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危険な近道6

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫……」


 そうは言ったものの、いざ立ち上がろうとしたら膝が笑って力が入らない。


「大丈夫ではなさそうだな」

「わ、私がいつあなたの嫁になったっていうのよ……」


 悔しまぎれにそう言った璃世を見て、千里がくつくつと肩を揺らして笑う。

するとそのとき、バサバサという音と共に一羽のカラスが舞い降りてきて、彼の肩にとまった。


「さっきの! もしかしてあなたの仲間だったの?」

「仲間……ではない。ただの情報屋だ」

「情報屋?」


 意味がわからずキョトンと首をかしげる璃世に、カラスは様々な情報を集めて売るのが生業だと千里は言った。


「ええっ! カラスって……どこにでもいるあのカラス⁉」

「ああそうだ。こいつらは日本全国どこにでもいるからな。独自のネットワークを持っていて、どうかしたらテレビやネットで知るより早いこともあるんだぞ」

「う、うそ……」


 カラスと言えば街中でゴミをつついているくらいのイメージしかなかった璃世は、驚きを隠せない。

 もしかして自分の情報もこのカラスから⁉ と千里の肩を凝視する。


「便利は便利なのだが、その情報料がバカ高い。悪徳高利貸しも顔負けのぼったくりだぞ――いてっ!」


 辟易としながら話していた千里が途中で声を上げた。カラスが彼の頭をつついたのだ。


「こら! やめろ!」


 言いながらカラスを手で払うと、カラスは大きな声で「カー!」とひと鳴きしてからどこかに飛んで行ってしまった。


「くそっ、暴力カラスめ!」


 カラスが飛んで行った方を睨みながらぼやいた千里が、再び璃世の方に向き直った。「ほら」と言っておもむろに手を差し出す。目を丸くする璃世に、彼はふぅっとため息をついた。


「手。立てないんだろう? つかまれよ」

「あ、え……っと……」

「それともいつまでもここに座っていたいのか?」


 それはごめんだ。こんな恐ろしい思いをした後にひとりで取り残されるのは勘弁してほしい。

 璃世がおずおずと差し出された手のひらに自分のものを重ねようとした、そのとき。


 千里の肩越しに、黒く大きなものが猛スピードで近づいてくるのが見えた。


「千里!」


 半分悲鳴のような声で名前を呼んだ次の瞬間、千里は振り返ることなく後ろに向かって腕をひと振りした。


「ギヤアァァァッ」


 断末魔の叫びを上げたバケモノは、黒い砂塵となってあっという間に消えてしまった。


「浅はかなやつめ」


 パンパンと手をはたきながら千里がそう口にする。

 璃世は思わず目を丸くした。もしかして彼は最初からこうするつもりで逃がしたのだろうか。


 すると彼はまるで「正解」とでも言うように口の端を片方持ち上げてから、地面にへたり込んだままの璃世の腕をとった。


「俺は小者の浅知恵にはまるような阿呆ではないぞ――っと」

「きゃっ」


 勢いよく腕を引かれた反動で立ち上がる。けれど足にはまだ力が戻っておらず、グラリとよろめいた。その瞬間、璃世の体がふわりと浮いた。


「わぁっ! な、な、なにをっ……」

「別のやつが寄ってきたら面倒だ。さっさと帰るぞ」


 急に抱き上げらえたことにパニックになる璃世のことなどお構いなしで、千里が歩きだす。


「下ろして! 歩けるから下ろして!」


 千里の腕の中で足をジタバタさせると、ギロリと睨まれた。間近に見る顔は恐ろしいほど整っていて、睨まれているというのに不覚にもドキっとしてしまう。


「うるさい。落とされたくなかったらつべこべ言わずにおとなしく掴まってろ」


 問答無用で歩き出した千里は、人ひとりを抱えているとは思えないほど軽やかな足取りでその場を後にしたのだった。



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