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王子様と夢みる女官  作者: 笹野にこ
八章 恋心の自覚
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8-1. 人付き合いを頑張ります!

現在のメイメイへ視点を戻します!


引き続き、彼女たちを温かく見守っていただけたら幸いです…♡






 

 朝晩に一抹の涼しさが加わり始めた、今日この頃。



 

メイメイがいそいそと宿舎の廊下を歩いていると、ちょうど食堂から戻ってきた別室の少女と出くわした。



「あれ、メイメイだ。今日もお出かけ?」


「あ、リンちゃん!そうだよ、八の通り沿いにあるお屋敷でお茶会!」



最近のメイメイは、なんと休日を使って、年頃の男女が集まるお茶会なるものに参加している。

 

以前趣味の集まり(読書の会)の参加者に誘われて家を訪ねたところ、なんだかんだで楽しく過ごすことができた。

これをきっかけに抵抗感は減っていき、声を掛けられたら行ってみる、というのを繰り返しているのだ。



 

こうして社交への努力をしているのも、きっかけはソユンである。

 

彼と王子の関係を知り、熟考した結果、メイメイは今後もいつも通りソユンと関わっていくことに決めた。

王子の意向がはっきりしない以上、ソユンがメイメイを受け入れてくれるのならば、あえて付き合いを控える必要はないからだ。


 

(私が会う努力を怠ってしまったら、いよいよ顔を合わせる機会もなくなってしまうからね! それは嫌だから……)



ただ、メイメイの感情がソユンに影響されすぎている自覚はあった。

女たらし発覚事件の時なんて、しばらく普段通りの生活が(まま)ならなくなっていたほど。

 

あまりソユンだけに目を向けて他の人との付き合いが疎かになってしまうことは、本来のメイメイの王都に来た目的に反しているとも言える。

 

だからメイメイは、色々な人と知り合って交友関係を広めつつ、その上でソユンとの適切な距離感を見極めたいと考えた。


 

――ソユンへのきらきらとした憧れ、仄かな独占欲、焦燥感にも似た逸るこころ。

 

これらの感情は、果たしてどんな名前をつけられるのか。

それはきっと、人付き合いを経験していくうちに明らかになるだろう。

 

(でも、今はその未来があまり怖くない。いざという時に頼りにできる友達が、わたしにはできたから――…)

 




 


「メイメイ、久しぶりね。ようこそ!」


「ハルちゃん、誘ってくれてありがとう! 王都にこんなところあったんだねえ」


「なかなかいい場所でしょう? 出てくる茶菓子も美味しいから期待していて!」



敷かれた白砂が眩しく、ぼんやりと空色に染まる小さな池は、整えられた松を静かに映す。  

そんな前庭を一望できる広々とした室内には程よく人が散らばり、思い思いに談笑していた。

 

王都ならではの、洗練された雰囲気だ。

 

初めて来たこの場所は、王都で働く若者たちが使える社交場で、今までも時々こうした集まりが開催されていたらしい。


 

「わあ、楽しみ! ……あ、そういえばこの間実家から持って帰ってきた本だけど、よかったら読む?」


「えっ、気になってるって伝えたやつ? ありがとう、メイメイ! 次の会までに返すね」


「えへへ、感想待ってるよ!」 


 

誘ってくれた女の子はハルという名前で、王都の高位貴族宅で侍女をしている。 

 

性格はアンリに近く社交的で、本の趣味はメイメイとよく似ていた。

親近感から、読書の会ではメイメイの方から声を掛け、知り合いになった珍しい女の子だ。



 

(今日は特に知り合いが多い集まりでよかったーっ! いつも以上に社交に勤しめている気がするぞ……!)

 

来て早々に親しい知人とお喋りができたメイメイは、その後もなんだか調子よく、知人らと一言二言会話を交わして回る。


 

そうして程よく喋り疲れ、休んでいようかと空いている長椅子に座ると、近づいてくる人影が視界に入った。


  

「メイメイ嬢、しばらくぶりですね」

 

「あ、シンさん」

 


視線を上げると、目の前には落ち着いた雰囲気の青年が立っていた。

同じ集まりに参加することも多く、先日は担当場所は異なるものの宮廷勤め仲間であることが発覚した。

  

元々は地方文官で、少し前から宮廷へ一時的に派遣されてきているらしい。

メイメイがこういった集まりに参加しなければ会わなかったはずの人だと思うと、出会う機会の不思議さを感じる。


 

