表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/34

プロローグ

今日から新連載開始します。

王道異世界ロボットものですが、よろしくお願いします。

  世界を救いますか?

  はい / いいえ



 目が覚めると、目の前には文字が並んでいた。


 明るい緑で刻まれた文字。

 煌々と光を放ち、網膜に刺激を与え続けている。


 ふと辺りを見回してみた。

 何もない。

 普通、こう言えば、椅子やテーブルの1つや2つ、あるいは草木の1本や2本はあるだろうと想像するだろう。だが、そういった類いのものは何もない。


 ただ……。

 暗い空間だけが、永遠と伸びているだけ。

 何もない。空気すらないのではないかと思うほど広大な闇が広がっていた。


 改めて文字を見つめる。


 実は、自分の名前を思い出せないほど記憶が曖昧なのだが、書かれた文章の意味は理解出来る。

「はい」と「いいえ」の間に「/」があることから、選択をしろと暗に質問者が要求していることも知っている。


 点滅するカーソルが「いいえ」に合わされているのも、何か質問者の謙虚な気持ちが表れだと勝手に想像した。


 さて、どうしようか……。


 俺は考える。


 世界を救う、というのは考えるまでもなく大偉業だ。

 お話の中のヒーローなら定番の台詞なのだろうが、普通に暮らしていれば一生縁のないものだろう。


 しかし、この文章が一種のジョークや悪戯のようにはとても思えなかった。

 何かの試験ですらないだろう。

 この時、俺は質問の裏にある真剣さを感じていた。


 ……無茶だ。


 俺は結局、そう結論づけた。


 自分が何者かすらわからないのに、世界を救うなんて……。

 大それたことは出来ない。

 力もあるように見えないし、特殊な技能を身につけているとも思えない。

 ちっぽけな人間なのだ。


 だがら、無責任に「世界を救う」なんてこと、言えるはずもなかった。


 俺は「いいえ」の文字へと指を伸ばした。


 選んだら、一体どうなるのだろうか?

 もしかしたら、俺は再び眠りにつくのだろうか。

 一生、この暗い世界に閉じ込められたままなのだろうか。

 もしくはまた同じ質問が繰り返されるのだろうか。


 それに……。


 救わないと選択した世界は一体どうなるのだろうか?


 様々な疑問が浮かび、ループする。

 何度か躊躇った末、やはり「いいえ」を選択しようとした。


 その時だった。


 音という概念すらないのではないかという空間の中に、一際大きな打撃音が響き渡った。


 ドンドン……。ドンドン……。


 くぐもった音は、俺が見ている文字の向こうから聞こえる。

 リズムを刻むまでもなく、また誰かを攻撃しているわけでもない。

 必死だ。何度何度も叩いている。

 何かを訴えているような気がした。


「――――!」


 打撃音に混じり、何か声が聞こえる。

 小さな声だ。

 叫んでいるようだが、距離が遠いのか、それとも遮蔽物が分厚いのか。

 かすかにしか聞き取れない。


 ただ短い言葉でこう聞こえた。


「助けて!」


 瞬間、全身の血が沸騰するのがわかった。

 俺は耳をそばだて、もう1度声を聞く。


「救って!」


 また強く心臓を打ち付けられる。


 声にはそんな魔力があった。

 きっと主は質問者とは別だろう。

 自分がいまどんな状況にあって、どんな言葉を突きつけられているのか知らない。

 そう、ふと思った。


 無関係な直訴。

 だけど、真摯な気持ちが溢れていた。


 助けてほしい。

 救ってほしい。


 遠慮のない願いが込められていた。


 質問者には申し訳ないと思う。

 けれど、俺は質問者に対してではなく、ただ声の主のために選ぼうと考えた。


 俺の指が「いいえ」から離れていく。

 そしてすぐ横へと向けられていった。


 少し間があって、俺は――。


 「はい」を選んだ。


 瞬間、光が弾けた。



 ★



 気がつけば、俺は硬いシートの上に座っていた。


 手には銃把のような操縦桿を握っている。

 あの暗闇の空間は吹き飛び、目の前に窓のようなものが並んでいた。

 両足には板があり、踏み込むと動くようになっている。

 壁には無数の光の線。それが卵形の天井へと続いていた。


 広大な空間は跡形もない。

 狭く、雑多スペースが視界に広がっていた。


「なんだ、こりゃ?」

「目覚めたか、カイル?」


 俺の質問に間髪入れず、応答が返ってきた。

 慌てて振り返る。

 こんなところに閉じ込めた張本人に、文句の1つでもいってやろうかと思ったのだ。


 しかし、その容姿を見た瞬間、一切の思考と感情が吹き飛んでいった。


 俺の後ろのシートに座っていたのは少女だった。


 背丈から考えて10歳前後ぐらいだろうか?

