第25話 加勢
空には飛行型の魔獣。
大地には四足型の魔獣。
さらに、土蛇が土の中から現れ、カースが紙を裂いたような奇声を上げて、中空を彷徨っている。
その数500匹以上、
種類においては、30を越えるだろう。
全天全地を覆い尽くし、スキルイーターを取り囲んでいた。
『どうよ、カイル』
岩山の上でビーストビーズは手を広げた。
『いくらお前が優秀な騎操者でも、スキルイーターの性能が高くても、これだけの魔獣が相手では一溜まりもねぇだろ』
「ぐっ……」
『加えて、てめぇはガス欠状態だ。さあ、どうする? 聞くまでもねぇか。お前は死ぬしかねぇんだよ』
バンズの言葉が愉悦に歪んでいく。
ひぃぃぃぃ、と喉を引きつらせながら、高笑いを浮かべた。
歯がみしながら、カイルは考えた。
相手の数、その戦力、そして自分の力を差し引く。
どうしても勝てるプランが浮かばない。
ネガティブな思考だけが、頭の中を埋め尽くしていく。
「ミリオ? MPは?」
『まだだ』
絶望的な答えが返ってくる。
しかし、【炎魔法】スキルを1発撃ったからといって、すべての魔獣を倒せるわけがない。再びチャージが完了する間、魔獣の猛攻を凌ぎきる自信はなかった。
万事休す。
そんな言葉が脳裏に浮かんだ。
「アイーナ……」
「は、はい!」
「スキルイーターが囮になるから、君だけは脱出してくれ」
「でも、カイルさん! 私がいなくなったら動かせないんじゃ」
「そうだ。でも、ここで君を死なせるわけにはいかない」
「ダメです!」
アイーナは叫んだ。
「私の命は、像の前でお願いした時から決まっています」
「でも――」
「私は降りません! カイルさんを置いてなんて……できません!!」
『カイル……』
ミリオが声をかける。
彼女の言わんとしていることはわかった。
アイーナは降りない。
彼女の強い意志を曲げることはできない――そう言いたいのだろう。
「わかった。もう何も言わないよ」
カイルは剣を正中に構えた。
悪あがきかもしれない。
だが、今は自分の出来ることしか出来ない。
ならばそれをやり遂げるだけだった。
「行くぞ!」
『はっ! さようなら、スキルイーター』
魔獣の群が、黒い波のようにスキルイーターを襲ってきた。
と、その時だ。
『でやああああああああああああ!!』
鬨の声を聞こえた。
3時方向。それも複数だ。
精晶窓を見つめる。
魔獣が切り裂かれ、あるいは突かれ、魔法のスキルで薙ぎ払われていく。
『なんだ?』
慌てたのバンズの方だ。
映水晶を動かし、状況を確認する。
「カイルさん!」
『あれは!』
「バダイさんだ!!」
【亜人騎】あるいは、白兵の人種が、魔獣相手に戦っていた。
『カイル! 生きてるか!?』
元気なオヤジ声が聞こえてくる。
なんだかホッとしてしまった。
『はい! なんとか!!』
カイルは外部音声で応じながら、目の前の魔獣を叩き斬った。
『山を下りたんじゃ』
『山ってのはな。下りたら、また昇るもんだ。俺らは撤退したんじゃねぇ。援軍を呼んでいたのさ』
『援軍?』
すると、今度は8時方向からも鬨の声が聞こえてくる。
振り返ると、銀色の【亜人騎】が、魔獣を蹴散らしていた。
『カイル! 無事!!』
『もしかして、ニールさん』
『久しぶりって挨拶してる場合じゃないわね』
ニールの【亜人騎】は大弓を引き絞ると、次々と飛行型の魔獣を仕留めていく。
『まさかマレルドさんも?』
『隊長は帝都に残って、あのデカブツをくい止めてる』
『マレルドさんが!?』
『でも、正直私たちの手には負えない。あなたの力が必要なの。少なくともアミニジアさんはそう言ってる』
『でも……』
『私もそう思う。だから、ごめん。カイル、私たちを助けて!』
