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第24話 窮地

 気がつけば、精晶窓(グリッド)に顔を押しつけていた。


 騎手室(ヤード)の中は真っ暗だ。

 一部隔壁が崩れ、魔力が緑色に光っていた。


 カイルはハッと顔を上げる。

 自分が何をしていたのか、ようやく気付いたのだ。


「アイーナ! ミリオ!!」


 狭い騎手室(ヤード)でカイルの声が反響する。

 振り返ると、前部座席にもたれかかるようにアイーナが気絶していた。


『カイルか?』


 そのアイーナの口から声が漏れた。

 ミリオだ。


「ミリオ、大丈夫?」

『ああ。なんとかな。アイーナも無事だ。今は意識を失っているようだが』

「そう。良かった」

『ともかくスキルイーターを再起動する。少し待ってくれ』


 しばらくして騎手室(ヤード)が明るくなった。

 損傷は見られるが、目に見える限り大丈夫そうだ。


 問題は外装の状態がどうなっているかだ。


 スキルイーター

 Lv 999

 DP 7135

 MP 8


『外装は軽微だ。おそらくだが、ほとんど無傷といってもいいだろう』


 直前まで【透過】のスキルを使っていた。

 それでダメージを通らなかったのだろう。


精晶窓(グリッド)は真っ暗だ」

『おそらく土の中だな。大方、我々が掘った落とし穴に落ちてしまったのだろう』

「まさに墓穴を掘る、か」

『冗談をいってる場合ではないぞ』

「ごめん。ともかく、【穴掘り】を起動するよ」

『待て。MPが足りない。自然回復するまで待て』

「あ。そっか……」


 さしもの『業を喰らいし者』もMPが足りなければ、スキルは使えない。

 ミリオは精励起動機(グラード)を最大発揮させる。


『大気中ではないから、魔素(マナ)の変換効率が悪いな』

「ミリオ。それよりも何が起こったかわかった?」

『ああ。あれはガロンデイルだ』

「そう……だよね」


 信じられないことだが、精晶窓(グリッド)に映っていたのは、ガロンデイルだった。それも通常のサイズの10倍以上ある。

 まさに山のような魔獣が、突然背後から現れたのだ。


「あんなサイズのガロンデイルが王都を襲ったら……」

『間違いなく壊滅するだろうな』


 カイルは唇を噛む。

 一体、自分がいつまで寝ていたのかはわからないが、一刻も早く超巨大ガロンデイルを追わなければならない。

 そうこうしているうちに、アイーナも目を覚ました。


「アイーナ、大丈夫?」

「は、はい! 私は一体……」

「話は後だ。ミリオ!」

『よし! 最低限のMPは溜まった。スキルを使用していいぞ』


 カイルは操縦桿を動かす。

 【穴掘り】のスキルを使って、地上を目指した。

 無事脱出する。

 太陽(ルヴル)が眩しい。


 目を細めるカイルだが、その時再び影が覆った。


 ガロンデイルか――と思ったが、違う。

 それと比べれば、小さな影。

 だが、そのシルエットは明らかに魔導兵器と思われる騎体のものだった。


 全体が黄色に染まった騎体は、特徴的な姿をしていた。

 獅子の鬣を思わせるような毛が生えた頭部。

 さらにその四肢のようなしなやかなフォルム。

 二等辺三角形の緑の瞳を光らせ、両手から2本のごつい鎖を垂らしていた。


「あれは!」

『【極神騎】ビーストビーズ!!』


 騎手室(ヤード)で、2人は驚く。

 唯一、事情を知らないアイーナが質問した。


「知っている騎体なんですか?」

「ああ」

『よく知っている……。5000年前、“虚無”の【極神騎】側に与し、最後は我らに敗れ去った騎体だ』

「まさか……。本物なのか?」

『【鑑定眼】を起動するぞ』


 ビーストビーズ

 Lv 999

 DP 8400

 MP 4560

 保有スキル

 【魔獣操作】   Lv999

 【魔獣特攻】   Lv999

 【鞭装備】    Lv800

 【念動力】    Lv500

 【炎耐性】    Lv250

 【森地形能力増】 Lv300


『私が知るヤツの能力とも一致する』

「じゃあ、あれは本当にビーストビーズなのか」


 カイルははっきりと覚えていた。

 5000年前、ビーストビーズにトドメを刺したのは自分だ。

 爆散したのも、騎操者(ベンター)が死亡したのも確認している。

 だが、再び彼の前に現れた。


 思えば、フレイムダストにしてもそうだ。

 あの騎体も、かつてスキルイーターが破壊した1騎。

 なのに、再びスキルイーターに襲いかかってきた。


 どちらとも再構築され、蘇ったとしかいいようがない。


「同型の騎体ということはないのでしょうか?」

『ないわけではない。だが、【極神騎】といえる者は1つしかない。“神を極める”ため、何万何千体という騎体の中から、それぞれのエキスパートを厳選し、【極神騎】といわれるようになるのだ。だが――』

