2-5. いつもと違う手紙が届きました
前回の続きです!
(ソユン様ってもしかして、王子殿下のことをとってもお慕いしてる……?)
メイメイが王子を称賛してみたら、はにかむように笑みを綻ばせた。なんなら、普段ソユンのことを絶賛している時よりも。
それならば、メイメイがこれからすればいいのはただ一つ。
――――王子の話、それに尽きる。
「うん? 王子殿下がどんな方か?」
「はい! 勤めてしばらく経ちますが、王族の方のことは存じ上げないことばかりで。実は前々から気になっていたんです! 今伺った感じ、きっとソユン様は王子殿下にお詳しいのだろうと……」
王族なんて遠い存在すぎて、興味を持ったことすらない。
しかし、不自然にならない程度に嘘を交えながら、にこやかに問いかける。
(いつもと違うお顔ももっと見たいし、王子を知れば間接的にソユン様の知識も深められるだろうからね……)
「宮廷に勤める者として素晴らしい姿勢だね。感心するよ」
「うぐっ……! え、えへへ、それほどでもないですぅ……」
ソユンの邪気のないお褒めの言葉に、メイメイは若干良心の呵責に苛まれた。
しかし、その罪悪感に耐えた甲斐あったかと聞かれると、答えは是である。
「どういうことを知りたい?」
「えっと、まずはその、お人柄などでしょうか。ひと言で表すなら、どんな方だと思っておられますか? こう、凛々しいとか強いとか……」
「ひと言ね……。聡明な方、かな」
(あ、いい笑顔……!)
さっそく温かな笑みが滲み、その表情を脳裏に刻みながら、メイメイはしめしめと喜んだ。
「もちろん、凛々しくお強い方でもあるよ。あの方には実力も素質もおありだから。殿下のお立場については習ったのかな?」
「王族の方のことは、残念ながら概要程度に留まっておりまして。なんとなく、珍しくて特別なお立場と聞きかじったことはありますが……」
今日は意識して、ソユンではなく、王子に焦点を当てた返答をしてみる。
効果はあったようで、いい子だねと言わんばかりの柔らかい笑顔を向けられた。
それだけでも満足しつつあったが、ソユンの言葉は続く。
説明によると、元々近衛隊は武系貴族、治安隊はそれ以外が統括する慣習だったらしい。
そのうえ、歴代の将軍職は非武人かつ準王族の者が就いていたとか。
「殿下は王族ながら武人として将軍職に就いて、さらに両隊をも直接束ねる統帥になられたんだ」
「な、なるほど! 王子殿下がとってもお強くてすごい方だったから、名実ともに武人を率いるお立場になられたと……。ふむ、何か決め手はあったんでしょうか?」
何やらすごそうだぞと素直に感心していると、ソユンは仄かに誇らしげな顔で微笑んだ。
そして、言葉を重ね始める。
「そうだね……、昔殿下の訓練を担当していた両隊長が、率先して国王陛下に奏上したというのがいちばん大きいかな。殿下は幼少の頃から、剣の腕前だけでなく、洞察力も判断力も飛び抜けていらっしゃってたんだ。だから早くに多くの実績を重ねられて、天性の才能だとみんな口を揃えて言っていた。特に素晴らしいのが――……」
(わ、わあ……!)
メイメイは思わず目を丸く見開き、ついでに口もぽかりと開けた。
ソユンの声がいつもより弾んで仄かな熱を帯び、目もきらきら輝いている。優しい木漏れ日のような表情が常だとしたら、今は朗らかな太陽だ。
習いたての剣を振り回す弟のように、もしかするとそれ以上に活き活きとしている。
メイメイはその表情と言葉の熱量に圧倒され、相槌を打つことすら一瞬忘れてしまった。
「……だからひと言で敢えて表すとしたら、聡明な方になるかな」
「……なんと、素晴らしい…………」
(――是、というか、もはや期待をはるかに超えていて……!)
思いがけない姿を堪能できた。この話題を選んだ自分と語ってくれたソユンに、盛大な拍手を送りたい。
味を占めたメイメイは、今後も王子の話題で攻めていこうと決意した。
(ソユン様を前にすると絶対に話したくなっちゃうから難しい気もするけど……。これからは意識して、聞き役にも回ってみせる!)
もっと熱く語ってほしかったが、一通り王子の素晴らしい人柄について述べると、ソユンはメイメイに話を振ってきた。
巧みな相槌に乗せられていつも通り楽しく話している間に、あっという間に正午になる。
去っていくソユンの後ろ姿を見送り、メイメイは買い物を済ませに市場へ向かった。
(ソユン様ってすごい……、なんというか、王子様大好きっ子だったんだなぁ……)
家族への土産物を購入し終えたメイメイは、宿舎に戻りがてら今日のことを思い返す。
前から仕事に熱心だとは思っていたけれど、あんな風に慕う人の補佐を任されているのだと考えると、自然と熱も入るというものだろう。
宮廷で勤めてはや一年と少し。
メイメイが王子を見かけたのは、三回しかない。
それも遠くから眺めた程度のことだが、そのうちの二回はソユンと一緒にいる場面であったと記憶している。
ソユンはもちろんのこと、彼が仕える王子も凛々しい美丈夫のようで、そんな二人が大勢にかしづかれて歩く姿はとても華々しいものだった。
最初に見掛けたときは険しく厳しい印象だった王子も、ソユンと共にいる時は楽しげに笑って快活な雰囲気になっていた。
遠目からでも親しい仲であることが窺えるほどで、王子もきっとソユンに気を許しているのだろう。
微笑ましいことである。
「メイメイ、お手紙が届いているみたいよ」
「本当だ! 今度は何が書いてあるのかな。今日はちょうどソユン様に会えたから、書くことがたくさんあるんだよ!」
「あら、そうなの? メイメイ、よかったわね!」
「ありがとう! アンリに話したいこともたくさんだから、後で聞いてね!」
湯浴みを終えて自室へ戻ると、仕事上がりのアンリが声を掛けてきた。
彼女は明日お休みを取っているので、もう少ししてから浴場に向かうらしい。
いつもよりのんびりだ。
送り主はやはり親で、筆跡は母親だった。
文机の前に座って、いそいそと封を切る。
――同じ職場の男性とも親しくお話ができるようになるなんて、とても活発になりましたね! ……今度の休みはいつですか。隣の領地に頼りがいのある優しい青年がいるのですが、一度会ってはみませんか。……まだ早いと考えるかもしれませんが、今後誰かと支え合って生きていくというのも一つの選択であり、穏やかで誠実な人なら、メイメイときっと気が合うと母は思うのです――
「うわ…………」
世話焼きの母親の熱意を感じて、思わず声が漏れる。
にこにこと嬉しそうに、あれこれ考えているのが容易に思い浮かんだ。
目の前にいたら、期待のこもった目でこちらを覗き込んできたことだろう。
要はこういうことだ。
――帰ってきたら、お見合いさせてもいい?
次回から少しずつ、恋愛風味の話題が出てくるようになるかと思います(*´ω`*)