「今度一緒に観劇に行きませんか。いい席を確保することができたんです」

 

「……へ? わたしですか」


予想外の言葉に頭の処理が追いつかず、メイメイはきょとんと目を瞬かせた。


  

「はい、あなたとぜひ一緒に行きたいと思いまして。いいですか?」

 

「あ、……はい。大丈夫です……?」


 

適した返答が思い浮かばず、とりあえずメイメイは頷いてみる。

すると、目の前の人は表情を明るくして、それはよかったと笑い掛けてきた。


 

「今度メイメイ嬢が普段過ごしている棟の控えに寄りますね。詳しい予定はそこで話し合いましょう」

 

「あ……、はい、分かりました……」

 

「ではまた」

 

「ええ、また……」


 

ひょいと会釈をされて、思わず同じように返すと、満足げな表情で青年は去っていった。

情報処理の追い付かない、思考停止中のメイメイをその場に残して。


 

(………えーっと、待って。咄嗟に承諾しちゃったけど、これって男女の交際的なお出かけ? それとも普通に友人として!?)


理解が追いついてぎょっとした時には、青年の背中は既に遠く。


(完全に聞く機会、逃しちゃったやつ……)



同じ宮廷勤めだけあって、思い悩んだり心の準備をしたりする猶予はない。

 

翌日には颯爽と控えの間に現れ、日付を指定され、当日の予定なるものを伝えられた。

またも、去っていく後ろ姿を呆然と眺める羽目になったのだ。



 

  

(とりあえず、二人で観劇に行くらしい………)

 

こうした時の対応方法がさっぱり分からないメイメイは、とにかく頼れる親友アンリに相談することにした。

迷惑料として、お土産のお菓子を捧げておく。

 

 

「シンさんね……、確か、南部の方から一年の期限付きで派遣されている文官と聞いたわ。取り立てて華やかな話題を聞いたこともないから、軽々しく女の人を誘うことはなさそうだけど」


 

さすがは情報通のアンリだ。


言い方は悪いが特に有名でもない()の役人なのに、名前とメイメイの知っている情報を伝えたら、見事に照合してみせた。

 


「メイメイ、どんな服を着ていくの? 当日はどんな予定になってる?」

 

「あっ、服を決めなくちゃいけないよね。……えっと、当日は昼過ぎに劇場で合流して、そのままどこかでお茶して、それでお開きとかそんなもんだと思う」


そこでメイメイは落ち着かない気分になった。

当日のことを考えたら、二人で出掛けるという実感が湧いてきたからだ。

 


「ねぇ、こういう時ってめかしこんだりした方がいいのかな? なんで誘われたのかさっぱり分からないんだけど……」

 

「それほど気負わなくてもいいとは思うわ! 人気の劇だから楽しみつつ、シンさんと親しくなれそうなら交流を深めるきっかけにすればいいんじゃないかしら」


 

世慣れずあたふたするメイメイに対して、本当に心強い味方である。

てきぱきと状況確認と助言を済ませると、メイメイの衣装棚を見て服の組み合わせを考え始めてくれた。

ささっと、上衣から小物まで。


 

「例えばこの服なら、鞄はこれ。手袋はこの二つのどちらでも合いそうだから、あとはお好みに合わせた方にしてみて」

 

「うわあ、わたしが普段がんばって考えてる外出着より、よっぽどおしゃれな装いに……!」


「いつものメイメイも可愛いわよ」


 

そんなこんなで、すぐに当日の服装が決まった。

 

こんなにいつも快く助けてくれるアンリには、感謝してもし足りない。

せめて彼女が困っている時には、絶対に手を尽くして助けるのだ。


 

「わたしもいつもメイメイとお話できて楽しいし、頼ってもらえると嬉しいもの。そんなに気にしないで、これからも仲良くしてちょうだい」   

 

「あ、声に出てた!? ちょっと恥ずかしいな……。わたしね、優しいアンリが大好き! こちらこそ末永くよろしくねえ……!」


 

こんなの、物語で憧れていた女友達とのやりとりではないか。

温かい友情に感情が高まってきて、たまらずアンリに抱きついた。

 

人見知り克服のために王都に出てきたメイメイだが、こんなに得難い友人ができたおかげで、目標は達成されつつある。

あとはほかで何があっても、きっと大丈夫だ。


 

そんな心持ちで、気づけばお出掛けの当日となった。








 

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