「俺にはわかる。あれは本物のビーストビーズだ」


 カイルは断言する。

 そして、聞こえてきた外部音声の声を聞き、確信へと変わった。


『よう……。カイル・バレッド。元気だったか?』


 男の声だった。

 滲み出た殺意を全く隠そうとしない。

 そんな印象だった。


 カイルとミリオは同時に絶句する。


「まさか……」

『バンズ・ミリットなのか!?』


 騎手室(ヤード)で叫んだ。


「ビーストビーズの精霊ですか?」


 アイーナは尋ねるのだが、2人の様子からして違うことは察していた。


 1度、カイルは息を呑む。

 やがてミリオが口を開いた。


『ビーストビーズの騎操者(ベンター)だ』

騎操者(ベンター)って! それじゃあ、昔戦ったていう」

「そうだよ、アイーナ。5000年前、倒した騎体と騎操者(ベンター)が今、俺たちの前にいるっていうことになる」

「そんな――」


 沈黙するスキルイーター。

 対して、ビーストビーズの外部音声からは、笑い声が聞こえてきた。


『驚いているようだな、カイル』

「当たり前だ! ビーストビーズが目の前にいるのにも驚くのに、お前まで」

『なんだよ、喜んでくれねぇのかよ。つれねぇなあ。久しぶりの再会なのによ』

『旧交を温めるほど、我らは親しくなかったと思うが』


 ミリオが口を挟む。


『相変わらず、スキルイーターの精霊はよく喋るね。うちの精霊は無口すぎて、ホントつまんねぇ。どうだ。久しぶりの再会だ。なんか言えよ、マノン』

『…………』

『全く無愛想だろ。張り合いがねぇ。交換してほしいもんだぜ』

「ご託はいい、バンズ。何故、お前が生きている?」

『お前が言うかよ』


 ハッ、とバンズは笑った。


『カイルだって生き返ったんだろ? だったら、俺様が生き返ってもなんらおかしくないはずだ』


 おかしくないはずがない。

 何者かが彼を生き返らせたとしか考えられない。

 カイルの脳裏にいくつか候補は浮かぶ。

 が、今はそんな詮索をしている場合ではなかった。


「カイルさん! あれ!」


 アイーナが突如、精晶窓(グリッド)の端を指さす。

 そこに映っていたのは、超巨大ガロンデイルが王都を目指す姿だった。


『おっと。お喋りしている場合じゃないと思うぜ。このままじゃ。ラング王国は壊滅の危機だ』


 バンズはせせら笑う。


「お前が操作したのか」

『おうよ。ビーストビーズは“魔獣使い”の【極神騎】。どんな魔獣でも操ることが出来る。さっきてめぇが殺してくれたガロンデイルも俺が操作をしたんだぜ』

「何故、こんなことをする?」

『何故って……。その方が面白いに決まってるじゃねぇか』


 ははは、と大笑いを上げる。

 カイルは操縦桿を強く握りしめ、ミリオは叫んだ。


『相変わらず、糞尿で出来たような下劣なヤツだ』

『おうおう。スキルイーターの精霊さんよ。言っていいことと、悪いことはあるぜ。俺のガラスのハートを掴まえて、糞尿だと』

『何とでも言おう。貴様の精神は、糞を喰らう羽虫にも劣る』

『うるせぇ! 黙れや!!』


 ビーストビーズは腕を振るった。

 2本の太い鎖が真っ直ぐスキルイーターに向かってくる。


 カイルは鮮やかにかわす。

 踏み板をベタに踏み抜き、接敵した。


「ミリオ! ビーストビーズを破壊して、ガロンデイルを止める!!」


 騎手室(ヤード)でカイルは叫んだ。

