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WABE ~すべてを失った少年が終末世界に抗い続ける物語~  作者: terakoya-8
訓練生編

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10/10

ninth 最後の追い込み

 __1日目


「斬れ」

 それだけであった。



 訓練室の中央。

 静止したロボットが、1体。



 渓人は構える。


 踏み込む。


 斬りかかる。



 __カキン。

 浅い手応え。



「もう一回」

 風間の声。


 ロボットが元通りになる。



 __もう一度


 構える。


 踏み込む。


 斬りかかる。



 ブレードが入らない。


「この前の指導を思い出せ」

 風間はそう言う。



 しっかりと構える。


 踏み込む。


 斬りかかる。



 だが、

 斬る直前で角度がずれる。



「続けて」

 短い指示。



 構える。


 踏み込む。


 斬りかかる。



 何度も何度も。

 何度振ったのかがわからないほどに。



 重くなる腕。


 上がっていく心拍数。


 だが、手を緩めない。



「対象に対して垂直だ」


 言うのは簡単。


 だが、実践するのはそう簡単ではない。


 

 ズレはわずか数度。

 そんな小さなズレ。


 だが、

 それが結果に関わる。



 __修正ができない。



 構える。


 踏み込む。


 斬りかかる。



「力んでいる」


「力を抜いてくれ」


 冷静、

 だが鋭い指摘。



 もう一度。


 「対象をみろ」



 追いつかない思考。


 思いどおりに動かない身体。


 それでも


 「続けろ」


 終わらない。



 もう一度。



 構える。


 踏み込む。


 斬りかかる。

 


 その時だった。

 刃が当たる。



 (力が入らない)



 握力が、抜ける。

 そして...


 __ガチャン。


 チェイサーが、床に落ちた。


 その瞬間


 「拾え」

 風間の声。



 考える暇もない。

 チェーサーを拾う。


 構える。


 踏み込む。


 斬りかかる。



 失敗、


 何度目かわからない。

 足元が、ふらつく。



「姿勢だ」

 風間は、端末を取り出す。

 前、成功した時の映像。



 背筋。


 腕の角度。


 踏み込みの幅。



 __すべてが違った。



「真似するんだ」

 

 調整する。



「もう少し前に」


 修正が入る。



「この姿勢でやってみろ」



 構える。


 踏み込む。


 斬りかかる。



 斬る直前で姿勢が崩れる。

 最後の最後で上手くいかない。



 重い腕。


 悲鳴を上げる筋肉。


 震えが止まらない。


 

 「気を抜くな」

 風間の声だけが、淡々と響く。


 

 斬る、ただひたすらに。

 何度も何度も。



 やがて。

 刃が、ロボットに吸い込まれるように入る。



 __手ごたえを感じる。


 初めての、手応え。

 だが。



「まだ浅い」



 (これで、足りないのか)



 ロボットが戻る。


 胸が締め付けられる。


 折れそうなメンタル。


 止まりそうな思考。



「もう一度だ」

 変わらない声。

 逃げ場はない。



 __やるしかない!



 渓人はゆっくりと構える。



 震える腕。


 心臓の鼓動。


 乱れた呼吸。



 それでも。


 

 踏み込む。


 斬りかかる。



 __スッ。



 刃が、入る。


 ズレない。


 ブレない。


 抵抗が消える。



 さっきよりも深い。



(いける)



 もっと深く。

 真っすぐに。



 そして、


 ロボットが、両断される。

 音が、遅れて響く。



 沈黙。


「......それだ」

 風間が首を縦に振る。


 初めての肯定。


 だが、

 表情は崩さない。



 力が抜けていく。

 その場に崩れる。



 荒い呼吸。


 動かない腕。


 滴る汗。



 視界が滲む。



「覚えろ」

 風間の声。



「今の感覚を、再現できなければ意味がない」

 終わりじゃない。


 ここからが、始まり。


 入江は、ゆっくりと顔を上げる。

 ロボットは、すでに元に戻っていた。


 無傷で。

 何事もなかったかのように。



「続けろ」

 その一言。


 訓練は、まだ終わらないと知る。

 



 __2日目。


 金属音が響く。

 火花を散らす。



 動くロボットが、横へ滑る。

 入江の刃は、空を切る。



 「遅いぞ!」 

 風間の声。



 踏み込み。


 片足を出す。


 引きつける。



 今度は、当たる。


 だが、

 手ごたえが、浅い。



「止まるな、次だ!」


 次の瞬間、

 後ろから、別のロボット。



 振り返る。


 だが、

 間に合わない。



 __ドスン!


 床に叩きつけられる。


 息が詰まる。


 全身が痛む。



「立て」

 短い一言。



 歯を食いしばる。

 立ち上がる。



 再び、踏み込む。




 __3日目。


 飛び交う弾丸。

 風を切る音。



 渓人は身体を捻る。

 紙一重で回避。



 そのまま前へ。

 一直線。


 敵をめがけて。

 斬る。



 だが、次の一体。



 2連撃。


 速い。


 避けきれない。



 押し込まれる。



「足が止まってるぞ!」

 藤原の声。


 とっさに横へ滑る。



 バランスを崩す。

 すぐに起き上がる。



 荒い呼吸。


 高まる心拍数。


(止まるな)



