eo07:滅びなかったソレイユ王国
この世界に転生してから5年が過ぎた。
明日は、両親から溺愛されながら迎える、最後の誕生日。
屋敷の人々が寝静まった深夜、私は屋根の上に立ち、夜空の星々を見上げた。
プラネタリウムのように無数に煌めく星々が形作る星座は、日本から見える夜空とは違う。
美しい星空だけど、私が日本で見ていた星座は一つも無かった。
ここは異世界なんだと実感させられると同時に、二度と戻れない日本への思いが心の底にチクリと刺さる。
(……もうすぐ、全てが壊れる……)
夜風が、私の長い髪を揺らす。
膝下まで伸びた髪は、ゆるく巻いた艶やかな黒髪。
父と同じ色で、美しいと褒められる髪だけど、聖女ルナが来れば褒められることはなくなる。
(ルナが来れば、お父様は私を愛さなくなり、お母様は怒りっぽくなる……)
カレンの幸せな生活は、5歳までのこと。
もうすぐやってくる異母妹に、父の興味が移るまでの短い幸せ。
(ソレイユは、今頃どうなってるのかしら……)
私は、前世で列車事故に遭う前に観た映画を覚えている。
映画で見たソレイユ王国は、ルナやカレンが5歳になる頃に、高位魔族の奇襲を受けて壊滅状態になっていた。
ただ、具体的な月日は分からないし、海外への発言力なんて無い私には、危険を報せる術も無かった。
◇◆◇◆◇
「先生、ソレイユ王国に炎の玉がたくさん降り注ぐ夢を見たわ。先生の実家は大丈夫?」
私は、せめてクレール先生の身内だけでも救えないかと、不吉な夢を見たという形で危機を伝えた。
すると、クレール先生は、映画とは全く異なる出来事を教えてくれた。
「大丈夫ですよ。ハッキリと姿を見た者はいないのですが、魔族が放ったと思われる黒い火球は、王妃様と王太子様の光の防壁で防がれたそうです」
光の防壁なんて、映画には出てこなかった。
空が暗くなったと思ったら大量に降り注いだ火球は、防ぐ余裕もなくソレイユを焦土に変えたと語られていた。
「今は、厳重な防壁が施されているので、きっとどこよりも安全な国になっていますよ」
クレール先生は、私が異国への不安を抱いているのではと思ったのかもしれない。
推薦入学が内定した私は、無試験での入学が決まっている。
でも、ソレイユが滅亡すれば、全ては白紙になってしまう。
それを知る私は、申し訳ないけれど第二候補としてリュンヌ皇国を希望しておいた。
(……ソレイユのシナリオが変わった? 何故? まさか、向こうにも転生者がいるの?)
シナリオが改変されたことを知った私は、大きく心を揺さぶられた。
光の防壁で王国の危機を救った王妃様と王太子様は、転生者なの?
2人が転生者だとしたら、中の人は誰?!
もしかして……陽太くんや美月ちゃんが宿っているのかな……。
こうなったら、絶対にソレイユ王国へ行こう。
……でも、どっちが陽太くん?!
「どうしました?」
「あ、いえ、ソレイユ王国の王族の方は凄いなぁって思ったの」
動揺しながら考え込んでいた私は、怪訝な顔をしたクレール先生に問いかけられて、慌てて我に返った。




