【下剋上編】 第一段 応仁の乱後、なおも定まらぬ世
この物語は、「兼好法師の黄泉報告書【南北朝の終焉とその後の火種編】」「同【応仁の乱編】」の続きとなります。
南北朝合一の約束が破られ、応仁の乱という大乱が京を焼き尽くした後――。この巻からは、いよいよ「下剋上」と呼ばれる時代が幕を開けます。
前2作から読んでいただくと、この混乱に至るまでの積み重ねをより楽しめますが、この巻から読み始めても内容が分かるよう書いております。
【下剋上編】 第一段 応仁の乱後、なおも定まらぬ世
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十一年に及んだあの乱を見届けてから、我はしばらく、これでようやく下界も落ち着くのではないかと、いくらか期待めいたものを抱いていた。だが、これがとんだ見込み違いだった。
乱そのものは京で収まった。
だが、その代償は、京の外へとそっくりそのまま持ち出されたようなものだった。
守護大名たちが京での戦に明け暮れている間に、その領国では、家臣たちがすっかり力をつけてしまっていた。かつては主を敬い従うことが当然だった者たちが、今や「なぜあの御方に従わねばならぬのか」と、公然と口にするようになっている。
思えば、あの乱の終わりに、我は「家柄よりも実力がものを言う世が来るのでは」と書き記した覚えがある。
あれから幾年も経たぬうちに、その予感は下界のあちこちで、次々と現実になっていった。
これから我が見届けていくのは、もはや「京の乱」という一つの出来事ではない。
日本という国のあちこちで、同時多発的に起きていく、無数の小さな下剋上だ。
一人の英雄が世を変えるという分かりやすい物語ではなく、名もなき者たちが、あちこちで少しずつ、古い秩序を食い破っていく、そういう時代の話である。
正直、これをどう書き記せばよいものか、我自身まだ手探りのところがある。
これまでのように、京の一所を見ていれば事足りるという話ではないのだから。
だが、篁様への務めがある以上、この目に映るものを、一つ一つ丁寧に拾っていくしかあるまい。




