ep17:入学式の朝
入学式当日。
私はアレクサンドル様と共に王家の馬車に乗り込んだ。
「アストル様は一緒ではないのですか?」
「彼は行き先が別なのですよ」
同じ学年になる筈のアストルがいないので、私は不思議に思って聞いてみた。
アレクサンドル様が答えてくれた直後、馬車の横を金髪の少年が駆け抜けていった。
「殿下、お待ち下さい!」
その後を、騎士たちが追いかけていく。
本気で走っているようなのに、騎士たちは全然追い付けない。
少年は振り返りもせず、騎士たちを引き離しながら走り去った。
「アストルは相変わらずだなぁ」
アレクサンドル様は、苦笑しながら呟く。
日常的に見慣れているのか、彼は全く驚いていない。
私は呆然としながら、爆速で走り去る少年を眺めていた。
アストルとは、まだ話したことがない。
謁見の間では静かに立っているだけだったし、宴では壁際で何か考え事をしている姿を見ただけだった。
城内では私が書庫に籠ることが多いせいか、彼を見かけたことすら無い。
「アストル様は、どこへ向かわれたんですの?」
「学校ですよ。彼はソレイユ騎士団養成学校に入学したんです」
「走って……行かれましたわね?」
「多分、通学ついでに走り込みをしてるんでしょうね」
王族が馬車に乗らずに走って通学って、アリなの?
通学ついでに走り込みって、どこの脳筋よ。
映画やゲームのアストルは、そんなキャラじゃなかったような……。
私の心の中は、前世知識と違うアストルへのツッコミでいっぱいだった。
「護衛を振り切っておられましたけど、大丈夫ですの?」
「大丈夫、アストルは叔父上の特訓のおかげで、護衛騎士たちよりも強いんですよ」
6歳なのに護衛よりも強い王子様って、どこかのラノベの主人公みたい。
ゲームでは、ラスボスより強いと言われたボスキャラだったわね。
その強さは、シナリオが変わった今も健在なのかしら。
「アストル様は、魔法は学ばれないのですか?」
「そういえば、魔法を使っているところは見たことがないですねぇ」
アストルはゲームでは剣術だけでなく、全属性の強力な魔法を放ってきた。
この世界の彼は、魔法を使わない代わりに物理が強化されてるの?
私は、馬車の窓の外を眺めながら考える。
アストルは、ゲームや映画の設定では勇者の力をもっていた。
でも、ゲームでは魔王に洗脳されて、主人公たちと敵対していた。
主人公たちに倒されると正気に返り、攻略対象たちの属性に合わせた攻撃魔法を授けるというキャラだった。
今のアストルは、魔王に捕まってないし、洗脳もされてない。
もしかして、アストルの魔法は、魔王の教育で得た……とか?
考えている間に馬車はソレイユ魔法学院の前に着いた。
御者が開けてくれた扉から、甘い花の香りを含む風が吹き込む。
私はアレクサンドル様にエスコートされながら馬車を降り、学院内へと歩いていった。




