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王子様と夢みる女官  作者: 笹野にこ
八章 恋心の自覚
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8-3. 謎の状況に困惑します

!中盤、少し感じの悪い発言があります!






 


「こんにちは、メイメイさん。こんな(ひな)びたところまでようこそ!」

 

「メイメイ嬢、僕の母と父だよ」

 

「あ、えっと、初めまして! シンさんとは宮廷での仕事仲間のようなもので。あの……、わざわざお出迎えまで、ありがとうございます……」



そして今、メイメイは玄関口で出会ったシンの両親に囲まれて、広間まで連行されている。

  

「どうぞこちらへ。お茶の用意ができているんだ。メイメイさんのお話を聞かせてくれるかな」


そして、シンの親同伴の茶会が始まったのだ。



  

馬車での息苦しさからようやく解放されると思っていた矢先の出来事に、メイメイの心は置いてけぼりを食らった。


(えっと……。玄関先で挨拶するだけじゃだめだった? 初めて出掛けたその日に親って同席するもの……? なんかもう、みんな諸々の距離が近いし……)


 

茶器や菓子の並べられた丸机は予想以上に小さく、肘でも当たりそうな距離感で隣り合わせになっている。

ただでさえ場馴れしていないメイメイは、とても落ち着かない。



――そのうえ、だ。 


 

「メイメイさんはシンと同じ宮廷で勤めているそうだが、東部にお住まいのお父上は地方官僚だったかな」

 

「あ、ええと、父は領主ですが官職には就いていなくて……」


左からシンの父親が話しかけてきて、

 

「メイメイさんは普段どんな仕事をされているの? いつ頃まで続けるつもりなのかしら」

 

「最近文書課に移りまして、まずは筆や紙など備品の管理するところから始めています。それで、あの、今は仕事に専念することしか頭にないので、えーっと、いつ頃までというのは特に……」

 

右からはシンの母親がぐいっとくる。

  

「どうして地方ではなくわざわざ王都に? 宮廷勤めは我々のような一般貴族には人気の仕事だから、大変だっただろう」


そうしてまた父親のほうが食いついてくるのだ。


 


 

「社会勉強のために……ええ、はい……」



この状況は、いったい何なんだろうか。

 

せっかく用意してくれた温かなお茶で和む暇もなく、メイメイは両側からの怒涛の質問を浴び続けている。

 

一応最初の頃は、シンへ視線を送り、助けを求めることもあった。

質問が将来や家のことばかりで、関係を誤解されているように感じ、どうにかしてほしかったからだ。

 

しかし、時たま思わせぶりにメイメイに視線を返してくるだけで、彼はたじろぐ彼女に助け舟を出すこともしなかった。



  

何のために連れてきたのか、親にどんな説明をしたのかは分からないし、もはや知る気にもなれない。

せっかく楽しかった観劇ですら、このお茶会にとどめを刺されて、今は色褪せてしまった。




劇場で解散しておけばよかったと重苦しいため息を吐いて、メイメイは目の前のお茶を飲み干す。


 

「おや、メイメイさん。もうお茶が空になったんだね。お代わりはどうかな?」

 

「あ、いえ、結構です……」

 

「シンから話を色々と聞いていて、私たちもお話がしたかったのよ」

 

「あはは……」


 

そうして質問に区切りが付いた頃には、メイメイはすっかり草臥れて、不貞腐れた気持ちになっていた。


(まぁでも、シンさんがお付き合いには向いていない人だと分かっただけでも、今日の収穫だと思うことにしよう。あとは早く宿舎に戻って、アンリに愚痴を聞いてもらって――…)



「シン、メイメイさんはこの辺りに来るのが初めてなんだろう。今後のことも考えて、案内してやったらどうだ」

 

「それもそうですね。何もない田舎だけど、気に入ってくれると嬉しいな」

 

「え……」


思わずちょっと嫌そうな声が出てしまったので、咳払いで誤魔化す。



 

(でも、これって屋敷から抜け出すいいきっかけなのでは……?)


