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格差学園  作者: 藤也近
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最初の事件

自宅に着くや否や、自室のベッドに突っ伏して盛大なため息を吐く。

両親は俺が幼い頃に亡くなって、もともと一人っ子だった俺はおばさんの家で中学卒業まで過ごしていた。今の学園に進学が決まるとおばさんがこのアパートの一室を用意してくれて、家賃も生活費も送ってもらっている。

正直、感謝してもしきれないほどの恩を感じているが、同時に申し訳ない気持ちでいっぱいだ。おばさんも大変なのに俺にまで手を回してくれて...だから、恩返しがしたくて学園に入ったのに、精神的に病みそうで怖い。

「ハァ...色々考えても仕方ねえよな。課題やらねえと」

おもむろにベッドから起き上がり、バッグから教科書を取り出している時、玄関の方で扉をノックする音が聞こえた。

「またあいつか」

見当はついていた。俺に用があるやつなんて一人しかいない。

無言で扉を開けるとそこには、想像通りの人物が立っていた。

ショートの髪型に全身ジャージに身を包み、さらにランニングシューズと...走っていたところをたまたま通りかかりましたよと言わんばかりの格好だった。

「あ、たまたま通ーー」

「言わなくていいよ。見ればわかる」

彼女の名前は冴ノ木奈留美(さえのきなるみ)。おばさんの娘で俺のいとこにあたる人物。

身長162cm、体重48㎞、スリーサイズは上から...いや、これ以上言うと殺される。

「ん? 今『尻のでかいヤツが来た』って目をしてなかった?」

「いや、むしろアヒルッ!?」

そう言いかけた途端、飛んできた足が俺の子孫を直撃した。

想像を絶する痛みに悶絶し、床に突っ伏した。

「アヒルが...なんだって?」

「アヒルみたいで...か、可愛いです」

「ふぅん...」

痛みで突っ伏しているというのに、その上俺の腹をつま先でグリグリしてくる。

やめて! 痛いから!

「どうせ私の尻はアヒルみたいに大きいわよ! どうよ? なんとか言ってみなさいよ!」

...無理ッス

「はぁ、もういいわ。私、帰るから」

この野郎...激痛で悶絶している俺を放置するつもりか?

「じゃ、頑張りなよ? 学校」

奈留美はランニングシューズを履くと、俺を無視して出て行った。

いや、俺が床に突っ伏してたの見えてたよね? 悶絶してたの見えてたよね?

それから立ち上がれるようになるまで数分かかった。

俺は自室に戻ると、制服のままベッドに潜り込んだ。


翌日、夜何も食べてない俺はあまりの空腹に目が覚めた。

「うわぁ......いつの間に寝てたんだろうな」

おもむろに起き上がり、適当に朝食の準備を済ませて制服に着替える。

「はぁ...髪ボサボサじゃねえか」

後で整えないとなあ。

ご飯と即席の味噌汁という簡単な朝食を済ませて、髪を整え学校へと向かった。

今日はかなりいい天気だな...洗濯物干してから出ればよかった。

結構溜まってたからなー。


「あのー...」

「ん??」

後ろから声をかけられ振り向くと、翼木が立っていた。

落ち着きがないのかソワソワしている。

「どうした?」

「あのー。い、一緒に行きませんか?」

「え? 別に良いけど」

「本当ですか!」

なんとも嬉しそうな笑顔で喜ぶ翼木。なんだ? 変な奴だなあ。

そういうわけで一緒に登校することになった。

「昨日はありがとうございました」

「別にいい。見て見ぬ振りできなかっただけだ」

だいたいこいつ。いじめられてた割には平気そうにしてるじゃねえか。俺だったらメンタル壊れてるな...。

「あのー、折り入ってご相談があるのですが」

「なんだ?」

翼木は辺りを警戒しながら手招きをする。耳を貸せ、と言っているのだろうか?

渋々俺は耳を貸すと、翼木は耳に吐息が掛かるほど顔を近づけてきた。

「私、部活を創ろうと思うのです」

「はぁ!?」

今世紀最大のリアクションをしてしまった! 俺にこれだけの大声を出させるとは...こいつデキるっ!

いや、問題はそこじゃない。

こいつ本当に馬鹿だろ。

「お前、入学式の時のHR(ホームルーム)の話、忘れたのか?」

「え? 何か言ってましたか?」

「忘れたのかよ...。俺たちD組は部活禁止だ。創部なんてもってのほかだろ。するにしても、部員は? 活動の目的は?」

「部員は今の所あなただけです。活動の目的はまだ...」

「おいおい。俺は入るなんて言ってないぞ?」

なんだよその顔...あからさまに悲しそうな顔するなよ。

「創部なんて簡単じゃねえぞ?」

「それは...わかっていますけど」

だからそんな悲しそうにするなよ、うなだれるなよ。周りから見たら俺が悪いみたいに見えるだろ。

学校の校門をくぐり、昇降口に着いた。

下駄箱にはすでに嫌がらせと見える落書きや鈍器で叩いたような窪みもあった。

感じる...別のクラスの人間の笑い声や見下したような視線。

俺は盛大なため息をつくと、自分の下駄箱を開いた。

俺の下駄箱に敷き詰められたゴミ。

開けた瞬間、溢れて足元に崩れ落ちてきた。

まあ、これくらいは典型的というか特にどうとも思わないからな。

「大丈夫ですか?」

「平気だ」

嫌がらせする奴は大抵、受ける奴の気持ちなんて考えない。面白いから、反応を見たいから、調子に乗っていてウザいから、むかつくから...

