序章 運命の出会い?
初めての小説投稿です!
どなたかのお暇な時間に、少しでも触れていただけるお話になったら幸いです✨
綻び始めた花々と小鳥の囀りが美しい、穏やかで何の変哲もないある日のこと。
荘厳な宮廷の片隅では、一人の少女がおろおろと、行ったり来たりを繰り返していた。
一つに結われた自慢の赤毛は、少女の動きに合わせて元気に跳ねる。
しっとりと苔むした深緑の瞳は、あちこちに揺れて忙しい。
今いる居場所の手がかりを少しも見逃すまいと、眼差しには必死さが滲んでいた。
そんな彼女は最近王都に出てきたばかりの新入り女官で、状況としてはもちろん、絶賛迷子中である。
「ど、どど、どうしよう……!」
とある領主貴族の家に生まれたこの少女、名前をメイメイと言う。
これまで、外出も人との接触もできるだけ控え、慎ましく暮らしていた。
――何か深刻な事情があるわけではない。
ただ単に、人見知りを極めていたのだ。
のどかな領地には同じ年頃の領民が少なく、屋敷は広大な農地に囲まれている。
――そう言って生まれ育った環境のせいにしようにも、ほかの家族は皆そろって社交的。
この内気な性格は、独自に育んだものだろう。
「ううっ、ここはどこなの……」
自力で出かけることがないから方向感覚は乏しく、他人と会うことを避けていたから人見知りは留まることなく進行した。
箱入り娘、もとい、箱に自ら入っていく箱入り娘メイメイの出来上がりである。
「で、でも、わたしだって、その状況に甘んじ続けているわけじゃなくて……! 」
こそこそと足早に歩き回るメイメイは、誰に言うでもなく弁明の言葉を紡いだ。
――――そう、彼女は現状打破に向けて、まさに今頑張っているところだ。
とある理由から一念発起をして、一人前の女官となるべくこの宮廷にやって来たのである。
王都では、けっこう頑張っていたと思う。
少なくとも、宮廷や王家のことを学んでいたつい先日までは、間違いなく順調だった。
ところが今日、廷内見学に連れ出されている最中に、仲間たちとうっかりはぐれてしまったのだ。
「さすがにみんな到着している頃だよね。……もしかすると誰か探してくれてるのかな? なんだかもう、申し訳なくて泣けてきた……」
メイメイはとうとう立ち止まって、くよくよと俯いた。
「……ねえ、聞こえてる?」
そんな時、ふと優しく呼び掛けられた気がした。
柔らかくて温かい、心を擽るような声。
心の弱ったメイメイには、それが両親からの励ましの声のように聞こえた。
――――実際は、見知らぬ男性の声だったにも関わらず。
「そうだ、やればできる娘だと散々励まされて生きてきたじゃない。ここで挫けたら、その名が廃る……! 」
メイメイはきりりと顔を上げ、仕切り直しに近くの建物の軒下に入った。
ひっそりした場所で深呼吸をすると、少し落ち着いてきた。
辺りは静かに風がそよぎ、時折鳥の鳴き声が響き渡る。
「うう、あまりにも人を見掛けないし、静かすぎて困っちゃう……。はぁ、こういう時小説なら――」
困難に陥った姫を、綺麗な王子様が颯爽と助けに来てくれるのが定石だ。
運命の出会いというやつを、果たすのである。
「ねえ、そこの赤毛の娘」
そう、このように、軽く甘やかな声を掛けてきたりして。
「……って、現実っ!?」
思わず声を上げた。
――――メイメイは社交をする代わりに、本をよく読んだ。
特に好む題材は、夢あふれる可愛らしい恋愛物語だ。
きらきらして甘酸っぱいお話にどっぷり浸る日々を過ごしていたから、物語のような恋に憧れる夢見がちな少女になった。
そんな彼女が困っている時に、素晴らしい声の男性に呼び止められたのだ。
小説の一頁みたいな出会いを連想してしまうのも、無理はないだろう。
(きょ、今日迷子になったのって、ももももしかして、この素敵な王子様と出会うためだったのでは!? お、王子様も、何かに惹きつけられるようにここへ来て、わたしを見つけてくれたとか……、そういうやつでは!?)
少女メイメイ、有頂天である。
「もう! ようやく止まってくれた」
振り返ると、その美声に全く引けを取らない華やかな容姿の王子様、もとい見知らぬ青年がこちらを見ていた。
むすっと眉を寄せても崩れることのない美貌は、つんと澄ました猫のように上品。
亜麻色の髪の毛は、日差しを浴びて珠を散らしたように輝く。
吹き抜けた風が、彼の方から清らかで芳しい香りを運んできた。
今まで頭の中にあった理想の王子様像を遥かに上回る、とびきりの人物である。
「……聞いているのかな? さっきから呼んでいたのだけれど」
「へっ!?」
そんな彼は軽く唇を尖らせ、どうやら少しご機嫌斜めな様子。
不審げに目の前で手をひらひらとされ、自分がまじまじと見惚れていたことに気がついた。
呼び止められたくせに、返事もせず真顔で人様の顔に見入っていたようだ。
なんなら今も、翳された手の形の美しさにうっとりしかけていた。
眉をひそめたくなるのも当然だろう。
「普段なら他人の顔を直視できないわたしがすっかり釘付けになるなんて、罪な容貌……」
ぼそりと呟きながら首を振って雑念を飛ばす。
少し冷静になると、他にも意識が向く。
例えば、その身に纏う衣装。
メイメイの着ている装飾のない綿麻の制服と違って、繊細で光沢が美しい絹の袍を着ている。
袖口にも裾にも豪奢な刺繍が入っており、見るからに高価。
身分によって衣服や装飾品が制限される中、明らかに宮廷内で高い身分を持っている証拠だ。
最近ちょうど学んだばかりで、メイメイも記憶に新しい。
(……あれ? もしかして、今とんでもない失態を犯しているのかも……)
この推測が正しければ、新入りの下っ端が、おそらくかなり高貴な人に、だいぶ失礼なことをかましていることになる。
メイメイは、少しずつ冷や汗をかいてきた。
「し、失礼いたしましたっ……! え、ええと、何度もお呼びでいらっしゃったのですよね。その、……ぼうっとして気がつかず。 あの、……何かございましたでしょうか……?」
取り急ぎがばりと頭を下げて、詫びの気持ちだけでも示してみる。
そんなメイメイに掛かったのは、無慈悲にも驚愕の一言で。
「ここは王族の居住区だよ。 今日この区画に女官が立ち寄るとは聞いていない。 早く退くことだね」
「え……?」
(宮中の、よりにもよって最重要区域に迷い込んでしまったってこと? 無断で、新入りが……!?)
もはや、呆然である。
思わず顔を上げると、青年は片眉だけを上品に持ち上げ、おそらく出口の方面を視線で示した。
メイメイはそちらにちらりと目をやり、それからまたよろよろと青年の方を向く。
(宮廷勤め、早くも雲行きが怪しいのでは――――!?)
これが、物語に出てくる王子様のように現実離れした美貌の青年との、運命的な出会いの瞬間。
少女メイメイを大きく変えるきっかけとなる出来事である。
この作品に出会い、ここまでお読みいただきありかとうございます!
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