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12 言い訳

 ザリードはその2つの部屋に、部下を二人ずつ入らせることにした。その4人はザリードが強者を厳選した。そして、その4人にはキアフールやヨーゼントに負けずに口を出して喋らせ調書とりをするようにと厳命した。


 その4人が1日でゲッソリするほどのことが中ではあったようだが、ザリードは細かくは聞かず、ただ後ほど一週間の休暇を与えてやった。


 結果的に、素晴らしい事情聴取はできたものの犯罪者グループの中で若干2名ほど壊れた。


 買った方の店の場所もある程度把握した。日にちを変えて客も変えていたのですべての買い手を見つけられたかは定かではないが、ルジェリアが捕まった時点で調査の猶予は0になった。とはいえ、これ以上女性の被害が増えるよりはいいタイミングであったといえる。



〰️ 〰️ 


 事件から1週間した週末、王都にあるルジェリアの家であるカナート侯爵邸のサロンのテーブルに5人はついていた。

 キアフールがエスポジート伯爵家の仕事と先日の売春人身売買事件について説明をした。


「そう、暗部ねぇ。あるだろうなとは思っていたの」


 ルジェリアがゆっくりとお茶を飲んだ。左手のソーサーにカップを置く。


「そうか。驚かれなくてホッとしているよ」


 キアフールもお茶を口にするが、キアフールはお茶の味がしないほど緊張している。


「そして、その存在はエスポジート伯爵家にかかっているのね」


「そうだと言えるね」


 キアフールはルジェリアの低い声にビクビクしながら答えた。キアフールの中で、家を取るかルジェリアをとるかの天秤がバッタンバッタンと揺れていた。


「私はそこへ嫁ぐと……」


 低い声で話すルジェリアがカップとソーサーをテーブルに置いた。


「ああ、だけどね、ルジェ。どんな理由であれ、俺はルジェの手を離すつもりはないよ」


 キアフールは強きな発言のわりに、ルジェリアをチラチラと見て所在なげだ。


「ふぅ…………」


 沈黙が続く中、ルジェリアが小さくため息をついた。キアフールがビクッとした。


 ルジェリアはいきなり隣に座るモナローズの肩を掴んだ。


「モナ! モナ! 聞いた? 私、凄いところに嫁ぐみたい!!」


 ルジェリアは大興奮でモナローズの肩を揺する。モナローズは揺るがない。ルジェリアの手に手を重ねる。そして、ポンポンと優しく叩く。


「暗部の領主家かぁ。すごいわぁ。

ん? そういえば、なぜ貴方たちは、私達を襲ったの?」


 ルジェリアの質問にキアフールは肩を大きく跳ねさせた。


「あのぉ、それはなぁ、そのぉ」


 まさか『ルジェリアを暗部に監視させて、ルジェリアの希望を聞いていたから』などとは、口が裂けても言えず、キアフールは口籠った。

 だが、ルジェリアの想像力は遥か彼方だ。


「あっ! わかったぁ! 嫁になれるかどうかの試験なのねっ!

あー、私達、結局1回も勝ててないのよねぇ。キアルのご両親、怒ってない?」


 心配そうに上目遣いのルジェリアに、キアフールは気が遠のきそうになる。


『か、かわいい…………』


 キアフールはダリアスに足を踏まれ我に返った。


「ああ、問題なかったよ。君たち二人の戦闘力は誰もが認めていたよ」


 キアフールは両親に確認はしていないが、ザリードの報告ではザリードの部下たちも舌を巻いていたというのだ。両親もその報告書を読んでいるはずなので大丈夫だろう。


「本当!? ああ、よかったわぁ。試験だって知っていたら、もう少し深追いして戦ったのにぃ」


「「それはダメだっ!(ダメよっ!)」」


 キアフールとモナローズの言葉が重なった。モナローズが『どうぞ』というように、掌をキアフールに向けた。


「コホン」


 キアフールがわざとらしい咳で話を続けた。


「あのぐらいの引き際でいい。深追いすると相手も必死になる。君たちは生きることを第一に考えて動いてくれ」


 尤もらしく、キアフールが纏めた。


「そうよね。家を守るのが妻の役目だもの。子供たちを逃がすことが優先だものね」


 拳をギュッと握るルジェリアの未来図では、暗部の領主の館に悪者たちが復讐に来ていることになっている。


「つ、妻……。こ、子供……」


 キアフールはキアフールで、未来図にルジェリアが自分の子供を抱いている姿を想像し、悦に浸っていた。


 ダリアスが再びキアフールの足を踏んだ。


「あ、あぁ、そ、そうだな。それが君の仕事と思っていてほしい」


 キアフールは口に手を当ててニヤけた顔を必死に整えながらそう言った。


「うん! わかったわ!

あー、でも残念ね、これって誰にも自慢できないじゃない?

こんな夢見たいな話を誰にもできないなんて辛いわねぇ」


 ルジェリアはモナローズの手を離すと、胸の前で腕を組んで、一人で頷いていた。

 ヨーゼントとダリアスは呆れて苦笑いをしているが、キアフールは目をキラキラさせてルジェリアを見つめていた。


「ま、いっかっ! モナはいてくれるし!

モナ、エスポジート伯爵邸にも来てくれるでしょう?」 


 ルジェリアは、もう一度モナローズの手を取りモナローズと目を合わせた。


「ええ、もちろんよ、ルジェ!」


 モナローズは満面の笑みで答えた。しかし、ここに割り込む男がいた。


「お待ちください!」


 予定通り、ヨーゼントであった。ヨーゼントの真面目な顔にも、ルジェリアとモナローズは怯まない。実はそれだけでもすごい。ザリードがこの場にいたら、ルジェリアとモナローズの評価はさらに上がっていたことだろう。


「なぁに?」


 ルジェリアがヨーゼントの方を見て首を傾げた。


「少々、中庭とモナローズ嬢をお借りしてもよろしいでしょうか?」


「え?」


 なぜかルジェリアが真っ赤になった。モナローズはあ然としている。


「ど、どうぞ……」


 ルジェリアは中庭の方に手を向けて指し示した。ヨーゼントが立ち上がり、モナローズに手を差し出す。


「少しだけで構いません。お時間をいただけますか?」

 

 一応、聞く体裁にはなっているが、ヨーゼントは『否』と言わせるつもりはないという気迫が感じられた。


「は、はい……」


 モナローズは頬を染めて消え入りそうな声で返事をして、ヨーゼントの手をとった。

 ザリードがここにいたら、『いやいや、それに頬染める??』とツッコミたいがツッコミできずにいただろう。

 ヨーゼントはその手を自分の腕に置き、モナローズと歩きだした。


 ザリード基準で評価してきたが、ザリードも決して普通ではない。隊ではもちろん恐れられているし、仕事もかなり重要なことまで任されるほどなのだ。

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