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お義母様のお言葉は絶対、なのですね? でも、一つお伺いしてもよろしいかしら  作者: ましろ


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2.


 「……何を言っているのかしら」

「だって、お義母様がおっしゃったではありませんか。家族になる記念に、上の者は下の者にプレゼントを贈るのでしょう?」

「な⁉」

「そして私はペネロピより年上ですから序列としては上。プレゼントを先にもらう権利がありますわ」


 しんっとときが止まった。


「……あなたは姉なのだから我慢しなさい!」


 怒りに顔を染め、ラモーナ様が声を荒げたが、お嬢様はそっと頬に手を当て、小首を傾げる。


「まあ。では、プレゼントの権利は一番年下のペネロピにだけあるのですか」

「そうよ!」


 ──くすっ。お嬢様の唇がわずかに弧を描いた。


「お父様。よかったですわね?」


 くるりと旦那様に向き直ると、漆黒のドレスの裾がふわりと揺れた。


「……どういう意味だ」

「今後はお義母様へのプレゼントは不要のようです。我が家の家計は火の車ですもの。とっても助かりますわね?」

「な……っ⁉」

「……あなた? それは本当ですの?」


 二の句を継ぐことができず言いよどむ旦那様を、ラモーナ様が問い詰めた。


「お、お前! デタラメを言うなっ!」

「あら? もしかして、本当のことを言ってはいけなかったのですか? でも、私達はもう家族なのでしょう? だから嘘偽りはいけないと思いましたのに」


 お嬢様が申し訳なさそうに眉を下げ、謝罪の言葉を告げた。


「──だまりなさいっ!」


 旦那様が突然大声をあげ、その腕を大きく振り上げた。

 その大きな手のひらで、お嬢様の頬を叩きつけたのだ。

 十五歳の華奢な少女が立っていられるはずもなく、その体が地面へと投げ出されてしまった。


「旦那様っ!」


 あまりのことに、使用人が慌てて止めに入る。すると──


「やだ。お姉様ったら格好悪いわ」


 ペネロピ様が、お嬢様を見て笑ったのだ。


「……お嬢様」

「大丈夫よ」


 お嬢様は助け起こそうとした使用人を、手を上げて止めさせた。そのまま、おもむろに立ち上がると、ペネロピ様の前に立った。


「……何よ。文句でもあるの?」

「私、本当はこういうことは反対なのですけれど」


 お嬢様が優しく微笑んだ。その場違いな微笑みに気圧されたように、ペネロピ様の足が一歩下った。

 ──その瞬間、お嬢様が勢い良くペネロピ様の頭を叩いたのだ。


「きゃあっ⁉」


 倒れ込むほどの強さではない。それでも、ペネロペ様の母ゆずりの髪が乱れ、薄紅のリボンがその衝撃に揺れた。


「ペネロピ⁉ シャーロットさん、何をするの⁉」

「え? 教育的指導ですが。だって、先ほどお父様が私にもしたではありませんか。腹に据えかねる悪行には体罰も辞さない。これがエイベル家の決めごとのようですのでご承知おきくださいませ」


 お嬢様の頬に赤くあざが浮かんでいる。しかし、それを気にすることなく微笑んだ。


「それでも、傷が残ってはいけませんので、少々手加減をして頬ではなく、頭を叩くにとどめました。葬儀の場で我が家の内情を疑われたくはありませんもの」


 笑みを崩すことなく、旦那様とラモーナを見据えた。


「酷い! お姉様が叩いたわ! お父様っ、ちゃんと叱ってよぉ!」


 ペネロピ様が声を上げるも、さすがに冷静になったのか、旦那様が咳払いをした。


「……ペネロピ。まずは部屋に案内しよう。シャーロットに構う必要などないのだから」


 二人の肩を抱き、屋敷の中へと連れて行こうとした。


「お父様、早急に葬儀の手配を。お母様が亡くなって、すでに半日以上過ぎております。このままでは、何か後ろ暗いことがあるのかと疑われてしまいますよ?」

「分かっているっ!」


 旦那様は鼻息荒く言い放つと、今度こそお二人を連れ、屋敷へと入って行かれたのだ。

 三人が去ると、一気に冬の寒さが強まったように感じられた。

 すると、それまで毅然とした態度を崩さなかったお嬢様が、力が抜けたかのように座り込んでしまったのだ。


「お嬢様⁉」

「……ごめんなさい、ちょっと気が抜けてしまったわ」


 眉を下げ、そう訴えた姿は十五歳らしい表情に戻っていた。


「……だめね、お母様みたいな毅然とした姿を目指したいのに」


 吐き出された息が、小さく揺れた。


 お嬢様のお母様でいらっしゃるクリスティアナ様は気丈な方だった。

 旦那様は、最愛の恋人を押しのけて妻の座についた奥様を嫌っておられた。

 大旦那様がお亡くなりになった途端、ろくに屋敷に帰らなくなっても、女手一つでこの家を守ってこられたのだ。


「ですが、お嬢様。このままでは」

「……大丈夫。もう、ずっと前からお母様に教えられてきたから」


 お嬢様が小さく息を吐いた。


「あと少しだけ待って? あなた達のこともちゃんと考えているから」


 お嬢様はそう言って、精一杯の笑みを見せた。


「──承知いたしました。まずは頬を冷やしましょう。赤くなっています」

「いいえ。このままでいいわ。だって、分かりやすいでしょう?」


 痛々しく腫れた頬を、使用人達が困ったように見つめる。


「……では、湯の用意をしてまいります。それまではどうぞ、お部屋でおくつろぎくださいませ」

「ありがとう。そうさせてもらうわ」


 使用人に支えられ、それでもしっかりと背筋を伸ばし、お嬢様は屋敷へと戻っていった。





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― 新着の感想 ―
シャーロット! 応援する。絶対応援するよ! お母様が亡くなった日に愛人と娘連れてきた父親に殴られるなんて!! シャーロットと使用人の皆さんがが幸せになること信じてるよ!
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