第88話 使ってくれ頼む
「………タナカできた」
そう言われたのは決闘まで後半日の時だった。
「………持ってみて」
1本の剣を手渡される、それは少し刃が反っている銀色の剣だ。
「っ、軽っ」
羽のように、とまではいかないが前に少しだけ持った鉄の剣よりは軽い。
「………自信作」
「振ってみてもいい」
「………少し離れる」
メリベルたちが離れ少し場所ができる。その真ん中に立ち、剣を両手で持ち、少し集中して振り上げ、何かを斬るかの用に右足を前に出しつつ振り下ろす。袈裟斬りみたいな斬り方だ。そのまま振り上げ一旦止まる。そして右足を下げながらまた振り下ろす。
「それなりには出来るんだな」
「剣道だけど少しやってたから」
「そうか」
「………何か要望ある」
「せめて持ち手に布くらい巻いて」
持ち手が金属むき出しで少し熱い。
「………忘れてた」
剣をまた渡す。
「何で刃が銀色なのに持ち手は黒なの」
「………そこはアダマンダイトで作ってあるから」
「そっか」
「………はいできた」
茶色い布が巻かれて完成だ。
「ありがとう」
「………どういたしまして、私にできるのはここまでだから」
「まだ決闘のルールしっかり知らないんだけど教えてくれない」
負けるとしてもルールを知ることは大事だと思い尋ねる。
「………わかった、決闘は1対1で行われる」
「それで」
「………使える武器は自分が作った武器だけ防具は自由」
「今回は変則的なルールなのか」
「………うん、それで勝敗は殺されるか降参した方が負け」
「まあそりゃあそうだよな」
「………で負けた方は降参しても殺される」
「まあそれは」
「………今回はたぶん私も」
「えっ」
「それはそうだろうな」
「つまり」
「………タナカ頑張れ」
メリベルの命までかかってしまう、自分の命なら捨てても構わないが人の命までは。
「………マイヤー魔術使える」
「使えるが」
「肉体をブースト魔術とかない」
「あるが」
「使ってくれ頼む」
「おい土下座まで」
「なんだってするさ、何せ自分の命だけじゃなくてメリベルの命まで」
「そこまでしなくても使うが、効果あるのか」
『いや魔力関係なく使えるのは』
『ない』
「無理か、すまない少し1人にさせてくれ」
「いいが少し落ち着け」
「落ち着いてる、落ち着いてるさ」
何をいってるのか分からない。自分は落ち着いている、落ち着いているんだ。そう言い聞かせる。
「マリア」
「はっ」
首に衝撃。
「少し休め、後剣は下ろしておけ」
持っていたままになっていた剣が手から離れるのを感じ意識を失った。