 走る。



 いや__違う。



 滑るように、間合いを詰める。


 片足、引きつけ。

 もう一歩。



 急激に、だが確実に。


 斬る。

 今度は、深い。


 ロボットが崩れる。


 だが、

 まだ終わらない。


 前後。


 左右。


 同時に、全方位から。


 

 回避する。


 接近する。


 斬りかかる。



 繰り返す。


 倒れても、立ち上がる。

 何度も、何度も。



 響くカウント。

 告げられる撃破数。


「......98」


 切れる息。

 それでも、続ける。



「99」


 重い腕。

 それでも、振り下ろす。



「100」

 

 最後の一体。

 叩き斬る。



 そのまま、膝から崩れ落ちる。



 滴る汗。


 乱れた呼吸。


 上がりきった心拍数。



 量をこなした。

 ただひたすらに...




 __4日目。


 何かが、変わった。


 

 __ザシン!


 短い金属音。

 

 鋭い切れ味。


 

 __動きが違う。


 無駄ががない。


 

 弾丸をかわす。

 最小限の動作。



 構える。


 踏み込む。


 斬りかかる。


 

 背後から、気配。

 ほかのロボット。


 

 振り返らない。

 紙一重の回避。


 間合いを詰める。

 流れるように。



 斬りかかる。


 崩れる。


 

 立ち止まらない。


 もう一体。


 そして、

 もう一体。



「......いいぞ」

 風間の声、今までとは違う。



 撃って。


 斬って。


 避ける。



 無駄のない動作。

 滑らかに繋がる。



 最後の一体。


 一瞬の間。


 踏み込む。



 __閃光


 ロボットは、真っ二つ。

 静寂が流れる。



 ゆっくりと息を吐く。

 全てが、初日とは違っていた。




__5日目


 重たい空気。

 感じる圧。



「今日は対人戦だ」

 風間の声。



 向かいには、藤原の姿。


「......昨日の続きとは思うな」

 首を鳴らす。



「相手はロボットじゃねえ」



「”潰し”に行くぞ」

 空気が変わる。



「始め」

 合図。



 渓人は動く。

 迷いはない。


 

 踏み込む。

 間合いに入る。



 __速い。


 だが、

 届かないブレード。



 藤原が体をそらす。


 少しの動作。


 余裕のある顔。



 __空振り。



 次の瞬間、

 横からの一撃。



 虚空を舞う。


 床を滑る。


 (......見えたはずだ) 



 起き上がる。


 もう一度。



 踏み込む。


 下から入る。


 フェイントをかける。



 だが、

 読まれている。



 止められる刃。


 押し返されるブレード。


 戻される間合い。



「遅い」

 短い一言。


 その直後、

 消えた。



 (目で追えない)



 背後。



 振り返る猶予。


 避ける暇。


 そんなものは、存在しない。



 二連撃。


 防具が凹む。


 耐久値が削れる。

 

 

 飛ばされる。

 転がる。



 (......違う)



 昨日までとは、別物。



 読めない動き。


 パターンのない動き。



 動物的だ。


 「さあ、来いよ」

 挑発。


 入江は歯を食いしばる。


 床を滑る。

 シャークDMRを構える。



 牽制射撃


 藤原は避けない。


 前段弾く。



 迫ってくる。


 渓人はチェイサーに持ち替える。


 防御の構え。



 叩き込まれる。


 衝撃。


 床が沈む。



 (......潰される)



 その時、



 __パキン!



 ブレードが割れる。



 逃げ場はない。


 呼吸を整える。


 意識を集中させる。


 

 だが、何も起きない。


 「終わりだ」


 振り下ろされる。


 __直撃。



 走る衝撃。


 消える音。


 動かない身体。



 床に倒れる。

 ぼやける視界。


「......防具、破壊」

 風間の声。



 それだけで終わった。

 完敗。


 天井を見上げる。



(......何もできなかった)