『わかりました!』
『魔獣は私たちが引き受けるわ』
『おう。俺らに任せて、あのしょんべんみたいな色の騎体をぶっ壊してこいや! どうせあいつが悪玉なんだろ!』
バダイは魔獣を真っ二つにする。
そこかしこで、【亜人騎】と魔獣の戦いが繰り広げられる。
次第に、スキルイーターとビーストビーズの間に道が出来ていった。
目頭が熱い。
カイルは鼻を啜った。
「いけ! カイル!」
「行きなさい! カイル!!」
それぞれの騎手室で、バダイとニールは叫んだ。
カイルは操縦桿を押し込む。
踏み板を蹴っ飛ばした。
精励起動機が輪転し、動力はマックスを迎える。
「カイル・バレッド! 行きます!!」
大砲で打ち出されたかのようにスキルイーターは突進した。
仲間たちが作ってくれた花道を通り、ビーストビーズに向かっていく。
『ちぃ!!』
バンズはその動きを察知すると、得意の鎖攻撃を放つ。
1つは剣で弾き、1つはステップでかわす。
だが、攻撃はそれで終わらない。
ビーストビーズは鎖を操ると、その先端がスキルイーターに戻ってくる。
カイルは冷静だった。
前へと前進しながら、反転すると剣で払う。
地中に深く突き刺さり、鎖は動かなくなる。
鎖攻撃が封じられたバンズは、【魔獣操作】を発動。
スキルイーターの行く手を魔獣で固めた。
『カイル! チャージ完了。1発ならOKだ』
「よし!」
手を掲げる。
「炎よ!!」
【炎魔法】スキルを繰り出した。
烈火の炎が、魔獣たちを焼き尽くす。
レベル999の炎は、ガロンデイルのような甲殻を持たない魔獣を一瞬にして焼き尽くしてしまった。
『チィ!』
炎は後ろに控えていたビーストビーズにまで届く。
何とか範囲外から逃げると、再度魔獣たちに襲わせようとした。
しかし――。
『スキルイーターがいない!』
炎で一瞬、精晶窓が埋まり、見失ったのだ。
映水晶を動かし、スキルイーターを探す。
結果的にその必要はなかった。
カイルはただ真っ直ぐ進んでいただけ。
自分が放った炎を突き抜けただけなのだ。
火柱の中から、スキルイーターが現れる。
大剣を大上段に構え、振り下ろした
『しま――――』
悲鳴は鋭い金属音にかき消された。
「な!」
『なにぃ!』
スキルイーターの騎手室内で、驚愕の声が漏れる。
大剣はビーストビーズに届いていなかった。
それどころか根本から折れていた。
刃の欠片が空中で回転し、岩肌に突き刺さる。
武器が無力化された。
それでもカイルは精晶窓から目を離せなかった。
映っていたのは、ビーストビーズとは別騎体。
灰色の騎体だった。
「まさか!」
『貴様、ディルブレイド!!』
灰色の騎体は大きな鎧を纏ったような姿をしていた。
その兜となる頭部に、2つの赤い光点が光る。
スキルイーターの剣を難なく弾くと、ビーストビーズの肩に手をかける。
『遅いぜ。マーローの旦那』
「な! マーローだって!」
しかし、返答は返ってこない。
『残念だったな、カイル! ビーストビーズを破壊できれば、お前の勝ち。勝利できなくとも、俺から【魔獣操作】を奪えば、最悪ガロンデイルを止められたのにな』
「まさか! 待て! バンズ!!」
『待たねぇよ。じゃあな、スキルイーター。生きてたら、また会おうや』
するとビーストビーズとディルブレイドは黒い闇に覆われる。
カイルは踏み板を踏み抜き、距離を詰めるも、1歩遅い
伸ばした巨手が空を切る。
2体の【極神騎】は消えていた。
『く! しまった! 唯一の解決策!』
ミリオは悔しがる。
一方、カイルはシートに寄りかかる。
ぼんやりと上を見ながら呟いた。
「マーロー……。君は一体……」
明日もよろしくお願いします。




