第80話 ぼーとしてた
マイヤーのアイテムボックス的なものに荷物をしまう。
「はぁ、こういうの見せられるとチートってずるいよね」
馬車半分ほどに積んだ布がすべて入り手ぶらで移動できるのだ、しかも濡れたり破れたりする心配は一切ない。その他にも食べ物やら装備まで入っても余裕があるらしい。
「よしみんな乗ってくれ」
幌でおおわれた馬車だ。かなり大きく10人くらいは余裕で乗れそうな大きさだ。中は絨毯がしかれており、座っていても腰が痛くなりにくそうだ。
「おおすげぇな」
「かなり高い馬車ですね」
「………こんなの初めて乗った」
エレナが激しく頷く。マイヤーが最後に乗り、入り口を閉じる。
「全員乗ったな、出してくれ」
「はっ」
馬車が動き出す、だが動いている感じがしない。
「動いてるのかこれ、幌はってるだけなのに雨の音もしない」
「ああ動いているとも、外を見てくれ」
閉じた入り口を開き外を見る、外はどしゃ降りであり、その中を馬車が進んでいるようだった。
「………揺れてない」
「ここまで揺れない馬車は見たことありません」
「そうね、しかもぬかるんだ道でしょう」
外を見ているアルフが答える。
「あぁ、馬車じゃなくても歩きたくないくらいぬかるんでる」
「すごいわね」
「ああ、色々と改造してあるからな、幌は様々な糸を織り込み防水性を確保しつつ弾力性を維持、足回りは」
要するにすごく改造してあって自慢したいのだろう、聞き流す。だがアルフ達は聞き入っている。たぶん馬車と言う馴染み深い物の話だからだろう。ぼんやりとアルフが少し開けた外を眺めながら時間がたつのを待つ。
「タナカさんどうしました」
「……………………あっ、リズか、ぼーとしてた」
「そうですか」
「うん、することなくて。アルフ達は」
「まだ聞いてますね」
「リズは聞かなくていいの」
「ええ私には買えないものですし」
「そっか」
「あの隣に座っても」
「別に断らなくてもいいよ、少し広いと言っても馬車だしどこに座っても問題ないよ」
リズが隣に座る。座ったからと言ってすることはないのだが。
「することないですね」
「そうだね」
またぼーとしながら、外を眺める、景色が変わるわけではないのだが、なんだか落ち着く。
「はぁ」
体から力が少しずつ抜けていき、だんだんと眠たくなっていく。そのとき肩に軽い衝撃。
「ん」
「すぅ…………すぅ………………」
リズが肩に頭を乗せ寝息を立てていた。
「おやすみ」
特に振り払うこともせず、一緒に眠ることにした。




