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第10話 宴

タイトルをまた変更しましたm(_ _)m

「なあ、騎士団の人……」


 辺境派遣騎士団は、司令官であったガードローに縄をかけながら、振り返った。

 青年が手を挙げて近づいてくる。

 すると、副官らしき男が黙って頭を下げた。


 カイルは1度、ガードローの方を見た。

 目は放心し、焦点があっていない。

 綺麗な金髪は枯れ木のようにしなびて、一気に10歳ほど老け込んで見える。

 そこにもう、辺境派遣騎士団司令官の姿はなかった。


 騎士団は一部部隊を残し、本国に帰るらしい。

 ガードローは軍法会へと送られ、追って沙汰が下される。

 そうさっき、カイルは説明を受けた。


「もしさ。あんたたちが司令官を掴まえて不利になるような立場になったら、遠慮なく俺を悪者にしてほしい」

「それは――」


 副官は息を呑む。


「結果的に悪いヤツだけど、あんたたちの司令官を傷つけたのは間違いなく俺だ。色々とややこしいこともあるだろう。その時は俺の名前を出してくれていい」


 副官は目を閉じ、じっと考えた。


「わかりました。お言葉に甘えます。ですが、そうならなように尽力しますので。ご心配なく」

「まあ、そうしてもらえると助かるかな」


 カイルは苦笑しながら、正直に言った。

 世界の救世主になると誓った人間が、お尋ね者では洒落にならない。


「もう1度、お名前を」

「カイル。カイル・バレッド……」

「そのお名前……。一生忘れません」

「なんか照れるな」


 顔を赤くし、鼻の下を掻いた。


 こうして騎士団は撤兵していった。

 それを見送り、カイルは後ろへと振り返る。


 アイーナが立っていた。


「カイルさん、帰りましょう」

「帰るって?」

「私たちの村に……。改めて歓迎させてください」


 そしていつもの花のような笑顔を浮かべるのだった。



 ★



 アイーナの村に帰ると、彼女の口からすべてが明かされた。


 盗賊団が壊滅したこと。

 その盗賊団と辺境派遣騎士団が裏で手を取り合っていたこと。

 首謀者である司令官を捕まえたこと。

 それらすべて――カイルの力によって為されたことであること。


 村長やアイーナの父、その他大人の猫耳族は、まるでお伽話か英雄譚でも聞くかのように耳を立てて、じっと黙っていた。

 話を終えると、我先にアイーナの隣にいたカイルに群がった。


「ありがとう」という感謝の言葉とともに、「すまない」という謝罪も溢れた。

 そうしてあれよあれよという間に、夜になり、宴が催されることになった。


「いいのかな? 村があんなことになったばかりなのに」


 カイルは複雑な心境を吐露する。

 しかしアイーナも、他のみんなも意に介していない様子だった。

 むしろ喜んで宴の準備を進めている。


「もう盗賊団は来ませんし。それにみんなも一時でいいから辛いことを忘れたいんだと思います。だから、カイルさん。楽しんでくださいね」


 そういってアイーナは、宴の準備にかり出されていった。


 しばらくカイルは村長と話をした。

 ミッドグリードのこと。

 人種、亜種、エルフ、ドワーフ、そして魔族。

 大地に生きる種族。その中にあって、特に亜種は差別を受けていること。

 『悪魔の騎体(ムッシュ・プルセルド)』と呼ばれたスキルイーターのことについても聞いてみたが、アイーナから聞いた話以上のことは聞けなかった。


 そうしてしばらく休んだ後、宴が始まった。


「うわ――」


 息を呑んだ。

 いつの間にこんなのが出来たのか。

 椅子やテーブルが設えられ、宴の中心部には櫓まで出来ている。


 カイルが登場すると、どこからか笛と太鼓の音が聞こえてきた。

 アイーナと同じ年頃の少女が手を引くと、宴の中央へと連れて行かれる。


 すると盛大な拍手とともに……。


「にゃー」

「にゃー」

「にゃおおん」

「なー」


 歓声が上がった。

 長老から紹介を受け、さらにボルテージが上がる。


 座椅子に通されると、目の前に次々と料理が置かれた。


「食糧は貴重なんじゃないの」


 カイルは初めは遠慮したが。


 ぐごごごごごご……。


 突然、お腹が盛大な欠伸(ヽヽ)をし始めた。

 思えば、昨日の夜から何も食べていない。

 カイルは珍しく顔を真っ赤にする。

 猫耳族は大笑いして、さらにテーブルの上に料理を置いてくれた。


「じゃ、じゃあ……。遠慮なく」


 目の前にドカンと置かれた肉料理に手を出した。

 一口頬張る。


「う、うまい!!」


 思わず唸った。


「そいつは良かった。それは私の自慢の料理なんだよ」


 猫の目をまん丸くさせた雌の猫耳族が、嬉しそうに尻尾を振った。


「ちなみに何の肉なんだ」

「大鼠の肉さ」

「ね、ねずみ!!」


 驚きのあまり、カイルはごくんと飲み込んでしまった。

 猫耳族の女は声を上げて笑う。


