4-4. 情報収集がだいじです
よく話題にあがる本物の王子様については、あと2〜3話くらいのうちにお出ししたい…(ˊᵕˋ)
次回はメイメイの親友アンリちゃん視点を挟みます✨
「ソユン様に感心してもらえるくらい細かい情報を知っていたほうがいいのかな……。でも気になるところだけ抑えておけば、ソユン様に色々質問もできて話も弾むかもしれないし……」
ソユンに近づく手段として本物の王子を利用しようとする、たいそうな度胸のメイメイである。
女官も利用できる書物館へ行って現王家の家系図を辿ってみたり、今までに見聞きしたことを思い返してみたりと、下準備に余念はない。
「名前はジフン様、王太子を兄に持つ二人兄弟の弟。王太子の実母である隣国の姫が早くに儚くなり、八大貴族家から国王の幼馴染にあたる方が継妃として迎えられ、その方を実母とする……。だけど兄弟仲は良好みたい。いいことだよね」
宿舎の自室で紙に情報を書きまとめながら、メイメイは彼の人の隣にソユンの名前をつけ足す。
「将軍職、生粋の武人。たぶん格好良くて、いつもソユン様がお側にいる……、いいなぁ」
もちろん、知識だけではどうしても情報が偏ってしまうため、いわゆる生の声も聞かなくてはならない。
ということで、メイメイはアンリをお供に、仕事で関わりのできた下級武官の青年らにも話を聞いてみることにした。
皆が口を揃えて言うには、実力があって、人格も優れているとのこと。
とにかく武芸に秀で、武官一同からかなり慕われているようだ。
「実戦での軍の統率も完璧だってよく耳にするな」
「僕ら下っ端はお目にかかることも少ないけど、若手にも気さくに声を掛けてくださるみたいだよ。せっかくだから出世して、話の一つや二つしてみたいところだね」
「ご本人がかなりの実力をお持ちだから、護衛武官も殿下を守るに値するような、見るからに強そうな武人たちで構成されてるんだよな。出世するにしても身体はかなり鍛えなきゃいけないだろうなぁ……」
女官仲間でソユンの話をしている時のように、目の前の武官たちは目を輝かせている。
「お付きの文官ですら逞しく見えるし、やっぱりある程度の身体能力は求められそうだよね。首席補佐官殿は例外だけど」
「見た目もかっこよくて精悍だし、そういう人気も高いよ。あのとんでもない美人の首席補佐官殿と並び立って国民の前にお立ちになる時なんて、歓声がすごいのなんの。………あんまりそういうのに盛り上がってる印象なかったけど、君も殿下に憧れてるの?」
正しくは、"王子に心酔していそうな首席補佐官に憧れてる"ということになるが、言う必要はないので、最後の一言には曖昧な返事をしておく。
そして王子の話題にも、やはりソユンが出てきた。
二人のどちらかを語ろうとすると相手方も現れるのは、自然の摂理みたいなものなのだろう。
今回増えた情報をさらに書き足す。
「親しみやすい人柄で、とてもお強く、ご立派な指導者。武官の憧れの的。……そばに仕えるなら、ある程度の腕前が必要という噂も?」
最後の一文を書きながら、さりげなく例外扱いされていた人を思い浮かべる。
側近筆頭のあの人の腕前は、はたして―――
「お側に仕えていらっしゃるソユン様も、お強いんでしょうか?」
話題の彼と再び顔を合わせた、とある日の昼下り。
そっと上から下まで視線で辿りつつ、問いかけてみる。
美貌を一旦意識の外に追いやって身体を観察してみると、すらりとたおやかな印象で、文具や書物の似合う根っからの文官にしか見えない。
高貴さも相まって、明らかに守るより守られる側な見た目である。
「あ、失礼なこと考えただろう」
そう言って睨んでみせる様子は、室内で大切に飼われている家猫が、機嫌を損ねてつれない態度を取っているかのよう。
とてもぐっとくるが、ひとまずはそんなことないですよと宥めておく。
「まあ、きっと想像のとおりだよ。教養として一応剣舞くらいならできるけど、軽い護身術しか習ったことはないし、単純に力は弱いだろうね」
「剣舞……!見たことないです!教養ということは、ソユン様も人前でやられたり……?」
「新年のお祝いの儀式なんかでね。たまに王族の方や貴族が披露することになってるんだ」
特別に華やかで優雅な式になったに違いない。
一度見てみたいと言ったら、ここ数回立て続けに指名されているらしく、次回は違う人の番になるのではないかとのこと。
とても残念だ。
「そして、お力は実用向きではないと……」
「側近だって文武に分かれているし、僕はあのお方の頭脳を担う文官なんだからそれでいいんだよー」
開き直って軽く口を尖らせる様も大変可愛らしい。
聞くところによると、昔鍛えようとした際に王子に止められたんだそう。
なんなら王太子や家族からも基本的な武芸から遠ざけられていたようで、それだけ大事にされていたのか、それとも才能が原因なのかは判断が難しいところである。
見惚れながらふむふむと考えていると、ふといたずらっぽく笑いかけられた。
「そういえば、覚えてる?今度は僕が赤毛ちゃんに質問攻めする番なんだよ」
何聞こうかなって考えてたんだ、なんて楽しげに目を細められる。
やはり以前話したことを覚えてくれていたという事実が心をくすぐり、メイメイはとても嬉しくなった。
ソユンからの質問は当たり障りなく、かつ話しやすいような内容だった。
そういえばこれは話したことがなかったというようなことを選んでくるところが心憎いことだ。
面白くも目新しくもないだろう話を興味深げに聞いてくれるから、メイメイは思いつくままに自分語りを堪能してしまった。
平坦な人生を送ってきたのに、こう自分にも語れることがあるのだと内心驚くくらい。
羽休めにしばし近くの枝に止まっていた小鳥が再び羽ばたき出す頃、別の用事があったソユンとは別れることになった。
「時間が経つのが早いね。赤毛ちゃんのことを色々知れて楽しかった。またゆっくり話を聞かせてほしいな」
彼の後ろ姿が見えなくなるまで眺め、午後からの仕事に向けてメイメイも移動する。
胸に残ったソユンの笑顔や言葉を、大切に反芻しながら。