 悔しさすら、出てこない。

 ただ、空っぽだった。



 足音。

 藤原が、横に立つ。


「......今のがお前の限界だ」

 淡々とした声。


 否定ではない。

 事実。



「前回のは、ただの偶然だ」

 心に刺さる。



「再現できねえ力は、力じゃねえ」

 言葉が、重い。



 入江は、何も言えない。

 握った拳が、震える。



「でもな」


 少しだけ、間。



「悪くはなかったぜ」

 視線が、落ちてくる。



「あと一歩だ」

 その言葉だけが、残る。


 藤原は背を向ける。



「明日、もう一回やる」

 それだけ言って、歩き出す。


 残された静寂。


 入江は、ゆっくりと目を閉じた。



(......あと一歩)



 その距離が、果てしなく遠い。

 だが。



(......越える)



 小さく、息を吐く。

 握った拳に、わずかに力が戻る。





 __6日目。

 最後の一日が、始まる。


 訓練室はやけに静かだった。


 渓人が立っている。

 


 落ち着いた構え。


 一定な呼吸。


 真っ直ぐな視線。



 向かいには、藤原


「......戦う顔、してんな」

 短い言葉。

 


 入江は、何も答えない。

 ただ、構える。


 昨日までとは違う。


「始め」

 風間の合図。

 動いたのは、同時だった。 



 藤原が踏み込む。



 素早い動き。


 迷いのない判断。


 

 だが、

 渓人は動じない。


 下がらない。


 片足を後ろにずらす。

 もう片方を引き寄せる。



 ただそれだけ。



 刃が、かすめる。

 当たらない。


 間合いが、ずれている。



 入江が、踏み込む。


 

 素早い判断。


 なぞる最短経路。


 無駄のない軌道。



 __ザシン。



 浅い。


 だが。

 防具をかすめる。

 藤原の防具が、わずかに削れる。

 

 「......いいじゃねえか」

 藤原が、笑う。



 次の瞬間。

 地面を藤原。


 急加速。


 連撃。



 __来る。


 入江は、止まらない。



 傾けるブレード。


 受け流す攻撃。


 逃げていく衝撃。



 前へ、もっと前へ。



 そして、


 片足を前に出す。

 もう片方を引き寄せる。


 

 紙一重。



 一気に懐へ。

 藤原の視線が、一瞬揺れる。


 生まれる隙。


 斬撃。


 今度は、深い。

 確実に削る。


 距離を取る。

 呼吸は、乱れない。



(......見える)



 動きではない。


 “流れ”。


 どこに力が乗るか。

 どこに隙が生まれるか。


 それが、分かる。



 藤原が、再び構える。


 チェイサーを連結。

 高速回転。



「__来るぞ」

 風間の声。


 放たれるは、円形の斬撃。


 音速。



 だが。


 

 入江は、動かない。

 一歩。


 “前へ”。

 斬撃の内側へ。


 気流が身体を押す。


 だが、崩れない。

 最小の動きで、流す。


 そして。

 一気に懐へ。


 ゼロ距離。

 狙うは、回転の中心。


 チェイサーを振る。



 __ガッ!


 回転が、止まる。


 藤原の目が、わずかに見開く。


 その瞬間。


「テーザー」

 


 走る電流。


 止まる動き。



 入江は、迷わない。


 踏み込み。


 __斬る。


 深い。

 確実な手応え。


 防具の耐久値が、一気に削れる。


 だが。

 藤原も、止まらない。


 一瞬、構えが変わる

 空気が歪む


(......来る)


 だが、戻る

 「......必要ねえな」



 強引に動く。

 電流を押し切る。


 振る。


 入江は、避けない。



 同時に踏み込む。



 距離ゼロ。

 交差するブレード。



 __静止。



 数秒。

 何も、起きない。


 次の瞬間。

 互いの防具が、同時に砕けた。


「......両者、防具破壊」

 風間の声。



「引き分けだ」


 流れる静寂。


 入江は、その場に立ったまま。

 藤原も、動かない。


 やがて。


「......やるじゃねえか」

 藤原が笑う。



 息を吐く。


「これが“再現できる力”か」

 入江は、小さく頷く。

 言葉はいらなかった。


 藤原は、少しだけ視線を外す。


「......左回転」


 ぽつりと呟く。


「......使うまでもなかったな」

 軽く笑う。


 それが、最大の評価だった。

 入江は、何も言わない。


 ただ、息を整える。

 身体は、限界に近い。


 だが。

 昨日とは違う。


 “折れていない”。


 風間が、2人の間に立つ。


「いい仕上がりだ」

 短い評価。


「これなら__通る」

 断言。


 入江は、静かに目を閉じる。

 6日間。


 すべてが、繋がった。

 目を開ける。



 その視線は、もう迷っていなかった。



 あの一太刀は、もう偶然じゃない。

 “選んで出せる一撃”になった。



 __試験が、始まる。



 訓練生編、完。

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