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【暴食】スキルで“楽々”世界を救うことにしました。  作者: 延野正行
起動編

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第11話 願い

 宴もたけなわという中で、カイルは中座した。


 原因は単純明快。

 酔ったのだ。


 吐くほどでなかったが、頭がびりびりと痛い。

 お腹もゴロゴロとしていて、気持ち悪かった。


 ともかく新鮮な空気を求めて彷徨う。

 気付けば、スキルイーターの前に座っていた。


 装甲に顔を付ける。

 ひんやりとしていて冷たい。

 この騎体が、昨晩、灼熱の海の中で戦っていたとは、誰も信じないだろう。


 うとうとしていると、人の気配を感じた。


「おーおー。いたいた」


 壮年の猫耳族の男だった。

 手には杯と木の実は入った袋を下げている。


「アイーナのお父さん」

「ヴヴロという。アイーナが世話になったな」

「とんでもない」


 カイルは起き上がろうとするも、足がもつれて上手く立ち上がれない。


「にゃははは……。村長にやられたな。俺も昔やられたよ」


 苦笑する。

 持っていた杯と木の実を渡した。


「水とティコだ」

「ティコ?」

「噛み砕かずに水と一緒に飲むといい。いくらかマシになるはずだ」


 言われた通り、飲んでみた。

 効果の程はわからなかったが、お腹のムカムカが和らいだような気がする。


 ヴヴロはカイルの横に座った。


「アイーナから全部聞いたよ」


 ヴヴロの言葉は、ティコの実よりもずっと酔い覚ましに効いた。


 カイルは姿勢を正した。

 ヴヴロは手で「畏まらなくていい」と指示したが、青年は譲らなかった。


「すいません」

「君が謝ることじゃない。アイーナも覚悟しての行動だ。……娘には少し叱ったがね」

「俺のせいです。俺に力がなかったから。彼女を――」

「そうなのかもしれない。……だけど、カイル君。今はどうなんだ?」


 膝に置いた拳を1度ギュッと握りしめる。

 カイルは一拍置いて、自らの言葉を噛みしめるように告げた。


「絶対なんて無責任にはいえないです。――けど、娘さんを守ります。必ず!」


 じっとヴヴロはカイルを見つめる。

 アイーナと同じ青い瞳。

 今まであったどんな人間よりも恐ろしく、そして雄大だった。


 父親の目といえばいいのだろうか。

 子供のためならどんなことでもする。

 瞳の奥に、そんな覚悟が見て取れた。


「うん。わかった。娘を頼む、カイル君」

「はい」


 表情にこそ出さなかったが、内心ではホッとした。

 やはり反対されるのではないかと思っていたからだ。


「実は、娘が村から出ていくことには反対してないんだ。そういうのは、もう随分前に卒業したのでね。決着はとうについていたんだよ」

「アイーナは王都の魔法学校に通ってることと何か関係が……?」

「あの時は随分と揉めたよ。……でも、娘は本気だった。あいつが魔法を学びたいという理由を聞いたことは?」


 カイルは首を振った。


「アイーナの母親はあいつが幼かった頃に亡くなってね」

「――――!」

「魔獣に襲われて、アイーナもその瞬間を見ていた。それからしばらく塞ぎ込んでね。母親を守れなかったことをずっと悔やんでいた。自分がもっとしっかりしていればってね」

「それで魔法を?」


 ヴヴルは頷く。


「あいつは猫耳族でも珍しく運動が得意じゃなかった。けれど、頭はいいことに気付いた。それに気付いたのは母親だったけど、まさか本当に魔法学院に入学できるとは思わなかった」