「にゃははは。人種は鼠を嫌うからね。その反応は仕方ないか」

「あ。ごめん。折角作ってくれたのに」

「いいさいいさ。でも、美味しいだろ?」

「うん! すごくうまい」


 カイルはもう1度口にする。

 今度は良く味わって食べた。


 やはり旨い。


 鼠の肉とは思えないほどジューシーだ。

 食べる時には「とろっ」と入ってしまうのだけど、噛み砕くと肉の弾力がしっかりと返ってくる。

 舌で転がせば、肉の甘みと野生の風味が混然となり、数種類の味覚で刺激してきた。これが鼠の肉とは信じられない。


「鼠って独特の臭みがあってね。それを消すのが難しいんだけど、これを使うと綺麗さっぱりなくなるんだよ」


 1枚の皿をカイルの前に置いた。

 見たことのある木の実がのっている。


「これってティコの実?」

「お。よく知ってるね」

「煎じて飲むんだって聞いたけど」

「そう。でも、臭み取りにはもってこいなんだよ。大鼠もこれが大好物なんだ」

「へぇ?」

「食べるかい?」


 皿を目の前に差し出す。

 カイルは苦笑いを浮かべながら、断った。

 あの苦さは、まだ舌に残るほど壮絶だったのだ。


「カイル殿? どうですか、一献……」


 横に座った村長が小さな樽に入ったものを薦めてきた。

 2つ杯が用意され、カイルと村長の前に置かれる。


「村長……。程々にしておきなよ」


 それを見た女がたしなめる。


「わかっておる」

「それってもしかして、お酒?」

「カイル殿はお酒は?」

「いや、飲んだことない。初めてだ」

「なるほど。何事にも初めてはあるものですぞ」


 会話をしながら、村長自ら杯に酒を満たしていく。

 透明で、水よりも綺麗に見えた。


「リャンという植物から作られたお酒です。乾燥に強い特性をもってましてな。この辺りでもよく育ちます」

「へぇ……。あ。いい匂い」


 香りを嗅ぐと、果実のような甘い匂いがした。


「そうでしょうそうでしょう。では――」


 杯を掲げる。

 釣られてカイルも杯を差し出した。

 軽く木の杯同士を接触させる。


 すると、村長は一気に呷った。

 それを見てから、カイルも一気に嚥下する。


「む――」


 カイルの顔がみるみる赤くなる。

 一瞬吐き出しそうになったが、なんとか堪えた。

 口の中で留めておくのをきらい、一気に飲み込もうとしたがそれもいけない。

 喉を何か酸でも浴びせられたかのように、ピリピリと刺激した。


「ぷは!」


 やっと飲んだと言う感じで、杯を置く。


「にゃはははは……。なかなか良い飲みっぷりですなあ、カイル殿」

「こ、これがお酒…………」


 とにかく熱い。

 ひたすら喉が痛い。


「お酒初心者の人間に度数70度の酒を飲ませるなんて」


 女の人はたしなめる。

 村長は全く反省の兆しもなく、陽気に笑うだけだった。


「いやー、すまんすまん。こうやって若いもんに酒を乗せるのが、わしの生き甲斐での。にゃはははは」


 手酌でまた酒を呷る。

 村長は慣れているらしい。

 顔こそ赤くなっているが、高度数のお酒を全く意に介していない。


 ――お酒に強いスキルでも持っているのかな。


 だとしても、【暴食】を使って奪いたいとは思わなかった。


 すると、鳴り響いていた音楽のリズムが変わる。

 賑やかな曲から、スローテンポの曲に転調すると、櫓の後ろから多くの猫耳族が現れた。


「――――!」


 きわどい衣装に身を包み、身をくねらせ踊り出す。


 ――いいのかな。胸とお尻とか見えそうなんだけど……。


 はわわわ、と猛烈に羞恥心がこみ上げてきた。

 だが、見ないという選択肢は、男の子であるカイルにはなかった。


 踊りがはじまると、宴はさらにヒートアップしていく。

 にゃおおおん、という歓声なのか遠吠えなのかよくわからない奇声が飛んだ。

 横の村長も年甲斐もなく喜び、ピーピーと指笛を鳴らす。


 ナオンという踊りらしい。

 側にいた猫耳族に教えてもらった。


「身体全体よりも尻尾の動きが重要なのよ」

「へぇ……」

「ちょっとエッチな感じで動くのがコツよ」

「え……?」


 と聞き返すも、女の猫耳族はウィンクで返すだけだった。

 確かにくるくるとよく尻尾を動かしている。

 中にはおいでおいでと誘うと、1人の男が現れ、一緒に踊り始めた。


 酔いが回ったカイルの視界に、アイーナが映る。

 列の後ろの方で、ちょっとぎこちない感じで身体をくねらせていた。

 ちょっと恥ずかしそうだ。

 でも、それがまた可愛くて、カイルはずっとアイーナの方を見続けていた。


 少女はつとカイルと視線が合う。

 こっちを見ていることに気付くと、ますます顔を赤くした。

 もうやめてー、と言いながら、今にも駆けだしていきそうだ。


 それでも、アイーナは可愛い。

 やはりカイルは、ずっと少女を愛で続けた。


次は今夜中に投稿します。

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