1-1. 箱入り娘、王都へ行く
メイメイが王都に行くまでのお話です。
そもそも、このそそっかしい少女が宮廷で働くに至った経緯について――――
この国には身分制度があり、貴族は大きく三つに分類できる。
八大貴族と呼ばれる八つの特別な家門と、その分家筋で構成される高位貴族、そして貴族家の大半を占める一般貴族。
メイメイは、よくいる一般貴族の娘として生を受けた。
のどかな田舎の領地で、両親はいつも楽しげに領地の様子を見て回り、四方八方の領主らと交流をした。
当時跡継ぎだったメイメイは、そんな彼らと自分を比べては落ち込んだ。
しかし、両親はこの内気で臆病な娘を、それはそれは可愛がってくれた。
「本をたくさん読んで偉い! 知識が豊富な大人になれるわ」
「今日は部屋の模様替えを手伝ってくれたんだって? うちの娘はよく気が利いて立派だなあ!」
包容力と愛情たっぷりの両親のおかげで、メイメイは長いことぬくぬくと、自ら箱に入る箱入り娘な生活を満喫していたのである。
そんなメイメイが成人まであと三年という時に、弟が生まれた。
これが、転機だ。
うっすら赤くてとても小さな弟は、元気に泣いていたかと思えば、次の瞬間には脱力して眠りにその身を委ねる。
「あなたのお姉さんですよぉ……」
無防備な寝顔を眺めて呟くと、もちもちした指がメイメイの薬指をきゅっと握った。
その力はとても弱く、愛おしい。
――弟が生まれても、当初の予定通りメイメイが後を継ぐことはできる。
このまま頼れる身内に囲まれて、ずっと家にいたかった。
しかし、守るべき弟の誕生を期に、このままではよくないとも思い始めた。
それでメイメイは、この快適で住み慣れた箱から、ゆっくり這い出てみることにした。
「しっかり者の娘、頼れる姉になるために、これからはできるだけ自分でも頑張ってみたいの!」
――家は継がず、自立の道へ進む。ある日、拙いながらに両親にそう告げた。
彼らは目をうるうるさせて娘の決定を尊重し、できることは何でも協力すると言ってくれた。
「だからね、例えば行儀見習いに行くとか、まずはそういうところから始めたい!」
「分かった。じゃあお父さんがいい場所を見つけてくるからね!」
そうして両親が伝手を頼り奔走した結果、宮廷の女官という勤め先を見つけてくれたというわけだ。
「……って、宮廷!?」
メイメイは思わず椅子から飛び上がって、大きな声を上げてしまった。
目の前の両親は、休日に王都を観光するのも素敵だよね、なんてほのぼの笑っている。
正直、勤め先については言葉に甘えて丸投げさせてもらっていた。
しかし、まさか宮廷とは。
(いちばん大きくて、いちばん人気の場所。女の子たちの羨望の的だって、わたしでも知っているくらいだよ……!)
「来季の新入り募集に、なんとか間に合ったのよ。ほら、ちょっと人見知りさんだから、四六時中高貴な人の側につく侍女は大変でしょう? 宮廷は役割と序列が細かくて、新人の女の子だとそういうことはしないんだって」
「そ、そっかぁ、ありがとう……。 うん、確かにそれは安心かも……」
「それに、メイメイは勉強が得意だから、ふた月後の試験だってきっと合格できるさ」
「ん……? ふた月後!? 試験って言った? 」
両親の思惑を聞き、半ば納得しかけたところで、また聞き逃せない単語が出てきた。
「ええ。王都は初めてよね? お母さん、ちゃんと宿舎の下調べをしたから安心してね」
驚愕のメイメイにおっとり笑うのは、優しい母で。
「ほら、ちょうど昨日通達の手紙が来たんだ。大丈夫、メイメイなら心配は要らないよ」
力強く頷くのは、頼れる父。
メイメイは衝撃から立ち直れずに、口を開いたまましばらく固まった。
何事も経験だと思って楽しめる性格の人たちのことだから、娘のこの動転っぷりは理解できていないに違いない。
「周りの人の身元も確かで安心。力仕事が回ってくることもない。人はたくさんいるけど、メイメイと似た立場の子たちと接することがほとんどだろうから、それほど気負わなくていいのよ!」
「可愛い娘が頑張って新しい生活を始めようとしているんだ。 せめて親としてはそれなりの環境を整えてあげたくてね」
「…………うん! ありがとう!」
後日、宮廷勤めをしていた親戚も、同じようなことを言って励ましてくれた。
出世を狙うわけでないなら、社会勉強にはまさにうってうけの職場だと。
そんな環境を娘に用意するために両親がどれほど頑張ったかを聞き、メイメイは目頭を熱くした。
(次この荷物と一緒に帰ってくる頃には、立派な独り立ちを果たした娘の姿を見せてあげるからね!)
メイメイは両親の愛に報いるため、ぎゅむっと荷物を押し込んだ。
きらびやかで美しいと言われる王都。女の子たちの憧れの的である女官。
きっと、輝かしい王都での生活がメイメイを待っていることだろう。
そんな日々を夢見てやる気を奮い立たせると、大荷物とともに王都へ向かったのであった。