「それはきっとヴヴルさんの教育の賜物ですよ。彼女は頭がいいこと以上に、優しく誠実ですから」

「うん。……そうか。他人にそう言ってもらえると、父親としては鼻が高いな」


 ヴヴルは立ち上がる。

 青年の肩に手を置いた。


「俺からいえることは1つだけだ、カイルくん」


 頭を下げる。


「娘を頼む」

「わかりました。全力で守ります」


 そうしてヴヴルは宴会場の方へと戻っていった。


 カイルもそろそろ戻ろうと思った矢先、人影が足先に伸びてきた。

 顔をあげる。

 アイーナが立っていた。


 さっきの踊りの衣装の上に、上着を1枚羽織っている。


「カイルさん」

「やあ……。アイーナ」

「こんなところで何をしているんですか?」

「酔い覚ましかな」


 ははは、と力無く苦笑する。

 アイーナは一度宴会場の方を振り向いた後、質問した。


「あのこっちに父がきませんでしたか?」

「さっきまでここにいたよ」

「え? そうなんですか? 何か父と話しました?」

「娘さんを頼みますって」

「にゃん!」


 小さな肩をビクリと震わせる。

 耳を畳み、尻尾をせわしなく揺らした。


「座ったら」


 カイルはポンポンと隣の地面を叩く。

 迷った挙げ句、アイーナは。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 と座った。

 心なしか表情は上気しているように見える。


「「あの……」」


 2つの声が見事に掛け合わされる。

 お決まりの問答が始まり、結局カイルが先に言った。


「アイーナ……。本当にごめん」

「もしかして私を巻き込んだこと悔やんでます」

「もちろんだよ。だから――」


 アイーナは神妙な顔で俯いた。


「ひどいな、カイルさん」

「え?」

「私が付いていくことが、そんなにイヤなんだ」

「え……。あの、その……。そういうわけじゃなくて」

「私は、とても嬉しいんです」

「嬉しい?」

「カイルさんと一緒に旅することが出来るから」

「それは――」


 少女の意外な言葉に、カイルは完全に虚をつかれた。


「でも、やっぱり迷惑ですか?」

「そ、そそそそんなことはない。嬉しいよ。俺も……。アイーナと一緒に入れて」


 顔がすっごく熱い。

 口の中に溶岩でも放り込まれたかのようだ。

 アイーナと目が合わせることができない。

 そうした瞬間、何か別のものが生まれそうな感覚があった。


「でも、アイーナ。俺には君に何もあげることができないよ。それでも――」

「じゃあ、1つお願いがあります」

「あ。いいよ! なんでも言って」


 カイルは居ずまいを正し、ようやく正面からアイーナを見据えた。

 猫耳少女は、この上なくにこやかに言った。



「スリスリさせてください!」



 へ――。


 スリスリ?


