13 夢は夢
ヨーゼントはモナローズをエスコートし、モナローズに合わせるようにゆっくりとサロンのテラス窓から出て行った。
二人の姿がサロンから消えると、ルジェリアは目線はテラスの方に向けたまま、興奮したようにキアフールの腕をバシバシと叩いた。
「なになになに、あれぇ! あれってそういうことよね? ね!」
ルジェリアがキアフールとダリアスの方に向くと、キアフールは苦笑い、ダリアスは嫌な顔で頷いた。
「演劇の一部みたーい!! すっごーい!
ねぇ? いつからなのかしら?
運命? やっぱり、運命の出会いってあるのねぇ! ステキぃ」
ルジェリアが両手を頬に当てて目を瞑り、肩を左右に揺らした。
「運命ねぇ。ルジェリア様はそういうの好きですねぇ」
ダリアスは呆れ笑いした。今まで何度その夢に付き合ってきたことか。まあ、それは、先程キアフールが誤魔化したのを見ているので、墓場まで持っていく話となってしまったが。
ダリアスの言葉にルジェリアは目をしばたかせた。
「まあ、確かに好きよ。自分には起こらないことだからね。演劇が好きなことに似てるわね」
「「えぇ!」」
キアフールとダリアスは身を乗り出してルジェリアを見た。
「な、なぁに?」
ルジェリアは二人の態度に眉を寄せた。何も驚かれることは言っていないと自負している。
「それって、自分には起こらなくてもいいってこと? そういう出会いが夢なんじゃないの?」
ダリアスが、震える声で聞いた。
「夢だけど、夢は夢として見るからいいんじゃないの。あったり前でしょう?
演劇みたいなことは、仕事だけで充分よ。
まあ、刺激はほしいわね。だから、警邏しているのよ。刺激もあって治安も良くなる女性も助けられる。いいことばっかりでしょう!」
ルジェリアは嬉しそうに自慢した。
「そ、そうなんだ……」
ダリアスの顔は引きつり、キアフールは口を半開きにしている。ルジェリアは二人の顔を見て訝しんだ。
「それに、私はキアルと婚約しているのよ? 運命の出会いなんて必要ないじゃないのぉ」
ルジェリアは眉を寄せて当たり前だと呆れるように答えた。
男二人は肩を落とした。
キアフールは、一呼吸おいて大きく息を吸って気持ちを立て直す。
「コ、コホン! あー、なんだ、そのぉ。ルジェ?」
「もう! なぁに?」
歯切れの悪いキアフールと、先程からの訳のわからない質問に、ルジェリアは少し苛立っていた。
「それでだな。つまり、俺との、その……結婚を嫌がるとかは、その……」
キアフールは先程のセリフとはうらはらに自信なげに、ルジェリアの様子伺いをする。ダリアスは隣でため息をついていた。
「なに? 結婚? もちろんするわよ。エスポジート伯爵邸にモナと行くって、言ってるでしょう。キアルは私との結婚をやめたくなったの?」
ルジェリアは苛立ちを隠さず訝しんだ目でキアフールを睨んだ。
キアフールはその視線に身震いした。怖さではなく喜びで。
「ま、まさかっ! ルジェの戦闘力に益々結婚したくなったよ。俺にとって、本当に理想の女性だ!」
キアフールは拳を握りしめて力説した。ルジェリアはそんなキアフールにびっくりしたが、すぐに笑顔になった。
「うふふ、キアル。今度は二人きりのときに、ムード満点でつぶやくように言ってほしいわ」
ルジェリアは恥ずかしそうに上目遣いでキアフールを見た。
「!!!」
キアフールは真っ赤になりながらコクコクと頷いた。
「その夢は、婚約者がいても見ていい夢よね?」
ルジェリアは握った手を胸の前で合わせて小首を傾げてキアフールに聞いた。キアフールは、茹でダコのごとく真っ赤になった。
「うん、うん、もちろんっ!」
「ふふふ」
ルジェリアが珍しく、口に手を添えて淑女らしく笑った。キアフールは眩しい天使をみるように、優しい目でそれを見た。
「はぁ〜、やってらんねぇ……。
グエッ!」
笑顔のキアフールがルジェリアを見つめたままで、ダリアスの横腹に前蹴りをした。
〰️ 〰️
ヨーゼントとモナローズが中庭から戻ってきた。帰りは手をつないで、二人とも頬を染めていた。
「私の卒業式の後、モナの家に挨拶に行くことにしました。私の両親には卒業式で会ってもらいます。
ルジェリア様。これからもよろしくお願いしますね」
少しばかり声を上ずらせたヨーゼントが嬉しそうにチラリとモナローズと目を合わせながら、モナローズの代わりに報告した。
「え! モナ、本当に?」
挨拶に行くということは、ただのお付き合いではなく婚約を前提にしたものだろう。あまりの早い展開にさすがのルジェリアも驚いた。
モナローズがヨーゼントをチラリと見ると、ヨーゼントが小さく頷いて、モナローズの手を離した。モナローズはルジェリアのところに走ってきてルジェリアの手をとった。
「ええ、本当よ。ヨーゼはキアフール様のお家に住むのですって。ずっと、ルジェと一緒にいられるわね」
「まあ! よかったぁ。モナと一緒だなんて、嬉しいわぁ!」
ルジェリアとモナローズは繋いだ手をブンブンと動かして喜んでいた。
ダリアスは両手を頭の後ろに当ててポカンと二人を見た。
「ほぇー、もう愛称呼びかぁ。ホントに手を出させる気ないな。
グッ!」
笑顔のヨーゼントがダリアスの頭に徒手を落とした。
「ただし、条件があるわっ!」
ルジェリアは、モナローズの手を離してテーブルの方へ向いた。
ルジェリアの急な条件出しに、キアフールは姿勢を正した。それを見てヨーゼントとダリアスも付き従った。
「私達、長く付き合うことになりそうね。だから、公の小難しい人たちの前以外は愛称で呼ぶこと!
仕事中に、『ルジェリア様ぁ』なんて呼ばれたくないわ。私も二人を愛称呼びするわね。
よろしくね、ダリ、ヨーゼ」
男3人は目を合わせた。
「ぶっ! アーハッハッハ! オッケー! ルジェ、モナ、よろしくな」
ダリアスが陽気に頷いた。ヨーゼントも静かに微笑んだ。
「そうですね、ルジェ。よろしくお願いしますね」
ダリアスもヨーゼントも、そして、自分の側近を認めてもらえたキアフールも笑顔だった。
ルジェリアの顔がパァッと明るくなりモナローズに向かった。
「モナ! モナ! 聞いた? 私の人生、平凡じゃなくなっちゃうわぁ」
ルジェリアは大興奮でモナローズの肩を揺する。モナローズは揺れてあげた。
ルジェリアは結局、平凡と非凡、どちらの人生を望んでいるのか、キアフールにはわからなくなり眉を寄せて首を傾げていた。
明日が最終話となります。
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