第14話:絶対的格差と、知る由もない日常
人間界と魔界。
二つの世界を揺るがす危機を「ボタン一つ」で全自動解決してしまったレイルの要塞。
今日も天空10,000メートルをゆったりと航行する要塞のリビングでは、平和そのものの時間が流れていた。
「レイル様、庭で採れた神級イチゴで作ったタルトが焼き上がりましたよ」
「あ、アイリス様ずるいです! 私が淹れた神聖ハーブティーも一緒に召し上がってください!」
「レイル様〜、私にも『あーん』してくださいっ!」
アイリス、エレナ、ルミアの3人が、競い合うようにレイルの世話を焼いている。
もはや、レイルにとって下界で何が起きているかなど、どうでもいい日常の一コマに過ぎなかった。
一方その頃――地上の『聖域都市』の検問所外縁。
泥とボロ布のような衣服を身に纏った人間が、地べたに這いつくばっていた。
かつてレイルを「無能な雑用係」と蔑み、無一文で追い出した元Sランク候補パーティ『暁の獅子』のリーダー・アレスと、その仲間たちだ。
かつて要塞に押し掛けた彼らは、アイリスから冷酷な一告を突きつけられていた。
『黙れ! 貴様ら『暁の獅子』の横暴と無能ぶりは、すでにギルドマスターおよび王宮にも報告済みだ。本日をもって『暁の獅子』は完全解散、ならびに全冒険者資格の永久剥奪が決定した!』
あの言葉通り、彼らは冒険者ギルドを追放され、あらゆる実績や財産を没収された。
日雇いの粗小な労働すら「王宮から処分された元悪質パーティ」として断られ続け、今日食べるパン一つすら満足に買えない極貧の生活へと転落していたのだ。
「くそっ……! なんでだ、なんで俺たちがこんな目にあわなきゃならないんだ……!」
アレスが血の滲む拳で地面を叩く。
冒険者資格を剥奪されて初めて、彼らは理解した。
自分たちがこれまで華々しく手にしてきた成果や名声は、すべてレイルの『全自動メンテナンスと完璧なサポート』によって成り立っていたものだったのだと。
自分たちを「最強」にしてくれていた至宝を自ら捨て、横暴を極めた結果が、この公式な資格剥奪と社会的抹殺だった。
だが、後悔した時にはすべてが遅すぎた。
「おい、見ろ……上空を……!」
仲間の一人が震える指で空を指さした。
見上げると、はるか上空――雲を突き抜けた天空に、荘厳で美しい光を放つ『神域魔導要塞』が優雅に浮かんでいた。
その周囲には、世界中の王族や商業ギルド、さらには魔界の使者までもがひれ伏し、レイルの「平穏」を守るために築かれた世界最大の聖域都市が広がっている。
「あ……あそこに、レイルがいるのか……?」
アレスは呆然と立ち尽くした。
自分たちがドブ底のような泥水をすすり、社会的にも完全に終わっている足元で――
レイルは世界の頂点に君臨し、各国の首脳や美少女たちに囲まれ、神として崇められている。
どれだけ叫ぼうと、要塞の周囲に張られた「神級結界」と国家規模の防衛網の前に、冒険者資格すら失った罪人同然のアレスたちごときが近づくことすら叶わない。
自分たちが「雑用係」と見下していた男は、自分たちが一生かかっても届かない遥か高みの存在になっていた。
「ああ……あああぁぁぁ……っ!!」
アレスは膝から崩れ落ち、喉をかきむしりながら絶望の悲鳴を上げた。
自らの愚かさと強欲さで最高の幸運をドブに捨て、すべてを失ったという耐えがたい事実。
それこそが、彼らに与えられた永遠の罰だった。
――そして、天空の要塞。
「ん? レイル様、どうされました?」
窓の外をふと眺めていたレイルに、アイリスが不思議そうに首をかしげる。
「ううん、なんか下界の方から羽虫の羽音みたいなのが聞こえた気がしたんだけど……気のせいか」
「ふふ、要塞の自動防衛が害虫でも弾いた音かもしれませんね。さあレイル様、タルトが冷めないうちに召し上がってください!」
「わかった。みんなで食べよう」
遠く地上で自らの罪に打ちひしがれ、崩れ去った元パーティのことなど、レイルは思い出しもしない。
関わる価値すらなくなった過去を完全に置き去りにし、最高に幸せな天空でのスローライフは、今日も穏やかに続いていくのだった――。




