表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/44

29 分断

勾玉まがたまの制作には、この高蝋石こうろうせきを使用します」

 インストラクターがその石を研磨機グラインダーに当てると、みるみる表面がけずれていく。

 玲七郎と玄田は、『南のムラ』というエリアの体験コーナーで順番待ちをしているところであった。

「メチャメチャやわらかい石っすね」

 興奮気味こうふんぎみに同意を求める玄田に、玲七郎は「ああ、そうだな」とうわの空で返事をした。もっと、違う話がしたいようだ。

「なあ、あの広崎という男、あやしくないか?」

「え? 広崎先輩っすか?」

みょうにテンションが高い気がする。普段はああじゃねえだろ」

「うーん、どうかなあ。あ、もしかして」

 玲七郎は身を乗り出した。

「おお、何だ? やっぱり、何か気づいたのか?」

多分たぶん皐月さつきちゃんが美人だからすよ」

「はあ?」

「ああ見えて、先輩、結構メンクイすから。チェックインに来たお客さまが美人だと、やたらとおしゃべりになるっすよ」

「はっ、バカバカしい!」


 その広崎は、確かに饒舌じょうぜつであった。

 二重環濠にじゅうかんごうになっている『北内郭きたないかく』をけ、『甕棺墓列かめかんぼれつ』のエリアに入ると、出土しゅつどした状態を再現した甕棺がならんでいる。それを見て、ずっと興奮してしゃべっていた。

「だってさ、まるでコクーンみたいじゃん。人間が死ぬのはさなぎになるみたいなもので、やがて本当の姿に生まれ変わる、っていう考えがあったんじゃないかな」

「そうだね」

 風太は、何か異変がないか周囲の状況を油断なく見ながら歩いていた。

 と、少し先に進んでいた皐月が、アッと声を上げた。

 皐月は、地表に置いてある甕棺の横を歩いていたのだが、上下に組み合わさった甕が外れ、中から伸びるガサガサした爬虫類のような腕につかまれていた。

 風太は、「ぬかり坊! 皐月さんをまもれ!」と叫んだ。

 すると、皐月の持っていたトートバッグから僧侶の姿をしたパペットが飛び出した。

心得こころえてござる!」

 パペットから半透明のどろかたまりが抜け出して地上に降りると、地面から土を吸い込み、身長二メートルほど大入道おおにゅうどうになった。

 大入道が甕棺をなぐって割ると、中にかくれていた蜥蜴とかげのような姿の人間は、あわてて皐月の手を離して逃げ出した。

 風太がホッと息をいた時、今度は「助けて!」という広崎の声がした。

 いつの間にか風太から離れていた広崎は、ジャージの上下を着た男に連れ去られようとしていた。男の体は走りながらふくれてジャージがやぶれ、蟇蛙ひきがえる蝙蝠こうもりを足して二で割ったような姿があらわになった。ツァトゥグァだ。

「待て! 慈典しげのりはなせ!」

 ツァトゥグァは走りながら振り返り、「やれるものなら、やってみな!」と嘲笑あざわらった。

「ぬかり坊!」

「ほいほい、いそがしや」

 泥の大入道となったぬかり坊は、意外に早く走り、ずんずんとツァトゥグァにせまった。一歩ごとに土を吸収し、さらに大きくなっている。

 風太は皐月を気にしたが、「わたくしは大丈夫です。広崎さんを!」と言われ、自分も広崎の方へと急いだ。

 すでにツァトゥグァに追いついたぬかり坊は、何とか広崎を奪い返そうとするが、器用に動くことはできないようであった。

 風太は、その場に立ち止まった。小声で数式を呪文じゅもんのようにとなえながら両手の指を組み合わせていんを結び、その形のまま「はっ!」と前に押し出した。すると、結ばれた印から星形ほしがたの光がはなたれ、ツァトゥグァの目の前でパッとはじけた。

「うっ」

 一瞬、ツァトゥグァの目がくらんだすきに、ぬかり坊が広崎の体をつかんだ。

 反撃して来るかと思われたツァトゥグァは、あっさり逃げ出した。

 だが、ホッとしたのもつかの間、反対側から「きゃあ!」と、悲鳴があがった。皐月が蜥蜴人間に取り囲まれている。

「ぬかり坊!」

「ほいほい。おばばの言うとおり、式神しきがみづかいの荒い若君じゃな」

 ぬかり坊は文句を言いつつも、その場に広崎を降ろすと、皐月の救援きゅうえんに向かった。

 それを見届け、風太は広崎に駆け寄った。

「慈典、大丈夫か?」

「こ、こわかったよ」

 おびえる広崎を助け起こそうと、風太が手を差しべた時、「気をつけてください! それは広崎先輩じゃありません!」という叫び声がした。

 驚いて声の方を見ると、相原が走って来るところだった。

 だが、その一方で、風太の差し出した手は、広崎にガッチリと握られていた。

「風太、だまされないで! あのはきっと魔物に取りかれているんだよ!」

 風太は、激しくまよった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