2-4. 休日にゆっくりお話しします
長くなってしまったのでお話を分けました!
続きは近日…!
ソユンが宮廷に出仕した直後から非公式で発足したとされる、ソユン親衛隊なるものがある。
特別な活動はない。
ただ、ソユンの情報を共有し、日常を見守る存在である。
加入数は全女官の八割を超えるという説もあり、もちろんメイメイもその歴史ある集団の一員だ。
そんないち隊員メイメイはある休日に、かの人物が王都のとある庭園でのんびりと散策する姿を見かけた。
東屋の椅子に腰掛けて遠く視線を巡らせる姿が、とても優雅だ。
珍しく体を動かす意欲が湧いて出かけてみたメイメイは、実に運がいい。
「ソ、ソユン様っ……!」
「あれ、赤毛ちゃんだ?」
話しかけてもいいのかななんて逡巡しているうちに立ち去ってしまいそうになったので、咄嗟に呼び止める。
「……はっ!! 貴重な休日なのに煩わしいことをしてしまった……。親衛隊失格かも………」
「赤毛ちゃん……?ほら、おいでー」
勝手に呼んで勝手に落ち込むメイメイを不思議そうに見ながら、心優しい高官様はにこやかに手招きをしてくれた。
メイメイはもちろん、喜び勇んで駆け寄った。
(や、優しい〜〜〜!!)
メイメイが感激していると、ふと風が吹き抜け、爽やかでどこか甘い香りがふわりと漂ってくる。
気づかれないように、こっそりと小鼻をひくつかせた。
彼女の好きな、出会ったときから変わらない彼の香り。
聞くと、午前中は予定がないため、散歩をしてから出仕しようと思っていたとのこと。
「近頃顔を合わせることがなかったね。もしよかったら、少し話相手になってくれる?」
「喜んで!」
おっとりと小首を傾げる彼に元気よく食いつくと、可笑しそうにくすっと笑われた。
(私が最近会えずにどれだけ残念に思っていたか、それに、こんなにも的確に嬉しい言葉を与えられて私がどれだけ喜んでいるか、この人は知っているのだろうか――)
思わずむずりと疼く胸を軽く抑え、促されるまま、東屋の椅子に並んで腰掛ける。
「この間控えの間の近くを通ることがあったから覗いてみたのだけれど、君がいなくてね」
「え゙っ!……そ、そんな……。あ、もしかして半月前のお話ですか!? それならきっと私がちょうど数日間帰省していた時ですね。………うわあ、わざわざお近くまで寄ってくださっていたというのに。……はぁ、もう悔しすぎます………」
心をほかほかさせているところに、さらっとすれ違いが起きていた事実が発覚。
思わず頭を抱えて情けない顔をすると、きょとんとした顔を向けられた。
本人としては軽い世間話の一環で告げた言葉だから、メイメイからこんなにも大きい反応が返ってくるとは思わなかったのだろう。
しかし、普段からどうにかソユンを一目見ようと必死な身からすると、これはかなり口惜しい案件だ。
ここ数日、メイメイにしては少し慌ただしい日々を送っていて、あまり仲間内で情報共有という名のお喋りができていなかった。
しかし、記憶の隅をつついてみると、彼女の不在期間に出仕していた女官の一人が、新たに親衛隊の仲間入りをしたらしいと耳にしたのを思い出す。
ともすれば冷たく見えるほどあっさりした性格で、浮ついた話題にはあまり興味がないのだと、みんなが盛り上がるのを横目に静かに休んでいるような、落ち着いた女の子であったと記憶している。
(そんな子が親衛隊入りをするなんて、よっぽどのことだもの。きっと、その時ソユン様を間近で見たとか、なんなら言葉を交わしたとか、そんなことがあったんだよ………)
その子を妬むつもりはないが、その場にいられなかった自分の間の悪さを恨んでしまうのは仕方がないと、この未練がましさには目を瞑ってほしい。
「生家が王都から遠い田舎なので、まとまった日数でお休みがないと家に寄れないんです……。家族みんな元気そうだったし、帰省自体は楽しかったんです、けど、も……」
とそこまで話したところで、最近母から送られてきた手紙を思い出した。
名高いソユンの仕事っぷりに、えらく興味津々なやつ。
一応声を掛けてもらえるような関係性とはいえ、いつもはメイメイが自分のことをぺらぺら話す一方で、彼個人のことについては、実はさほど知らない。
