第83話 龍かよ
急に馬車が止まる。
「マイヤー様本陣に到着いたしました」
「ああ分かった」
急に前から声がして驚いたのだか、馬車を操る人がいることをすっかり忘れていた。
「私が先に降りよう」
「今出たら私達が捕まりそうだしね」
「無実の罪とはいえ追われてたしね、当然か」
「もう追われるのはこりごりだぜ」
「………それは誰でも」
エレナが頷く。
「まあその件は悪かった。では着いてきてくれ、案内しよう」
マイヤーに先導され馬車から降りる。外は例の不安をあおるモヤモヤの下であり、雨は降っておらず、空だけは明るかった。降りた先には武装し敬礼している多くの人がいた、なんと言うか多種族だ。獣耳がついていたり、毛深かったり、異常に小さかったり、逆に大きかったりと様々な人がいる。そのうちの1人である、確かマリアと名乗った人が、前に出てマイヤーに話しかける。
「おかえりなさいませ、領主様。して彼らは」
かれらの言葉と共にこちらを向く。なんだが少しにらまれているような気がする。
「ああ、今戻った。して彼らだが、彼らとは和解することができたなので彼らに危害を加えるな」
「「「「「はっ」」」」」
彼女だけではなく、軍関係者全員が一斉に返事をする。はっきり言ってうるさい。
「それで現在の戦況は」
「それは」
やはりこちらを向く。
「マイヤー様、我々はどこか休める場所を探しているのですが」
「それなら」
「いやいい、一緒に聞かせてやれ」
「はっ、双方それぞれが前線に兵を配置し、にらみ合いをしております」
「土嚢や塹壕、罠は」
「はっ、そちらもすべて用意しております」
「そうか、ならそれらすべてを引き払うのに必要な時間は」
「引き払うですか」
「ああ、引き払うできる限りすべてをだ」
「理由をお聞きしても」
「戦闘をする理由がなくなった、それに」
言葉を切り辺りを見渡す。空気がここも重い。
「この状況ではな」
「それは」
「あれのせいだろう、攻めたりはしないさ。それに初の戦争だ万全にしておきたい」
「はっ」
「それで撤退にかかる時間は」
「はっ、兵のみの撤退なら今すぐにでも、すべてを撤去するためには1日ほど。戦闘行動をとりながらでは規模にもよりますがそれ以上かかります」
「そうか、なら今すぐにでも撤収用意、全員に通達してくれ」
「はっ」
「ああ、後隠し玉はすべて放棄」
「放棄ですか」
「ああ、後で謝罪文を送るよりはいいだろう」
「了解しました、全員解散、話しは聞いていただろう、すぐに取りかかるんだ。最前線班は敵の攻撃に備え警戒を」
「「「「「はっ、取り掛かります」」」」」
囲んでいる全員が行動を開始する。
「なんと言うか、凄いよね」
「そうよね」
「さてと、これで」
「『役者が揃ったな』」
現地語と日本語が響き渡る。どちらも理解できる言葉なので、かなりの違和感がする。
「なんの声だよ」
「タナカさんあれ」
例のモヤモヤに異変がおこる。少しずつだが晴れていく。
「なんかいるぞ」
「あれは」
薄くなっていくモヤモヤから少しずつだが、少しずつだが姿が見える。
「あれ、なに」
「………大きな空飛ぶ蛇」
「龍かよ」
「『はじめましてだな、タナカ』」
その龍からの声だ。