 操縦桿を押し込むと、手を伸ばす。


 しかし――。


『かかった』


 卑しく歪んだ口元が目に浮かぶようだった。

 ビーストビーズは地面を叩く。


『おら! 出てこい!!』


 瞬間、スキルイーターの行く手を阻む影が現れた。

 見上げると、魔獣の口がぱっくりと開いているのが見える。


土蛇(グリーム)!!」


 先日、バダイたちとともに狩った魔獣が現れた。


『カイル! 囲まれているぞ!!』


 精晶窓(グリッド)には土蛇(グリーム)の壁が出来ていた。

 すると、一斉に襲いかかってくる。


「炎よ!!」


 【炎魔法】のスキルを使うが、手から火球は現れない。

 精晶窓(グリッド)には『MP不足』と表示されていた。


『カイル! まだMPは――うわあああああああ!!』


 騎手室(ヤード)が激しく揺れる。

 精晶窓(グリッド)には四肢を土蛇(グリーム)に掴まれたスキルイーターの姿が映っていた。


「くそ!!」


 カイルはなんとか振りほどく。

 1体の首を斬り、さらにもう1体を袈裟に斬った。

 怯んだ瞬間、なんとか土蛇(グリーム)の群から脱出する。


 直後、ビーストビーズの鎖が飛んできた。

 カイルは咄嗟に剣で払う。しかし、1本だけだ。

 左肩に当たる。

 幸い装甲部だった。あまりダメージはない。

 それでもスキルイーターの体勢を崩すには、十分な威力を秘めていた。


 そこに土蛇(グリーム)が殺到する。

 再び騎手室(ヤード)は激しく揺れた。


 それでもDPの消耗は微々たるものだが、このままではビーストビーズに近づくことも出来ない。

 今さらだが、ガロンデイルにすべて使ってしまったMPを少しでも節約しておけば良かったと悔やむ。


「ミリオ! 【炎魔法】を撃てるのはいつ?」

精励起動機(グラード)の魔力をほとんど騎体の制御に回しているから、回復が遅いのだ。1発を打つだけでも、戦いながらではまだしばらく時間がかかる』


 カイルは奥歯をギリッと噛んだ。

 なんとか土蛇(グリーム)を捌きながら、精晶窓(グリッド)の端に映った超巨大ガロンデイルを見つめる。

 すでに山間部を下り、平野へと出ていた。


 王都の方もにわかに騒がしくなっている。

 城門から【亜人騎】の部隊が出撃しつつあった。


 しかし、【亜人騎】ではあのガロンデイルは倒せない。

 いや、スキルイーターですら難しいかもしれない。


 もはやビーストビーズを倒す以外、打つ手はない。


 カイルは斬って斬って斬りまくった。

 MPはないが、常態スキルである【剣技】は使用できる。

 今は、土蛇(グリーム)を殺しまくるしかない。


 ようやく目の前に道が開ける。

 ビーストビーズの騎影が見えた。


「覚悟しろ! バンズ!」


 土蛇(グリーム)の嵐を抜け、スキルイーターは突撃する。

 ビーストビーズは動かない。

 ただ外部音声から高い指笛が聞こえた。


 地鳴りが鳴り響く。

 四方八方から砂埃が舞い、空が暗くなる。


「まさか!」


 スキルイーターを停止させる。


 カイルは目を見開いた。

 精晶窓(グリッド)一杯に魔獣の群が映っていた。


ブクマ・評価をいただきありがとうございます。

明日もよろしくお願いします。

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