憧れの人の仕事中の過ごし方なんてものは、メイメイだって気になってはいたのだ。
(こんなにゆっくりお話ができそうなのって、初めてかもしれない。ちょっと図々しいけど、本人から直接聞くのが早いんじゃない?ソユン様も、多分許してくれるはず……)
直前までめそめそと嘆いていたのに、次の瞬間にはぱっと目を輝かせたメイメイの表情を見て、ソユンは目を細めた。
喜んだり落ち込んだり、感情の移り変わりが激しいメイメイを見ていると面白いのだと、いつの日かに言われていたのだっけ。
「そういえば、せ、せっかくの貴重な機会ですので、そのぉ、差し支えなければ、少し質問させていただいてもよろしいでしょうか!」
「構わないよ。どうしたの?」
「えっと、ソユン様のお仕事が気になると言いますか……!あ、もちろん、大事な業務の情報を聞き出そうとしているわけではなくっ!……その、私たち女官が垣間見ることもできないような場所で普段からお過ごしかと思うのですが、偉い人の働く姿を直接見たことがないので、あんまり想像できないねって、よく控えの間で話しているんです!それで、ソユン様はいつも宮廷のどこでどんなことをされていらっしゃるのかなー、なんて……」
急遽巡ってきた好機だったので、意図が伝わりそうな、しっくり来る言い方が思いつかない。
あたふたと身振り手振りを添えながら、どうにかメイメイなりに言葉を整える。
「そうだな……。王子殿下の補佐をお任せいただいているから、大抵は殿下のお側にいるよ。会議や宮廷行事に出て、資料をまとめたり打ち合わせをしたり。働き方は、基本的には他の文官とそう変わらないんじゃないかな?」
「た、大抵は王子殿下のお側に!?……そっか、ソユン様は首席補佐官ってご立派なお役目の方だから、殿下ととても身近に接していらっしゃるわけですね。私にとって王族の方は、お会いすることも叶わない格別な身分の方という認識なのに、ソユン様はすごいです!王子殿下の……。うーん、……へへ、なんだか普段のご様子がなおさら思い浮かばなくなってしまいました!」
普段親しく接してくれている分、こうしてソユンのことを知る度に、自分との身分差をひしひしと感じる。
女官としても貴族としても、メイメイが王族と相見える日など、きっと来ない。
王子のことなんて、宮廷で受けた説明と、かなり遠くからちらっと見掛けた程度の見た目の印象がすべてだ。
そんな人の側にいて、言葉を交わし、行動を共にする日常なんて、なおさら謎は深まるばかりである。
とはいっても、せっかく答えてくれたのに対して、なんとも間の抜けた返事だ。
これだと、回答のしがいもないだろう。
(せめて何かこう、気の利いた相槌くらいは返したい………!)
「……王子殿下、かぁ。直接お会いする機会を持つことはなさそうですが、きっとすごく偉大な方なんですよね!その、……とても重要な役割を担われているとも習いました。それもここに来てすぐに!何せ、ええっと、……この国で安心して暮らせるように国民を守ってくださる、代表の方ですからね……」
いつもソユンにすごいすごいと言っているので、またここでソユン自身を称賛したところで、代わり映えのない返事しかできないやつだと思われかねない。
心から思っていることなのだが、少しでも会話をするたびに持ち上げられていてはソユンも居心地が悪いだろう。
(注目すべきは……、ずばり、これまで話題に上がることの無かった王子ね!これでいつもとは違う角度から話を膨らませてみせる……!)
ソユンが日々お仕えする人なんだから、きっと褒められて悪い気はしないだろう。
話しながら記憶を頑張って掘り起こし、軍事の総司令官にあたる方だったと思い出したので、その辺りに触れて王子を持ち上げてみる。
そもそもソユンが献身的に支えている人ならば、例え暗君でも名君になれるに違いない。
ということで、きっと絶対に、王子殿下はすごい人なのだ。
そんなことを思いながら言葉を返すと、ソユンの顔が、なにやらほんのり嬉しそうに。
普段から素敵な笑みを浮かべているのだが、この表情は珍しいかもしれない。
(ソユン様ってもしかして―――)