 まだあどけない顔立ち。ピンク色の小さな唇。

 周りの光と同じ、エメラルドのような緑の瞳は、やや眠たげに半目に伏せられている。

 裾と襟首に刺繍が施されている以外、特に飾り気のないワンピースを纏い、ゆったりとした袖から出た手は、1度も泥遊びをしたことがないのではないかと思うほど、綺麗だった。


 気になったのは、少女がかすかに黄金色に光っていること。

 超然とし、不遜な態度からも、ただ者ではないことは確かだった。


「君は?」

「…………」


 少女はすぐに返答しなかった。

 ただ無表情だった顔が、少し憂いを帯びたような気がした。


「嘘は言っていないようだな」

「嘘なんかついてどうなるんだよ。生憎と俺は記憶喪失でね。自分の名前すら覚えていないんだ」

「なるほど。お前の名前はカイル・バレッド」

「カイル……」


 名前を聞けば、何か思い出せると思ったが、そんなことはなかった。

 自分の名前だというのに、現実感が全くない。

 何の感慨も浮かばなかった。


 ミリオは続ける。


「おそらく蘇生時における一時的な記憶障害だろう。じきに思い出す」

「悪いけど、悠長に待っていられない。俺は世界を救わなきゃならないんだろ?」

「そうだったな」

「君があの質問を作ったんじゃないのか? えっと……」

「ミリオだ。【極神騎スキルイーター】に宿る精霊だ」

「精霊? スキルイーター?」


 俺は1度瞼を瞬く。

 ミリオは軽くため息を吐いた後、説明した。


「私はスキルイーターの搭乗者をサポートする魔導知能体だ」

「喋るマニュアルみたいなものか」

「そう理解したいのならば構わない。それよりもずっと高度だがな」


 ミリオは憮然と答えた。


「極神騎ってのは?」

「約5000年前に作られた魔導兵器だ」

「5000年前の兵器……?」


 とてもそんな感じはしなかった。

 5000年も稼働(していたかどうかは知らないが)何かしら痕跡が残るものだ。

 しかし、スキルイーターの内部にはそんな形跡は微塵もない。

 おろしたての服のように清潔に保たれていた。


「カイル……。お前は5000年前に搭乗者に選ばれた」

「ちょ! 5000年前って……。俺、そんなに長く生きてるのか!」

「生きてはいない。お前は1度死んだ」

「死ん――――」


 慌てて身体をくまなく見つめる。

 しかし、至って健康体だ。

 多少心拍は高いが、病気にかかっているわけでもない。


 1つ気になるのは胸の古傷だ。


 大きな穴に何か血や肉を詰め込んだような傷痕。

 何かが人体を貫通し、1度風穴を開けたことは想像に難くなかった。


「とある極神騎に殺されたお前は、死ぬ直前に蘇生スキルを使用した。だが、完全にスキルが発動する前に死んでしまったため、スキルが不完全状態になり、蘇生するのに5000年もかかってしまった」


 壮大な死者蘇生だな……。


「俺を殺した極神騎って今もいるのか?」

「その極神騎についての情報開示はブロックされている。極神騎の搭乗者本人によってな。よって、お前の記憶だけが頼りになるのだが」


 俺はお手上げというようにジェスチャーを見せた。

 残念ながら、ミリオの期待には応えられない。

 極神騎という名前すら今さっき知ったのだ。


「まあ、いい。最初から期待はしていない」

「なにげに傷つくんだけど……」

「傷ついている時間はないと思うが」


 俺は使命を思い出す。


「ああ。そうだったな」


 そう俺は選んだのは、あの質問に「はい」と……。


 世界を救う、と――。


 俺は振り返って、改めて正面を向いた。

 操縦桿を握り直し、踏み板に足をかけた。


「どうすればいい?」

「お前が呼べば応えてくれる」

「了解! わかった!」

「同じ言葉を繰り返すのは、いささか非効率だ」


 ミリオの忠告は俺の耳には入っていなかった。


 息を整える。

 動悸を抑えるように1度、胸を押さえた。


 覚悟を決める。

 世界を救う覚悟を……。


 大きく……。胸一杯に息を吸い込んだ。

 そして――。


「スキルイーター! 起動!!」


 言葉を発した瞬間、目の前の窓が光り輝いた。


今のところ、一人称はこの回のみです。

次回から3人称になる予定です。


次の投稿はお昼を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