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森の守護者  作者: 紫桜
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第5話 薬草の森


第5話 薬草の森


朝の光が森に差し込んでいた。


小さな家の窓から、やわらかな光が床に広がる。


さくらは目を覚ました。


「……ここ」


天井を見上げて、少し考える。


それから思い出した。


森。

魔女の家。

セレン。


「……本当なんだ」


夢じゃなかったらしい。


布団から起き上がると、外から何か音が聞こえる。


さくらはそっと外に出てみる。


家の横には、小さな畑があった。


「おはよう」


さくらに気づき、セレンは微笑んだ。


「よく眠れた?」


「は、はい」


さくらは少し慌てて頭を下げる。


「お世話になります!」


セレンは小さく笑った。


「そんなにかしこまらなくていいわ」


手にしていた薬草をまとめながら言う。


「ここでは私しかいないんだもの」


畑には見慣れない植物が並んでいた。


紫の葉。

銀色の花。

青い実。


さくらは目を輝かせる。


「珍しい植物ですね」


「全て薬草よ、ここで育てて薬を作ったり街に売りに行ったりするの」


セレンは手際よく束ねた薬草を籠に入れる。


「今日は森に行ってみましょうか」


「森?」


「もっと色んな種類の薬草を採りにね」


セレンは振り返る。


「さくらも行きましょ」


さくらは少し驚いた顔をした。


「いいんですか?」


「もちろん」


セレンは柔らかく笑う。


「森で暮らすなら、覚えた方がいいもの」


二人は森へ入った。


朝の森は明るい。


木漏れ日が揺れ、鳥の声が響く。


セレンは籠を持ち直し、歩き出す。


その時ふわりと、風がセレンの髪を撫でた。


木々の葉がやわらかく揺れてセレンをからかうように吹いて見えた。


「……相変わらずね」


セレンは小さく苦笑した。


「え?」


さくらが不思議そうに首を傾げる。


「なんでもないわ」


セレンは歩きながら説明する。


「この葉っぱは傷薬になるのよ」


「すごい……」


さくらはしゃがみこんで覗き込む。


「これも薬草ですか?」


「それは毒よ」


「えっ」


さくらは慌てて手を引っ込めた。


セレンはくすっと笑う。


「触るだけなら平気だけど」


「びっくりしました……」


その時、近くの茂みが揺れた。


さくらはびくっとする。


出てきたのは、小さな鹿だった。


「わ、鹿だ」


さくらの声に、鹿は耳を動かす。


少しこちらを見て、それからゆっくり森の奥へ去っていった。


「かわいい」


セレンはその様子を見ていた。


(……動物が逃げて行かない)


普通なら、人間の気配を感じればすぐ逃げる。


だが今の鹿は、少し警戒するだけだった。


(森に嫌われていない)


不思議な子。


さくらは楽しそうに森を見回している。


その姿を見て、セレンはふと聞いた。


「ねえ、さくら」


「はい?」


「さくらって、いくつ?」


さくらは少し考えた。


「二十二歳です」


……おそらく最後の記憶にあるあの瞬間に止まってしまったかも知れないさくらの時間。


ギュッと腕を掴み悲しくなる思考を遮るように今度はさくらが聞いた。


「セレンは何歳なんですか?」


その瞬間。


セレンの動きが止まった。


手にしていた薬草を見つめる。


少し考えてから、静かに言った。


「……覚えてないわ」


「え?」


さくらは目を丸くする。


セレンは小さく肩をすくめた。


「長く生きてると、そういうものよ」


冗談のように言う。


だが、その目は少し遠くを見ているように見えた。


セレンは籠を持ち直すといつもの表情に戻る。


「さあ、もう少し奥へ行きましょう」


「はい」


前を歩くセレンの背中を見つめさくらは小さく息をついた。


……ひとりじゃなくて、よかった。



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