5-2. 王子はやっぱり人気者だった
あっという間に2月ですね…(*´ω`*)
少しでも楽しくお読みいただけたら幸いです!
会場の入り口で、どっと一際大きな歓声が聞こえた。遠目から見ても分かる、まとう雰囲気のきらびやかな集団。
―――いよいよ待ちに待った、王子殿下御一行の入場である。
先導武官の後ろを堂々と闊歩しているのが王子だろう。
身に纏う濃紺の上衣には、王族にしか許されない金糸でふんだんに刺繍が施されている。
儀礼用の冠帽からは金細工の装飾が、帯からは複雑に編み込まれた三色の絢爛な飾り紐が垂れ下がり、持ち主に似て勇ましく揺れるさまは思わず目を引く情景だ。
大小さまざまな箱を掲げ持つ使用人たちの列がそれに続くのもまた、圧巻の光景である。
今回の武芸大会の要と言える集団が満を持して登場したのだ。
武人のような逞しい男性から自席で座っていた令嬢まで、気づけば皆が立ち上がって歓声を上げ、大きな拍手で迎えていた。
「まさしく今日の主役って風格だね……!後ろの人たちはあんなにたくさん、何を持っているんだろう?」
「殿下への贈り物だと思う。直接献上するわけにはいかないから事前に受付に渡して、当日会場に運び入れる手はずだと聞いていたから。大会の象徴でもある方だから、ご本人も贈り物も、ああやって大々的に披露する必要があったのね」
「なるほどね!一人宛であれだけ贈り物が集まるってすごいね、人気者すぎる……」
「そうねぇ。実際に殿下が出場されるのを見たことがないから、わたしもこの光景は初めて見たけれど、……壮麗ねぇ」
皆が熱狂の嵐に包まれる中、軽く手を降ってそれに応えた王子は、そのまま控えの場として建てられた仮設の天幕に向かう。
献上品は天幕前に設置された荷台へ次々と置かれていくのだが、量が多すぎて人々の列はなかなか途切れない。
「ねぇお母さん、王子殿下はあの中から贈り物を選ぶのかな?」
「さすがにもう決めてあるんじゃないかしら……。でも、もし今から選ぶなら気になるわねぇ」
「!」
市場のように並ぶ品々に目を楽しませていると、座席のすぐ隣で交わされた会話が耳に入り、メイメイははっとした。
(そういえばさっきも、選ぶ選ばないでどきどきはらはらな展開になってた! 決まった相手がいないという王子にだって、この場をきっかけに恋物語が始まってしまう可能性はあるんじゃないの……!?)
王子が品物をちらりと見遣る素振りを見せた途端、あれだけ騒がしかった会場が一瞬静まり返った。
どうやら、みんなその動向が気になっているらしい。
「ねぇ、アンリ。そういえば、以前出場していた未成年時代はどうお選びだったんだろうね?」
「王族代表としてのご出場だから、贈り物の授受はなかったみたいよ。今は優勝者に贈り物を授けるお立場だし、主催の立場ではない今回だけが特別な機会なんでしょうね」
ということで、当然ながら選ばれるかもしれない贈り物は、注目の的になっているというわけだ。
野次馬精神でメイメイもつい目を凝らして見ていると、天幕の中からするりと出てきた人影を発見した。
華やいだ儀礼服を着て王子を出迎えているのは、遠目からでも美しい首席補佐官様である。
「あっ!え、待って、天幕にソユン様がいらっしゃったよ! ………うわぁ、公式行事の時ってあんな華やかな格好するんだね! 眼福………」
「あら、よく見つけられたわね。さすがメイメイ」
「えへ、野生育ちで目がいいの。……はあ、ソユン様が出るような特別な行事ごとには普段縁がないから、見れて嬉しすぎるよー! ……髪は簪で留めていらっしゃるのかな。いつもより凝った髪型もとても素敵……。アンリ、見て見て! やっぱりあのお召し物、本当によくお似合いじゃない? うぅ、あのご衣装で姿絵出回らないかなぁ。実家の部屋に飾りたい……」
「ふふ、何かの記念式典にでもお召しになれば描かれるかもしれないわね……、あら?」
垣間見えたソユンにはしゃいでいると、いつの間にやらアンリの知り合いがやって来た。
どうやらそちらは何人かで大会を観戦しに来ていて、ちょうど見かけたからと声をかけてきたようだ。
人見知りを克服しつつあるメイメイも、明るく陽気なほぼ初対面の面子が楽しそうにお喋りしている場面には、まだ便乗する勇気がない。
紹介しようかという視線を送ってきたアンリには、謹んでお控えしたい旨を視線で訴え返し、ソユン鑑賞に専念し直した。
彼を注視するということは、必然的に彼の主も視界に入るわけで、となるとふとあることに気がついた。
「……王子様、特に何も選ばなかったんだ!」
「王子殿下はあの中から欲しいものはなかったのかしら?」
隣の席の二人組も同じことに関心を向けていたようだ。
声が重なり、思わず視線を向けると、あなたも気づいた?と興味津々に話し掛けられる。
楽しげな表情のよく似た二人は母娘だそう。
今年が初めての観戦だとか王子の姿絵を集めているだとか、どことなく共通点があり、メイメイも親近感から楽しく会話を続けることができた。
急遽結成されたこの三人組からも大注目を浴びる王子は、結局一瞥した後に贈り物を吟味するわけでもなく、ソユンに手伝われながら武具を身に着けていった。
「さすがに全部着けるわけにも一つを選ぶわけにもいかないから、受け取るだけに留めておこうって感じなんでしょうか?」
「王子様なんだから、みんなの前では自由に選べないですよね。さすがに……」
「それか、もうどなたかの贈り物を身に着けていらっしゃるか!」
「え、その説いいですね!密かな想いって感じで、ときめいちゃいます……!」
突如浮上した夢あふれる妄想に、思わず娘さんの方と盛り上がってしまう。
どうやら同じような少女趣味をお持ちのようだ。
「うーん、意外に装飾品は身につけていらっしゃらないみたい……。目立つのは飾り紐くらいかな?」
「さすがにそれが贈り物なら露骨すぎません?やっぱり手巾くらいのものを懐に忍ばせてるとか」
「見せつけるのも秘密にするのも、どちらでもありね……」
いつしか誰のものを選んでいないという可能性は排除して、色々と想像を膨らませるメイメイたちであった。
開幕まで残り数刻だと知らせる鐘が鳴ると、アンリの知り合いたちは席に戻っていった。
メイメイも、お隣さんと今日は楽しみましょうと頷き合うと、またアンリと話を始める。
贈り物については観客たちも何となく予想していたのか、様子を見届けると再び各々で好き勝手に賑わい始める。
大会直前の期待感からか王子の入場時くらい盛大なにぎわいとなってきたため、近くで交わされていた会話は、メイメイの耳には届かなかった。
「誰のものも選ばないに賭けて正解だったな。ほら、負けたやつはこの後奢れよ」
「ったく、選ぶに賭けなければよかったよ。確かに、あの別嬪に付きっきりで世話してもらえるなら、他の贈り物なんざ目もくれないのは当たり前だよな」
「俺はあのお方が選ばれし方だと思うんだがな。入場なさる前にでも何かしらお渡ししてるだろうよ」
「俺もソユン様がおられるのに他のものなんか選ばんと思ってたが、その可能性もあるのか……。はは、結局確かめようもないから賭けはなしだな!」
「なんで数多の贈り主とあのお方を同列に語るんだよ。……いや、そういうことか?」
「だろうな」




