4-4. 情報収集がだいじです
よく話題にあがる本物の王子様については、あと2〜3話くらいのうちにお出ししたい…(ˊᵕˋ)
「ソユン様に感心してもらえるくらい細かい情報を知っていたほうがいいのかな……。でも気になるところだけ抑えておけば、ソユン様に色々質問もできて話も弾むかもしれないし……」
ソユンに近づくため、本物の王子を利用しようとする。
そのたいそうな度胸は、思わず自分でも感心してしまうほどだ。
書物館へ行って現王家の家系図を辿ったり、今までに見聞きしたことをまとめたりと、下準備に余念はない。
「名前はジフン様、王太子を兄に持つ二人兄弟の弟。王太子の実母は早くに亡くなった前王妃様で、王子の実母は今の王妃様だから、……異母兄弟。だけど兄弟仲は良好みたい。いいことだよね」
宿舎の自室で紙に書き起こしながら、メイメイは彼の人の隣にソユンの名前をつけ足した。ことさら丁寧に。
「将軍職、生粋の武人。たぶん格好良くて、いつもソユン様がお側にいる……、いいなぁ」
基本の知識を身に着けたメイメイは、さらに情報を集めるために下級武官の訓練所へ足を運んだ。
アンリをお供に、顔見知りの青年らに話を聞いてみる。
「お強くて、軍の統率も完璧で、人格の優れた人……、ね」
小さく切った紙に、簡単に書き留めていく。
あまり接点のなさそうな彼らですら、大絶賛だ。人気者と書いて、それを丸で囲む。
「そうそう。僕たちの周りも、みんな殿下が好きだよ。せっかくだから出世して、話の一つや二つしてみたいなあ!」
「直接話したことはないの?」
「……軍の統帥というだけではなく、王族の方だからね」
気軽に聞いてみたら、がっくりと肩を落としてしまった。慌てたメイメイだが、彼らはうんうんと頷き、明るく笑い合う。
「だから俺たちは、お近づきになれるように殿下の護衛武官を目指してるんだ!」
声を弾ませてそんなことを口にする彼らは、ソユンの話をする女官仲間に重なった。
つい、アンリと目配せをして吹き出してしまう。
「まあ、かなり鍛錬は必要だけどな! お強い殿下のそばにいるからか、王子宮は文官ですら逞しいんだよ。首席補佐官殿は例外だけど」
「格好良くて精悍だし、見た目の人気も高いな。ソユン様と一緒に国民の前にお立ちになる時なんて、歓声がすごいのなんの。……君も殿下に憧れてるの?」
「うーん、殿下ご自身にというよりは……。へへ、何でもない!」
正しくは、"王子に心酔していそうな首席補佐官に憧れてる"ということになるが、適当にごまかしておく。
――王子の話題にも、やはりソユンが出てきた。
どちらかを語るには、もはや欠かせない存在なのかもしれない。
そうして自室に戻ると、今回増えた情報をさらに書き足す。
「親しみやすい人柄で、とても強く、立派な指導者。武官の憧れの的。……そばに仕えるなら、ある程度の腕前が必要という噂も?」
最後の一文を書きながら、さりげなく例外扱いされていた人を思い浮かべる。
側近筆頭の腕前は、はたして――――
「お側に仕えていらっしゃるソユン様も、お強いんでしょうか?」
話題の彼と再び顔を合わせた、とある日の昼下り。
そっと上から下まで視線で辿りつつ、問いかけてみる。
――文具や書物がよく似合う。高貴さも相まって、明らかに守るより守られる側な見た目だ。
メイメイの視線に気づいたソユンは、軽く唇を尖らせた。
「きっと、想像のとおりだよ。教養として一応剣舞ならできるけれど、軽い護身術しか習ったことはないし」
「剣舞……! 見たことないです! 教養ということは、ソユン様も人前でやられたり……?」
「新年の儀なんかでね。王族の方や高位以上の貴族が披露することになっているんだ」
さぞかし華やかで優雅な式になったに違いない。
残念ながらメイメイには参加資格がなく、ここ数回立て続けに指名されたソユンもしばらくは出番が回ってこないらしい。
「そして、お力は実用向きではないと……」
「僕はあのお方の頭脳を担う文官なんだからそれでいいんだよー」
体格のいい文官は鍛えるのが趣味なんじゃないかな、と開き直ったように微笑んだ。
「うちの弟はまだ小さいのに木刀を振り回していて、両親がもうお稽古をつけると言っているんです。ソユン様は高貴なお生まれなので、あまりそういう話は出てこなかったのでしょうか?」
「いや、兄も一通りは鍛錬をしていたよ。けれど僕は……」
そこで言葉を区切ると、ソユンはふんわり苦笑した。
「みんなに、基本的な武芸から遠ざけられていて」
王子や王太子からも止められていたらしい。それだけ大事にされていたのか、それとも才能が原因なのかは判断が難しいところだ。
(どっちでもありえるし、どっちでも愛らしすぎる……!)
当時の情景を妄想して悶えていると、ふといたずらっぽく笑いかけられた。
「そういえば、覚えている? 今度は僕が赤毛ちゃんにたくさん質問をする番なんだ」
何聞こうかなって考えていたんだよ、と軽やかな口調で目を細められる。
覚えてくれていたという事実が、心をくすぐった。
夢中になって話していると、時刻を知らせる鼓と鐘の音が響く。
別の用事が控えるソユンとは、そこで別れることになった。
「時間が経つのが早いね。赤毛ちゃんのことを色々知れてよかった。またゆっくり話を聞かせてほしいな」
彼の後ろ姿が見えなくなるまで眺め、午後からの仕事に向けてメイメイも移動する。
ソユンの笑顔や言葉を、大切に胸に仕舞いながら。
次回はアンリちゃん視点です✨




