1.『Archetype System』
ドアを開けて外に出たメグミは、カエルが降っていることに気づきました。
たくさんのアマガエルが降り注いていて、地面は緑色になっていました。そのカエルたちが好き勝手に鳴いているので、彼女はとてもうるさく感じました。
「お母さん。カエルが降っているよ」
メグミは母親に言いました。でも今日は天気予報ではカエルは降らないと言っていたはずなのにな、と思います。
「あらほんと。傘がいるわね」
母親はため息を吐くと、メグミのお気に入りの傘を用意してくれました。
メグミは喜んで傘を受け取り、外に出ていきます。地面にはたくさんのカエルがいましたが、躊躇はしませんでした。
カエルは踏みつけると、割れて消えてしまいます。丁度霜柱を踏んだみたいになって潰れてしまうのです。足をどけると、もうそこにはなにもありませんでした。気体になってしまったのです。
「じゃあ、行ってらっしゃい」
母親に送り出されて、メグミはカエルが降り注ぐ中を、小学校へと急ぎました。
サクサクと小気味の良い音を立てて、カエルであふれかえった道を進んでいきます。メグミはカエルの日が好きでした。
でも、カエルは昔はこんなにサクサクしていなかったと、メグミは父親から聞いたことがありました。
なんでも、メグミが生まれるずっと前は、カエルが空から降ってくることなどなかったようです。しかもその頃のカエルは、潰れるととても汚い汁が出ると、教わりました。
メグミはとても驚きました。そして、そんな世界は嫌だと思いました。
しばらく行くと、友人のハルが歩いてきました。彼女もカエルの日が好きでした。
「おはよう」
お互いにあいさつを交わすと、二人は歩き始めました。
しばらくすると、ハルが空を見上げ「あっ」と声を上げました。
「飛行機だ」
メグミもつられて空を見ると、飛行機がすごいスピードで飛んでいました。雲の下を飛んでいたので、とても低いなと彼女は感じました。
「ほんとうだ」
飛行機が行くところは、一つしかありません。
『Archetype System』のところに行くのでしょう。
メグミは、『Archetype System』を実際に見たことはありませんでした。
彼女のそれに対する知識は、ほとんどが学校の先生から得たものでした。
先生の話によると、二十年前にそれは突然現れたそうです。
最初それの正体を誰一人として理解できませんでした。
いや、実のところ、今も解ってはいないのです。
ただそれが、この世界にとてつもない影響を及ぼすものだということは分かっていました。それは、この世界を自由自在に作り替えることができるのでした。「私たちは閉じ込められたのです」と学校の先生は言いました。『Archetype System』を中心として、半径三〇キロより外に、自分たちは出ることができなくなってしまったそうです。
『Archetype System』がなんなのか、説明できる人はいませんでした。
みんなその存在は知っています。
しかしその姿を、ほとんどの人は見たことがありませんでした。
システムと呼ばれているから、何かの機械なのだ。
そう言っている人もいます。
いや、あれは新しい生物なのだ。
そう主張する人だっています。
要するに、誰にもわからないのです。分からないから、想像で好き勝手に言っているだけなのです。
突如出現した『Archetype System』は、領域を作り出し、半径三〇キロを自らの領土としました。
自分の領域を確保した『Archetype System』は、その中を自由に改変し始めました。
その中にいた人々は、閉じ込められてしまいました。外の世界と、完全に遮断されてしまったのです。
カエルが降るようになったのも、『Archetype System』のせいだと聞きました。メグミは、自分の世界の外に、もっと広い世界があることを知りました。
しかし、知ったからと言って、その世界で生まれた彼女に、実感はありませんでした。
もちろん当時の人たちは怒りました。
『Archetype System』のせいで、世界は作り替えられてしまい、しかも自分たちはその中に閉じ込められてしまったのですから、当然の反応でした。
すぐに『Archetype System』を破壊するためのチームが組まれました。チームは、若い人ばかりでした。しかし『Archetype System』は堅牢でした。空間を自由自在に作り替えることができる『Archetype System』からしてみれば、そんなものは何の障壁にもなりませんでした。結局チームのほとんどが返り討ちにあい、死んでしまいました。今もチームは存在していて、たまに飛行機で攻撃を仕掛けているようでしたが、それが何の意味もないことは、みんなが感じていました。
「あれに乗っている人、死んじゃうのかな」
「たぶんそうかもね」
メグミたちは、あまり関心がありませんでした。この狭い世界の出来事のはずなのに、遠いところで起きているような感覚がしていました。
「早くいかないと、小学校に遅れちゃうよ」
ハルが、ぼんやりと飛行機を見つめていたメグミに声をかけました。二人は小走りになって学校へ急ぎます。
カエルは、降り続けています。




