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猫の日 小話


ある晴れた日のこと。


昼の休憩から戻ると、宮廷は少しざわついていた。

建物の外の至る所で、下級使用人から中級官吏に至るまでがうろうろと、何かを探すように歩き回っているのだ。


親友アンリと顔を見合わせ、メイメイはきょとんと目を丸くした。


「中級文官たちまで外にいるのって珍しいね。 何してるんだろう?」


「お昼まではいつも通りだったのにね。 ……あ、ハクさん」


「やあアンリ、それにメイメイも。 君たちも陛下の猫を探しているの?」


「陛下の猫?」


通りかかった顔見知りの武官に話を聞いたところ、どうやら一昨日から戻ってこない陛下の飼い猫を、みんなで捜索しているらしい。


「それでこんなに人があちらこちらを……」


「声を掛けられていないなら、いつも通りの仕事をしていればいいと思うよ」


「わたしたちはまだ何も言われていないわよね」


うんうんと頷き合っていると、後ろから砂利を踏みしめる音がした。

振り返ると、女官仲間の一人がこちらに駆け寄って来ている。


「アンリたち! ちょうどよかった! もう話は聞いてる? 陛下の猫のことなんだけど――……」


「あ……」


どうやらメイメイたち一部の女官にも、猫を探す任務が下ったようだ。






「よし、探そう!」 


ということで、いざ、捜索の時間である。


メイメイたちは正門に近い区画の、建物群の隙間を任された。

とりあえずアンリと共に左右に視線をやりながら、ゆっくり歩く。


「そもそも陛下の猫がどんな見た目かも分からないけど、これ、わたしたち役に立つのかな」


「そうよね……。まあ、こんなに道行く道に人がいれば、誰かしらは見つけられるんじゃないかしら」


頭数を揃えるために声を掛けられただけだろうと、二人で気軽な気持ちで探し歩くことにした。


「わたしね、屋敷のそばでたまに見掛ける猫がいたんだけど、すごい可愛かったんだよ。飼えるなんて羨ましい……」


「わたしは絵でしか見たことないのよね」


「そうなんだ! 物腰が優雅でね、存在自体が素晴らしいの。餌を持ってると、たまにすりすりしてくれたんだけど、そうやってちょっと構ってくれると、もうときめきがとまらなくて……」


思わず握りしめた拳を振りながら、メイメイは力説する。


「え、かわいい! メイメイに懐いていたのかしら?」


「いや、餌が気に食わなければ素っ気なかったし、餌だけ食べて冷たくされることもあったから、そんなことはないと思う……。気まぐれに振り回されて一喜一憂してたよ。なかなか会えなかったから、一目見れただけでも本当に嬉しかったなぁ……」


(そういえば、あの方もそんな感じかも。 優雅で、滅多に会えなくて、ふとした言動でわたしを毎回大喜びさせる――……) 


「いたぞ!」


「そっちに走って行ったよ!」


「うわっ」


やがて、少し離れたところの集団から声が上がった。

視線を向けると、ちょうど彼らの足元をしゅっと走り去る影が見えた。


「え、逃げてる猫ちゃん捕まえるのって難しくない?」


「急に掴んだりして痛い思いをさせてしまってもいけないし……」  


わたわたと後を追う人々を眺めながら、メイメイたちは呟く。


「お腹が空いたら戻ってくるんじゃないのかな」


「ほとんど外に出たことがない仔だから、心配なんですって」


「人がこんなにいたら、なおさら怖くて逃げちゃわない?」


「それは……、そうね」


もはや一介の女官には如何ともしがたく、半ば諦めの境地でその騒ぎを見守る。




と、そこで、これまででいちばんのざわめきが聞こえてきた。


正門の方から、大勢の人々が誰かを囲むようにして歩いてきている。

その中心には二つの影があり、メイメイはそのうちの一人を認識すると、ぱっと目を輝かせた。



「王子殿下、ならびに首席補佐官のお通りです。皆のもの、頭(こうべ)を垂れなさい」


「「我々を眩く照らす太陽にご挨拶申し上げます!」」


「……猫探しにこれほど人が集まっていたのか」


少し驚くような声を上げた王子の隣に、首席補佐官ソユンがいた。

見目麗しい二人がすぐ近くに現れたので、頭を下げる使用人たちは、見るからにそわそわしている。


(ソ、ソユン様だーっ!)


もちろん、メイメイもである。


体勢はそのままに、必死に視線だけを持ち上げる。 

はたしてそこには、美しい毛並みの猫に付き添うようにして、ソユンが佇んでいた。


猫は尻尾をぴんと持ち上げて美貌の役人の足元にすり寄っていて、どうやらとても懐いているようだ。

ソユンがしゃがみ込み、よいしょと猫を持ち上げる。


「みんな、陛下の愛猫は無事確保できたから、持ち場に戻っていいよ。ご苦労だったね」


「ふん、やはりそなたを見たら駆け寄ってくると思った。……陛下が心配されていたのに、こんなにも呑気に過ごしていて、この国でいちばんの大物なんじゃないか?」


「ふふ、昔よく餌をあげていたのを覚えてくれていたようですね」


二人の進行方向はメイメイたちのそばの建物らしい。

人をぞろぞろと伴って、ソユンも目の前を通り掛かる。


(うわー、近い近いっ……! こんなところで間近に見られるなんて、今日はすごく運がいい日…… ) 


再度ぐぐっと視線を上向けて目の前の人を盗み見ると、ふと、彼が視線をこちらに向けた。


(あ、もしかして今目が合ってる――……) 


機嫌よく目をくっと細めて、声は出さずにソユンが口を動かした。


『赤毛ちゃん、またね』

 




やがて王子一行が立ち去ってゆき、皆がばらばらと解散していく中、メイメイは突っ立ったまま、呆然としていた。


「………メイメイ、聞こえてる? 大丈夫かしら……。メイメイ?」


「はっ……!」


心配そうなアンリに肩を揺さぶられ、ようやく我に返る。


「まさかソユン様たちをお見かけできるなんて思わなかったわね! ……あら、なんだか顔が赤いみたい」 


「だっ、大丈夫だよ! ちょっと今日暑いのかな、ほら、ずっと外にいたしっ……! よし、わたしたちも戻ろう!」


火照っていたらしい顔を手で仰ぎながら、メイメイはもう片方の手でアンリの手を取り、使用人へ棟へ向かった。



――やっぱりソユンは猫みたいだと、メイメイは思った。

優雅できれいで、ふとした挙動の一つで、こんなにもメイメイを喜ばせる。


メイメイはその夜、胸のときめきが収まらないまま眠りについたのであった。



小話まとめに上げていた番外編です!

検索除外にするにあたり、こちらへ移しました(n*´ω`*n)


猫の日に因んで。

2026.2.22投稿分


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