第三章 11 この世界のMPの回復
11 この世界のMPの回復
「ふう、疲れたぁ~!」
「頑張ったな、シン」
店から離れ、伸びをする私に、今まで黙っていたノアタムが肩から声を掛ける。
「これで魔物との戦いで怪我をしても、自力で治せるだろう」
「うーんでも、他人の怪我を治すのと自分の怪我を治すのはまた別じゃない? 自分に痛みがあると集中しづらそうだしさ」
「では、自分の怪我を治す訓練もするといい。腰のナイフで指先などを切って回復魔法を使ってみたらどうだ」
私は腰に下げたナイフを見る。刃渡り三十センチほどの、包丁より大きいナイフだ。当然、刃の厚みも包丁を上回っている。魔物を切りつけるには頼りがいのある厚みだが、これを自分に向けるのは、正直、ちょっと怖い。
「指先をちょっと切るつもりで、ざくっと切り落として、回復魔法どころじゃなくなったらどうしよう……」
「その可能性はあるな。ナイフは小型の刃物とはいえ、殺傷能力の高い道具だ」
「そんなもんで指を試し切りしろとか言わないでよ!」
「自分の扱う道具の危険度を把握しておくのは大事なことだ。ファンタジーRPGなどでは、ナイフは剣や斧に比べ攻撃力の低い武器として扱われることが多い。だが、人間に、この世界の場合は人魚に向ければ危険な物であることに変わりはない。
シンはこの数日で、ナイフの扱い、攻撃魔法のコツ、そして回復魔法のやり方を『思い出した』。
シンは今まで、それらの能力を使って旅をしてきた、わしがそういう設定を作った。
だが、本当は、お前は二日前にこの世界に現れたばかりなのだからな。
ナイフも魔法も、ゲームみたいでかっこいいなどと浮かれているだけではなく、殺傷能力のある物を身につけているという自覚を持って、この世界で生活するのだぞ。
武器も攻撃魔法も、人に向けるのではなく、魔物にのみ向けるようにな」
能力の習得が一段落したので、この段階でノアタムは私に釘を刺したかったようだ。
「はあい。でも、回復魔法は人魚に向けてもいいんでしょ」
「もちろんだ。そういうものだからな」
「でも自主練でナイフを使うのはやっぱりな……。
あっそうだ! カミソリ! 身支度用品の中に、眉用のカミソリがあったよね!」
私はそれを思い出した。昨日の朝、櫛や手鏡と一緒に鞄の中から見つけた物を。
「カミソリで指をちょっと切るぐらいならそんなに怖くないし、回復魔法の練習にちょうどいいかも」
「確かにそうだな。では、これから宿に戻るか?」
「うーん、でも、一時間半みっちり訓練したし、疲れたなあ……。お昼……にはちょっと早いけど、なんか飲むか食べるかしたい」
魔法屋に入ったのは朝の九時ごろ。そして説明を聞いてから一時間半のレッスンをしたので、今は十時半過ぎだろう。町を見渡すと、営業している飲食店も増えてきたようだ。
「そういえばさあ、この世界って、MP回復アイテムとかないの? 私、さっきの訓練で、MPを使いまくったって感じがするんだけど」
「RPGでは、確かにそういうアイテムがあるな。だがノアタムアでは、精神力の回復は適切な休息と栄養のある食事によって行う。
エンフィ水という、シーズ水に薬効のある海藻のエキスを混ぜた飲み物もあるにはあるが、栄養ドリンク程度の効き目だ。一瞬で精神力を劇的に回復させる手段はない」
「そうなんだ。じゃあ魔法を使って疲れたら、ご飯とかおやつを食べてゆっくりするのが一番ってこと?」
「その通りだ。口にして即座に精神力が回復する薬が存在するとなると、その薬を過剰に服用して不眠不休で動き続ける者が現れるかもしれん。それは良くないからな」
「確かに……それにリアルに想像すると、『クタクタに疲れててもその薬を飲んだら、精神力がマックスまで回復しました!』なんて薬、やばい薬物みたいだもんねえ。栄養ドリンクぐらいの効き目の方が安心できるかも」
「うむ。だから疲れたのなら薬に頼るのではなく、何か食べて休むといい」
「じゃ、ちょっと早いけどお昼ご飯にするかあ」
私は辺りを見回し、飲食店の多そうな方向に向かうことにした。




