ください。

 観客席や飲食店も十分に用意しますので、試合に参加されない方もぜひいらしてください。

 皆様のお越しをお待ちしております。』


「えっと……」

 私は何を言ったらいいのか迷った。一度に得られた情報が多すぎる。ノアタムに質問出来たらいいが、この場では無理だ。

「ぬのけん……じあい……」

 日本語訳されているとはいえ、ふりがなはないので、自力で読み方を考えるしかない。

「ええ、人魚同士の力比べをするときに、魔物と戦うときに使う武器ではなく、布を固く丸めた『布剣』で打ち合う試合のことですわ。お祭りで勝ち抜き戦を開催すると盛り上がりますわよね。ギームメーコ家が賞金も準備してますし、盛り上がるに決まってますわ!」

 読み方は合っていたようだ。うまい具合に説明もしてもらった。他の種目はなんとなく想像が付く。

 ノアタムに問いただしたいことはいろいろあるが、目の前の彼女に尋ねるわけにはいかない。私が次の言葉に迷っていると、トトラが話し出した。

「チラシには書いてありませんけど、わたくしが成人したお祝いに、人をたくさん集めようって、お母様はお考えなのですわ。

 武闘大会を開催すれば、力自慢の方々が集まるでしょう?

 お母様はわたくしに、その方々の中から結婚相手を探させるつもりですの。

 わたくしも、素敵な方がいたら結婚したいと思っていますわ。

 ですので、シン様もぜひ、武闘大会にいらして!」

 トトラは私に微笑んだ。

 それでさっき結婚と言い出したのか、いやまだ疑問はあるけどそれはノアタムに聞かないと……。私が困惑していると、トトラは続けた。

「ですのでね、わたくし、五月の武闘大会までには、新しい髪飾りが欲しいと思っていましたの。シン様のお持ちになった二つの立派なニッコ貝、わたくしに売ってくださらない? 相場の二倍、いえ、三倍出してもいいですわ!」

 そうだ、私は貝を売りに来ていたのだ。私はそれを思い出し、カウンターの受付の人魚とトトラを見比べた。

「ああ、ええと、私は、かまいませんけど……」

 私が最初に貝を持ち込んだ先は店なのだから、店側はどう反応するのかと気になった。

「あっでも、この貝をカチューシャに加工していただきたいから、まずはこのお店でこの二つを買い取っていただければよろしいのよ。その後で、カチューシャになった物をわたくしに売っていただければよろしいの。

 ねえ、この貝は相場だといくらぐらいになりますの?」

 トトラに聞かれ、受付の人魚は少し考えて答えた。

「……そうですね、こちらの左巻きニッコ貝、おひとつで5,000テニエルほどになります。右巻きニッコ貝は、単体ですと1,000テニエルほどです。ですが二つセットですと、合わせて8,000テニエルほどが相場でしょうか」

 その答えを聞き、トトラは言った。

「でしたら……そうね、30,000テニエル! 30,000テニエルをわたくしからシン様にお支払いしますわ!」

「えっ」

 思わず声が出た。日本円にして三十万円だ。

「いくらなんでも、高すぎなんじゃあ……相場の三倍以上だし……」

「かまいませんのよ。シン様はこんなに素敵な貝を見つけてくださったんですもの、そのお礼ですわ。

 あっもちろん、貝はこのままこのお店でカチューシャにしていただいて、その代金も、私からお店にお支払いしますわ。こちらも、30,000テニエルでよろしい?」

「えっ、ギームメーコ様、でも……」

 受付の人魚も困惑する。私に支払う買取額がただになった上、カチューシャの加工代金が三十万円なのだから、無理もない。

「よろしいんですのよ。わたくしは素敵なニッコ貝が見つかって嬉しいんですもの。あっでも、今それだけのお金は持ち歩いてはおりませんの。手形屋から引き出してこないといけませんわ。シン様、ちょっとお待ちになってて。わたくし、お金を準備してまいりますわ!」

 トトラはそう言うと、店の外に向かって泳いでいってしまった。

「……」

 私は怒濤の展開に呆然とそれを見送るだけだった。

 受付の彼女もしばらく呆然としていたが、やがて気を取り直し、私に言った。

「……では、応接室でお待ちください」

 私は応接室に案内され、そこでしばらく待つことになった。

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