 なんだろう。

 よくわからないのに、無性に顔が熱い。

 まだなにもされていないのに、羞恥心が津波のように押し寄せてくる。


「えっと……。なに、それ――」

「スリスリといえば、スリスリです。動物がやるの見たことありませんか。木とか時に石とか。かゆいところをこうスリスリと……」


 そう言って、アイーナは自分の手を木に見立て、頬でスリスリ(ヽヽヽヽ)と擦った。


「ちょっと待って。アイーナはちゃんと手があるんだから。かゆいんだったら、手でかけばいいんじゃないかな」

「あれ? 今なんでもって言いませんでしたっけ?」


 ――いや、言ったよ! 言ったけど……。


 そんなことをされたら、一体自分はどうなるのか想像も付かない。

 けれど、男に二言はない。

 むしろ、今までのことをスリスリするだけで許してくれるなら、それはそれでいいのかもしれない。……いや、絶対よくないって(主観)。


「わかった。ちょっとだけなら」

「じゃあ、行きますよ」


 アイーナは擦り寄ってくる。

 上目遣いで、少し蠱惑的にカイルを見つめた。

 思わず喉を鳴らす。

 その時のアイーナは自分よりも数歳年上に見えた。


 つと、鼻腔がある匂いを捉えた。


 お酒の匂いだ。

 アイーナの方から漂ってくる。

 さっきから顔が赤いのも、言動が大胆なのもそのせいだろう。


 きっと村長に飲ませたに違いない。

 そう思いたい……。


 だが、もう事は始まっている。

 すでにアイーナの顔はもうカイルの鼻先に触れそう距離まで近づいていた。

 一瞬、キスするのかと思ったが、唇は逸れて、耳の頬へと向かっていく。

 すると、顔をピタリと止めた。

 今度はゆっくりと自分の頬をカイルの頬へと近づけていく。


 ピタリとあった。

 皮膚と皮膚がもつれるようにくっつく。

 そして――。


 スリスリ……。スリスリ……。


 スリスリ……。スリスリ……。スリスリ……。スリスリ……。


 スリスリ……。スリスリ……。スリスリ……。スリスリ……。


 遠くで宴の喧騒が聞こえる。

 しかし、カイルの耳にはその音しか聞こえなかった。


 皮膚と皮膚がこすれる音と、アイーナの頬の感触。

 それがカイルにあるすべてだった。


「アイーナ。さすがにもう……」


 と言った時、アイーナは力無くカイルによれかかる。

 驚き慌てふためくも、聞こえてきたのは、少女の安らかな寝息だった。




 外は寒い。


 寝入ったアイーナをスキルイーターの騎手室(ヤード)に連れて行くことにした。

 とりあえず後部座席に乗せる。

 カイルは汗を拭った。

 いつの間にかぐっしょりだ。


 すると、アイーナの口からあのぶっきらぼうな声が聞こえてきた。


『カイルか?』

「やあ、ミリオ」

『どうした? ん? なんか気持ち悪いのだが。アイーナのヤツ……。何を食べたのだ?』


 やっぱりお酒が回っていたらしい。

 思わず笑ってしまった。


『ちょうどいい、カイル。お前に確かめたいことがある』

「なんだい?」

『お前、記憶が戻っているだろう』

「うん」


 あっさり認めた。


「全部ってわけじゃない。特に死ぬ直前のことははまだ思い出せてないよ。でも、君と出会ったことはちゃんと覚えてる」

『そうか。スキルイーターにかかっていたリミットだが外された時からもしやと思っていたが』


 スキルイーターのレベル、そしてスキルレベルが突然跳ね上がったのは、そういうことだった。

 どういう原理でそうなったのか、カイルもまだ上手く説明できない。

 おそらくアイーナの死んだ時、昔の記憶が強烈に呼び起こされ、記憶と一緒にスキルイーターの封印が解かれたのだろう。

 セーフティーをかけた人物については、検討も付かない。

 1ついえることは、スキルイーターの性質を知っている人物だということだ。


 ともかく、カイルは復活した。

 完全とはいかないが、ミリオのこともしっかりと思い出した。


「ごめんね、ミリオ。5000年待たせて」

『いい。お前の記憶が戻れば。それに……報酬はさっきもらったからな』

「さっきって」


 スリスリ……を思い出す。


 騎操者(ベンター)の顔がかぁと赤くなる。


「ミリオ! 見てたの?」

『口出しだけはできないが、感じることなら出来る』


 アイーナの顔を使って、意地悪な笑みを浮かべる。

 本人では一生見られない表情だ。


『謝罪はいい。待つのはなれている。5000年だろうと、1万年だろうと精霊である私にはそう変わらん。それよりも、だ』

「なんだい?」

『我らが宿敵の名前は思い出したのか?』

「ああ……。忘れるわけがないさ」



 ブラッドロード……。“虚無”といわれた【極神騎】さ。



『ああ。そういう名前だったな。私もようやく思い出した』

「あいつはミッドグリードにいるの?」

『いる。絶対、この世界のどこかで……。きっとお前を待っているだろう』


 そしてミリオは顔を上げた。


『カイル……。今一度問う』



 世界を……救ってくれるか?



 …………。

 カイルは口を結ぶ。

 真剣な表情で、ミリオに手を差し出した。


「ああ……。もちろん――――」


 橙色の瞳は、やはり太陽のように光り輝いていた。


本日はこれまでです。


明日から1日1本の更新予定しています。

今後ともよろしくお願いします。

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