入学編---------10
うぷぅぉ
――月と一緒に学校に登校すると同時に、ヒューズが昴に声をかけた。
「よっ! 昴、今日も良い天気だな!」
「あぁ。なんか、ベタベタすぎる挨拶だけど何故かそれが清々しいね。お早う」
「あ、あのっ……お早うございます」
月が笑顔でヒューズに挨拶をした。ヒューズと月に面識はない。しかし、それでもこうしてしっかりと挨拶する事に昴は関心した。すると、ヒューズは不思議そうな顔をして月を見る。まるで、物珍しい動物を見たかのように月を見た。
「……お前、いつの間にいたんだ?」
「ひ……ひどいですっ!」
流石に、ヒューズの言葉は酷過ぎた。挨拶を返すわけでもなく、何か容姿を褒めるわけでもなく。その存在に気づかなかったとだけ。
昴は薄々、ヒューズのこういった性格には気づいていたのだが、実際にそれが発揮されると苦笑いをするしかなかった。
これでは流石に月が可哀想だと思って昴がフォローをしようとした時には、既にそこに月の姿は無かった。
「あ、あれ? 月は?」
「月? あぁ、さっきのちっこいのか。あいつなら、涙目で走っていったけど」
「あぁ、そう……。あのさ、ヒューズも程々にな?」
「何が?」
「ごめん。何でもないよ。言っても無駄だよね……」
昴は何故か遠いところを見つめるようにして目を細めた。
普通、こういう時はある程度察しがつくはずだったのだが、どうやらそんな事はヒューズには関係が無かったようだ。
そんな態度が気に入らないのか、それともヒューズが短気なだけなのか、今にも掴みかかってきそうな感じだった。
「言いたいことがあるなら、言えよ。そういう曖昧なのかむしゃくしゃすんだよ!」
「いや、何でも。ただ、ヒューズって格好いいなって思っただけ。さ、早く教室に行こう」
「お? そ、そうか。何か照れるな……」
単純であり、馬鹿である。
空を見た。今日は、快晴。雲ひとつ無い、青い空。昴は生まれてから、ここまで綺麗な空を見たことが無かった。
晴れといっても、大抵は雲が薄くかかっている。ここまで綺麗な空を見るのはとても新鮮な気分だった。
月に出会った日。初めて純粋な青を見た日。今日、これから一体どんな体験をするのだろう。
昴は予言者では無いが、今日は何かが起こる気がしてならなかった。
昴とヒューズは下駄箱で靴を履き替え、教室へと向かう。途中、何人かの《グローリー》の生徒を見たが、どの生徒も二人を見るとまるで蔑んだかのような視線を向けていた。
「なぁ、あいつら殴っていいか?」
「やめておいたら? 一応、実力であの地位にいるんだし」
「ちっ……」
(舌打ちは止めた方が……。万が一見つかったら面倒臭――)
「おい、お前何舌打ちしてんだよ」
案の定、近くにいた《グローリー》の生徒に見つかってしまった。昴は心底嫌な顔をしたが、もっと嫌な顔をしたのは以外にもヒューズだった。
てっきり、ヒューズなら喧嘩腰に怒鳴ると思っていたのだが、予想に反してヒューズは目線だけをその生徒に向けた。
「何だよ? 俺ら、別に何にもしてねぇけど?」
ヒューズはそう言うと、「行くぞ」と昴に耳打ちしてその生徒を無視して足早に去っていった。昴はさっさと離れていってしまうヒューズと、突っかかってきた生徒をしばしの間見比べていたが、やがて控えめに背を向けた。
「……失礼します」
「っつ! ふんっやはり、《ウィード》は礼儀知らずのクズの集まりか」
生徒はそういうと、憎憎しげに昴を見ながら歩き去っていった。
何故、自分がそんなことをと不満に思った昴だったが、早く教室で寛ぎたかった為に、何も言わずにすぐに教室まで走っていった。