いろんな理由をつけて対象を作る。

嫌がらせを受ける奴は自分がどうしてそういうことをされるのか理解できないんだ。そうして徐々に嫌がらせはエスカレートし、いじめに発展する。

「どうしてこんなことに...」

「ただの遊びだろう。気にすることはない。こういう場合は反応しないのが一番いいんだ」

嫌がらせをする奴が一番求めているものは『反応』だ。悲観的になればなるほどその反応が面白くなる。

だからここは、無反応が一番だ。

D組教室は4階の一番端。階段を登るだけでも疲れる。小さな嫌がらせだ。これだけは許せない。

「ん? 何か騒がしいな」

D組教室の前でクラスの連中が何やら騒ついていた。

「どうかしたんですか?」

翼木は近くにいたクラスメイトに声をかけた。

「見てみなよ、教室」

クラスメイトは気まずそうに教室の方を指差して呟いた。

人混みをかき分け、教室の光景を目の当たりにした俺たちは絶句した。

机や椅子は全て壊され、後ろにあるロッカーの扉は外され、全て空にされていた。

「だれがこんなこと...」

「普通に考えて犯人は複数いるな。俺たちのクラスは40人いる。ロッカーも全て壊すのには一人や二人ではできないことだ。ロッカーの荷物にしても教科書を全て置いて帰ってる奴もいるからな」

俺は教室に入り、壊された自分の机を眺めた。壊されたにしては、切断面が綺麗だな...

ロッカーの方も調べてみる。

一応ロッカーは常に空にしていたから奪われてものはない。

扉は...やっぱりこっちもだ。同じ手口でやられたんだな。

「何かわかったんですか?」

翼木は自分のロッカーを眺めながら深刻そうな顔をする。

「まあ、大体の手口は予想できた。だが...」

わかりやすい手口だが...犯人の特定が難しい。

「どうかしたんですか?」

俺の顔を下から覗き込むような姿勢で怪訝そうに見つめる翼木。

「いや、なんでもない」


「これはどういうことだ!?」


教室の入り口で聞き覚えのある怒鳴り声が聞こえた。

柿崎がHR(ホームルーム)のためにクラスに上がってきたんだ。

「霧本! 貴様!」

いや、なんで俺なんだよ...

柿崎は怒り狂った形相で俺の方に近づき、胸ぐらを掴んできた。

「学校に何か不満でもあるのか!? あァん!?」

ロッカーに体を押し付けられ、柿崎の腕が俺の胸を圧迫する。

息ができないほどではないが、少し苦しい。

もともと体の大きい柿崎の太い腕だ。俺の力じゃどうにもならない。

「せ、先生! 違うんです! これは...」

翼木が柿崎に駆け寄り、弁解しようとした。

「ああ!? 邪魔だ!」

柿崎は俺を押し付けながら、片方の手で翼木の頰を叩いた。

翼木はその勢いで体勢を崩し、バランスを取ろうと後退したが上手くいかずに倒れこんだ。

「おい、問題児。お前一人暮らしだそうだな。親はどうした? 」

まるであざ笑うかのような挑発を仕掛けてくる。

「ああ、見捨てられたのか? まあ、無理もねえよなあ。こんな出来の悪い息子ならなあ。まあ、こんなになるまで気づかないお前の両親もどうかと思うがな! 全く、教育の仕方も知らねえ無知蒙昧で幼稚な親が、一丁前に子供なんか作るから、世の中お前みたいなクズが溢れかえるんだよなあ!」

「んだと、コラァ!!」

俺は柿崎の罵詈雑言に本気で腹が立った。俺のことをどう言おうと勝手だ。もう慣れすぎて飽きているくらいだからな。だけど、だけどな...

「俺の親を馬鹿にするんじゃねえぞ!」

胸を太い腕で押さえつけられ、息苦しかったが御構い無しに叫んだ。

「クッ...ハハハ! 負け犬が、精々底辺で吠え続けてろよ」

柿崎は押さえつけていた腕を離すと、廊下に立ち尽くしていたクラスメイト達の顔を見回し「お前ら全員2週間の謹慎処分だ。学校の敷地内に入ることは許さない。残念だったな! クハハハハハ!」

高らかに笑い飛ばした柿崎は足早に教室を出て行った。

まずい...この学校は授業ごとに単位が違う。

授業回数の3分の2以上授業に参加できないと試験が受けられず留年となる。

二週間の謹慎は影響が大きい。

俺たちは荒らされた教室をただ眺めることしかできなかった。









































少し遅くなりましたが、『格差学園』の続きです! 正直柿崎先生のようなキャラが一番難しいですね...(私自身こういうキャラが嫌いなもので...)でも、こういうこと言われると嫌だな、嫌いだなと思えるセリフを思いつくのは早いので何かと便利だと思っています。

まだまだ力は足りませんが、次回もお楽しみに!

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