第1話 death class
ここは名門『聖セルメア学園』。本当に頭のいい奴が通うことを許される進学校だ。入学当初から振り分け試験によりA・B・C・Dのクラスに分けられる。頭がいい順に、だ。
俺は霧本裕也、この学園に通うD組の生徒だ。入学式が終わり、一ヶ月の月日が過ぎたが...ここの差別は激しい。
まず、クラスによって教師の授業態度が変化する。俺らD組を罵るような教師ばかりさ。
次に、クラス同士の争い、陰湿ないじめなど...馬鹿な奴ほどその標的になりやすいってことさ。まあ、かくいう俺もいわゆる『問題児』なのだが...
「おい霧本、前に出てこの問題解け」
数学教師の柿崎が挑発的な態度で黒板を叩く。渋々といった表情で立ち上がり、黒板の問題を見た。おいおい...この問題習ってねえよ。
「どうしたぁ? あぁ『問題児』には無理か」
こちらに顔を向け、馬鹿にしたような表情を見せる。「先生...これ習ってないッスよ」
こういうのはできるだけ穏便に済ませたい。感情的になるのはだめだ。
「あぁ? 教師に対して口答えか? まあお前ほどの『問題児』なら無理ないだろうよ。中学時代、暴力沙汰を起こして警察の世話になったお前ならな。全くこの学校の伝統を崩すような生徒は早くやめればいいんだよ」
俺だって...いや、このクラス全員がやめたいと思っているだろうよ。ただ頭がいいということだけで入れるこの学園は、そういう外れ者さえも容易に入れる学園なのだ。
今更やめたところで、どうにもならない。
「あぁ? なんだその目は...教師に向かってその態度はなんだ!」
そう叫んだ柿崎は持っていた目指し棒で俺の頭を思い切りぶん殴った。
ああ...なんでこんな学校入っちまったんだろうなあ。
授業なんてほぼこんな感じだ。生徒を馬鹿にしたり、時には全く授業せず、一時間正座や直立不動を命じたりと、今の教育ではやってはいけないことを平気でする。
今日もうんざりするほどの長い一日を終え、帰宅の準備を始めた。俺たちD組生徒は部活さえも禁止だ。毎日大量の課題を出され、未提出あるいは提出しても不備だった場合厳しい処分を受ける。D組はいつでも不利だ。まるで奴隷のような扱い。教師だけならともかく、他のクラスの奴らにまで馬鹿にされることもある。だが、俺たちにとって都合がいいのは、この学園には昇格も降格もあるというところだ。年に4回行われる定期試験で点数がいい者は一クラス昇格し、その逆で悪い者は降格する。
ゆえに、一番悪いD組は『death class』と呼ばれているのさ。
昇降口を出て校門まで向かっていた矢先、視界の片隅で何かが動いたのが見え、無意識にその方へ視線を向けた。
女子生徒数名が1人の女子生徒を取り囲み罵っているように見える。
いじめか? ということはうちのクラスの人かもな。D組生徒が標的になることがほとんどだ。教師は見て見ぬ振りをするし、本当にクソみたいな学校だな。
女子生徒たちは満足したのか、笑いながら走り去っていった。去った後の場所には女子生徒が座り込んだままばら撒かれた教科書やノートを拾い上げていた。
あの子...やっぱりうちのクラスだな。
青い縁の眼鏡、肩まで伸びた黒髪、控えめそうな性格。確か名前は...翼木咲愛蘭だったな?
見て見ぬ振りはできないしな...
俺は翼木の元に近づき「大丈夫か?」と声をかけた。涙でうるんだ目をこちらに向け翼木はさらに怯えた表情で「ヒィ!!」と声を上擦らせた。
いや...なんで怯えるの?
「こ、殺されるッ!!」
「いや! 殺さないし、そんな怯えることないだろ」
「だって、目つきが怖い...ですから」
「ああ...よく言われる」
大抵は怯えられるか、喧嘩売っていると勘違いされるんだよなあ。
足元に落ちている砂まみれのノートを拾い上げ、砂を払い落すと翼木に渡した。
「ほら、いつまでも座ってると汚れるぞ」
そう言いながら、手を差し伸べる。
「あ、ありがとうございます」
制服についた砂を払いのけ、眼鏡のレンズを拭く翼木。
「でも、酷いことをするもんだな...」
「はい...こんな酷い学校だなんて思いませんでした。」
「学校側は、学校で起こった不祥事は隠蔽するからな。いじめも教師の不適切な教育もうちの学園は隠すんだよ」
「どうしてですか?」
「それは、名門とさえ言われる進学校だからさ。毎年、多くの入学希望者がこの学園の入試を受けに来るんだから、人気を維持するためなんだよ」
入るまでは極楽、入ってからは地獄だ。
「私...入学式の日風邪を引いてそのせいで休んでいたので...それでD組に振り分けられて...そしたらこんなことになるなんて」
うなだれながら呟く翼木。
「君はまだいいほうだろ。俺なんて点数だけ見ればA組確実だったのに、過去の事を出されて強制的にD組だよ」
「問題児って言われてましたよね? 数学の時に...あれってどういう意味ですか?」
「ああ、中学の時に俺の態度に腹を立てた教師がいたんだよ。俺のことを執拗に罵ってくるから、つい感情的になってしまって殴ったんだ」
目つきは悪いし、生まれつきの茶髪も染めてるとかなんとか言いがかりをつけられるし、挙げ句の果てに不良にまで絡まれる始末。
「そうなんですか...D組の生徒は色々抱えているんでしょうね」
「確かにな。中にはそういうやつもいるだろう」
「あ、申し遅れました。私、翼木咲愛蘭です」
律儀に深々と頭を下げる翼木。
「ああ、知ってるよ」
「ええ!? どうして知ってるんですか!?」
「いや、入学式の時自己紹介があったじゃんか」
「あ、そうでした!」
この子...もしかして天然?
「と、とにかく今日はありがとうございました。こんな格差の酷い学園ですが、頑張ってみたいと思います!」
翼木は再度律儀に深々と頭を下げ、上げ際に満面の笑みを見せた。
「ああ、でもあまり無理はするなよ?」
「ご親切にどうも!」
翼木は持っていたノートや教科書をバックに押し込み、走り去っていった。
この学園で頑張るのは簡単じゃない。ましてや、最底辺から這い上がれる生徒はほとんどいない。裏で手引きされ、ずっと底辺のまま、卒業を迎えることになる。教師も他クラスの生徒も敵...それがD組だ。
to be continued
わいどっ!? スカイ! と並行して書いていこうと思います。こちらは学校内格差を題材とした作品です!
完全なフィクションでありますが、世の中に別段ないとも思えない感じがするのは私だけでしょうか?格差は誰だって思うことでしょう。上司・部下の関係、先輩・後輩の関係。
あるいは、年の差によって起こることもしばしば...だた、格差を武器にしてはいけません。そう思いながら書いた所存です。
楽しんでいただけたら幸いです!




