5-4. 王子はやっぱり強かった
始まった競技は、とにかくどれも見応えがあった。
観客も勝者には大きな喝采を、敗者には惜しみない賞賛を送る。とてもいい雰囲気だ。
「次の出場者はあの七人ね。……ふむ、馬に乗って弓で的を当てる競技だって。どの人を応援しようかしら?」
「わたしはあの青葉色の帯の人にする! 自信ありそうな顔じゃない?」
特段推し出場者のいないメイメイ達は、競技ごとに応援する人を決めては結果に一喜一憂した。
「まあ、また当てたわ!」
「これで何回目? アンリ、目の付け所がよすぎる……」
見る目のあるアンリが推した選手は次々と点を獲得していき、アンリは嬉しそうに歓声を上げる。一方メイメイが応援する選手の戦績は見事に散らばっていて、これまた応援には熱が入る。
二人とも時に肩をたたいて笑い合い、時に固唾をのんで見守りながら、観戦に熱中した。
「あ゙、アンリ、殿下だよ゙!」
競技の花、締めとなる剣技の試合が始まる頃には、二人とも声を枯らしていた。
飲み物で喉を癒していると、会場がひときわ大きく湧く。先ほどまで大半を占めていた女性の明るい声に、力強い武人たちの声も加わり、まるで地響きのようだ。
しかし、それも審判が手を掲げるとぱっと静まる。心地よい緊張感に、メイメイの鼓動は高鳴った。
「けほっ、始まったわ。きゃっ! ……すごい、さっそく攻め込んでいくのね……」
「ぎゃー!! ……こほんっ、一振りひとふりが重くて怖い! それにみんな容赦なく……」
試合は模擬刀が使われ、相手に当てると加点されていく。ただし、刀を手から離したり倒れたりした時点で、負けが確定らしい。
――ガッ、ガッ、……カーンッ
「勝負ありっ! 勝者は、ジフン王子殿下!」
王子は相手に一切の加点を許さずに、小気味いい音で相手の斬撃を跳ね除けた。
「うわっ! また、こうやって刀を弾いたよ! す、清々しい勝ちっぷりぃ……」
「とにかく、お強いわねぇ……」
メイメイは動きを真似ながら目を輝かせ、アンリも膝に手を置いて前のめりに観戦する。
一度挟まった休憩に、二人で肩の力を抜いて感想を言い合った。
「それにしても、多少は忖度もあるのかなって思ってたけど。みんな全力で王子に挑んでない?」
自分に置き換えると、とても偉い上司に全力で歯向かっていることになるのだろうか。
メイメイはなんとなく、そわそわと心配してしまう。
「勝てた人は直属の部隊へ昇格、点を取ったら個人指導をしてもらえるとかだったかしら? みんなの意見をもとに、遠慮なく戦えるように褒美を設けたんですって」
「い、潔い……」
(自信も実力もあって、部下思いで、周りを奮い立たせるのもうまい……。まさに上に立つ者って感じ……!)
そんな裏話を踏まえて試合を見ると、さらに観戦は楽しくなる。夢中になっているうちに、気づけば最後の試合になっていた。
「さくさくと勝ち抜いてしまわれたから、あっという間ね……」
相手は王子より少し上背があり、客席からでも分かるくらい逞しい。
そんな人が放った重々しい一閃が、試合開始の合図となった。
喧騒にも負けないくらい激しい剣戟の音が、しばらく続く。手に汗を握る迫力だ。
――ッキーン、……ゴッ、ガッ
「近衛隊総隊長が相手だって。この国きっての強者同士の戦いだよ!」
「……気迫がすごくて、緊張しちゃう……、あっ!」
――――ガッ、ゴンッ……!
総隊長のずっしりした斬撃が派手な音を立てて弾かれ、彼の手から模擬刀が離れていく。
「……っ! 殿下の勝ちだっ!」
「――――優勝は、ジフン王子殿下……!」
本日最大の歓声が、どかんと会場に降り注ぐ。
(お、王子様って、本当に強くてすごい人だったんだあ……!)
メイメイは無意識に止めていた息を、大きく吐いた。
今日見た王子は、とにかく格好よかった。そばにいるソユンが彼を慕うのも、当然だと思うくらい。
(は、早くソユン様にお会いして、この気持ちを共有したい! 今なら、近い熱量でお話しできるよ……!)
メイメイはソユンへの会いたさを、いつにもまして強く感じることになった。
観客は総立ちだ。思い思いに声を張り上げ、その腕っぷしを讃える。
観覧席にいる王族たちも、誇らしげに笑い合っていた。
拍手喝才を浴びる王子は、少しも浮かれることなく、堂々とした足取りで家族の下へ向かった。
勲章を手に持った王太子の前に弟王子が立つと、さすがに皆静かに見守る。
「ジフン、とても見事な試合だった。わたしも兄として、王太子として誇らしく思うよ。……これからも互いに励んで補い合い、ともに国を支えていこう」
「勿体ないお言葉です。軍務を一任されているからには、実力を伴わなければ皆のものに示しがつきませんので。これからも精進してまいります」
よく通る声での如才ない返答に、王太子も微笑んで頷く。武芸大会は、大盛況のうちに終幕となった。
盛り上がる会場を見渡してから、王子は自分の天幕へ戻っていく。
それを視線で辿ると、その先でソユンが王子に歩み寄った。
自慢の主人を前にした彼の側近は、自分のことのように嬉しそうだ。
対する彼の主人は先ほどの真摯な態度から一変、肩をすくめて得意げに見える。
(たいへんご立派でございました! ふん、あれくらい当然だ――、とか?)
メイメイは二人のやり取りを妄想して、にまにまと見守った。
「なあにメイメイ、嬉しそうな顔」
「ソユン様ってお可愛らしいなあって」
「あらあら、気になる武官さんでもできたのかと思いきや」
「えへ……。ほら、今も王子殿下と一緒にいるから……」
憧れの人が王子と気のおけない関係を築いている様子は、なんだか見ていて誇らしくなる。
それが顔に出ていたのはさすがに照れくさく、笑って誤魔化した。
帰る準備をしたり感想を言い合ったり、はたまた王子や出場者を称えたり。
思い思いの人でごった返す中、メイメイたちもそろそろ帰路に着こうと席を立つ。
初観戦はとても楽しく、どうにも名残惜しい。
そんな気持ちで最後に再び会場に、そして二人に視線を戻す。
その瞬間――――
(あれ……)
ふ、と王子が顔を上げた。ちょうどこちらの方向を、強い視線で射抜く。
距離があるのに、ぴたりと目が合ったかのよう。
緊張感が身体を走り、一瞬周りの音がしんと消えた。
(…………気のせい、だよね?)
すぐに視線は逸れた。周りの人も、彼がこの辺りに視線を向けたことには気づいていない。
見られているかと思えばそうではなかった、なんてことはよくある話だ。特にメイメイは目がいいから、向こうにその気がなくても視線を感じやすい。
そもそも、視線が合ったと思うだけでも烏滸がましいことだろう。
――――だから、強い敵意のようなものを感じたのも、ただのおかしな勘違い。
明るく笑うアンリや観客の楽しげな声に囲まれているうちに、違和感はすぐに消え去っていった。
前回ラストの噂話に関して、タグを一つ追加しました。
匂わせ程度の描写ですが、今後のこともあるので…!
こういうタグの方がいいなど何かご助言があればぜひぜひお願いします✨