形だけ外出して、そのまますぐに帰ってしまえばいいのだ。


メイメイは少し悪いひらめきに元気が湧いてきて、やや唐突に立ち上がる。

少し驚いたような視線が両側から向けられた。


 

「そ、それではお言葉に甘えて! シンさんのお父様お母様、長々とお邪魔してしまいましたが、今日はありがとうございましたっ!」

 

「夜はこちらで用意しておくから、一緒に食べましょう」

 

「いえ! 暗くなってもいけないですし、少し歩いたらそのまま宿舎へ帰ります」


 

態度はあまりよろしくないかもしれないが、敢えていい印象を残しておく必要はない。

提案をささっと突っぱねると、シンを促して広間を退出した。

 


 


「馬車を出すよ。寄りたいところはある?」

 

「食べすぎてしまった気がするので、腹ごなしの運動も兼ねて歩きたいです。近くの市場に乗り合い馬車があったかと思いますので、そこまで案内してくれますか?」


優柔不断なメイメイにしてはかなり珍しく、自分からぐいぐいと仕切ってみた。

彼女の思いつく、最短かつ最速での帰宅計画である。


 

「確かにあの市場は栄えているから楽しいだろうね。でも次は馬車を出すから、お構いなく」


(もう来ないし、気兼ねしてるから断ったわけでもないけどね!)


心の中で舌を出し、嫌味を言ってやるくらいには、メイメイの心は荒んでいる。

彼の両親も踏み込みすぎな気はするが、その態度を助長しているのは大方この目の前にいる男のせいだろう。


 

市場に向かって、今度はシンの横に並ぶくらいの早歩きをしてみせる。

少し冷たい風が、今のメイメイにはちょうどいい。

 

相槌も手短に、メイメイは今日の別れ方に思いを巡らせた。

 

数回、それも集団に紛れて顔を合わせただけのメイメイが、初対面の彼の家族に恋人のように扱われたのだ。

ここで良いように解釈されてしまったら、次会う時なんて嫁扱いになりかねない。


そんなわけでメイメイは、少し意思表示を頑張ってみることにした。


 

「こちらへ来る機会はそうそうないかと思うので、その、こちらこそお構いなく。……もうお会いする機会もないかもしれませんし。任期が明けたらまたこちらに戻られるとのことなので、お元気で。今日はありがとうございました」


 

市場に差し掛かった辺りで、たどたどしく告げてみる。

隣にいるシンの肩が、ぴくりと動いた。


「……そんなつれない言葉は聞きたくないな。僕の気持ちは分かっているだろう? 君も同じ気持ちだから、今日こうして会っているのだと思っていたんだけど」


 

メイメイは人付き合いに慣れていないが、彼も男女の親交の順序をすっ飛ばしている気がする。

二人で出掛けたら即恋人というのは、一昔前の風潮だ。

 

それなのに、初めて一緒に出掛けただけのメイメイが断る姿勢を見せたからといって、不機嫌にならないでほしい。

急にシンの声色が暗くなり、メイメイは本日何度目かの後悔をした。

 


(ああ、やっぱりこの場は適当にやり過ごしておいて、手紙なんかで改めて伝えるべきだったかな……。対面だと適当な言葉がすぐに出てこないし、こんなにもきまりが悪い)


 

なんとか言葉を絞り出して、メイメイはそれに応じる。

 

「あの、わたしはそういうつもりはなくて。友人と出掛けるような感覚でいたんです」

 

「いつも僕には愛想よくしてたのに……。うぶなようでいて、気を持たせるのが上手なんだな」


蔑むような物言いに、思わずかっとなって相手を睨んだ。

  

「別に、あなただからと特別に態度を変えた覚えはありません。付き合いを続けるのは難しそうだと分かって、お互いによかったですね! ……ご案内もここまでで結構です。後は自力で帰りますので!」


そうして言い返すと、目の前の男の目がつり上がる。


 

「なんだよ、高貴な方に気に入られているからって、自分もお高くとまっているんじゃないか!?」



大きな声、険しい表情。

今まで目の当たりにしたこともない剣幕に、メイメイの頭は真っ白になった。


(ど、どうしよう……。どう切り抜けたらいい? 誰か……)


ちょうど人がすいている時間帯なのか、まわりに人影が少ない。

まばらに通りかかる人も、面白そうにちらりと視線を向けるか、無関心だ。


少し近くでざわめくような声がしたが、気を向ける余裕はない。


  

それにしても、高貴な方とは誰のことだろうか。

辛うじて思い当たるのはソユンだか、彼を慕っているメイメイとは違って、ソユンにとっては大勢いる取り巻きの一人に過ぎないのに。



「も、もう放っておいてください! わたし……」


「怖がる女性に怒鳴ってみせるなんて、褒められた真似ではないね」



手を胸の前で握りしめ、身体の震えを懸命に抑えるメイメイを庇うように、二人の間に人影が差し込む。

 

優しくて綺麗な声。

甘く清らかな香り。

メイメイの前に立って守ってくれるその人は―――…


 


「ソユン様!」



 

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