大公女の誕生
「大変だ大変だー!!!」
『最新ニュース!』と書かれている紙を腕に抱えた少年が街の中を走り回りながら叫んだ。
「大公家に大公女が産まれたってよ。」
「”あの”大公家に?」
街の人々が口々に発している”大公家”とは、帝国唯一の大公家アステール家のことだ。
皇室並の権力を持ち、闇より黒い黒髪にまるで血のように赤い瞳が特徴の、光とは真逆の大公家。
しかし、大公家には大公子しかいなくここ数百年、数千年大公女は誕生していなかった。
そして、今日帝国初めての大公女が産まれた。
「まあ…大公家に御息女が…」
大公家に支えている者たちは皆涙ぐみ、現大公は滝のような涙を流していた。
「フローラ、よくやった!」
大公夫人は何度も大きく息を吸い、号泣する夫に優しく微笑んだ。
「オンブル、そんな泣かないでください。ほら、私たちの娘ですよ。」
大公は震える手で新たに産まれた娘を抱きしめた。
黄金がかかった藤色の髪が少しだけ頭皮から生えていた。
「この子の名前は…何にしようか。」
「お父様!僕たちにも見せてください!」
「そうですよ!お父様だけずるいです!」
今年8歳になるエルドールと、5歳のカロンは妹に会うために可愛らしい赤子を抱いた父の周りに集まった。
「待ちなさい。お母さんに返すから。」
大公は最後に頬を優しく触ると、大公夫人にそっと渡した。
「わあ…」
微かに動く小さな命を、二人の大公子は興味深そうに見つめた。
「お父様、お母様、この子の名前はなんですか?」
エルドールが興味深そうに聞く。
「この子の名前は…アウロラにしよう。彼女は大公家の夜明けを象徴する初めての大公女だからな。」
キラキラと輝く髪を撫でる大公夫人は何度も頷いた。
「アウロラ…僕たちの妹…」
家族の真ん中ですやすやと眠る新たな命は、瞬く間に有名になった。
しかし、大公領が北部にあるために、誰も大公女の顔を見たことがなかった。
皇帝でさえまだ一目見ていないと言われている。
どんな見た目なのか、本当に女なのか、本当は人外の可能性…
養女にした子供を大公女と呼んでいる、様々な考察が首都では飛び回っていた。
「大公よ、いつ大公女を首都に連れてくるのだ。」
通信機で皇帝は毎日のように大公に同じ質問を聞いていた。
「俺たち親友よ?しかも王立学校からの。ちょっとぐらい見せてもいいじゃん!」
数年前に即位した若年の皇帝、ニックス・アステラ・フォルトゥナ。
彼は大公の親友(仮)であり、2児の父である。
彼は愛らしい少女を抱き上げると、涙目で大公に訴え始めた。
「見てよ!2歳のうちの娘シエラ!可愛いでしょ!?」
皇家を象徴する金髪に、皇后から受け継いだ澄んだ空色の瞳。
「完全にお前と皇后陛下の子供って感じだな。」
「オンブル、何よその『皇后陛下』呼びは!一応あなたの義姉なんだからね!」
怒り狂った女性が皇帝の後ろから現れた。
彼女は、ローザ・リリス・フォルトゥナ。大公夫人フローラの姉だ。
「オンブル、フローラっている?」
フローラ、ママと違って濃い赤みのあるピンク色の髪と娘のシエラと同じ空色の瞳の見た目とは違って気の強い令嬢、それがローザ、私の叔母だ。
「いるわけないだろう。まだ娘を産んで数週間しか経っていないのに。」
「お姉ちゃん、久しぶり!」
大公、パパは嘘をついていた。
そして後ろの扉が開き、小さな赤ちゃんを抱いたママが現れた。
「フローラ!もしかしてその子が…」
叔母様が今にでも通信機から飛び出しそうな勢いで皇帝、私の叔父を押しのけて前に出た。
「そうよ。この子がアウロラ。可愛いでしょ?」
パパを画面から押しのけて、ママはアウロラを画面に近づけた。
まだふにゃふにゃとした柔らかい表情をしたアウロラに、叔母様は一瞬で虜になっていた。
「おおお!その子が例の大公女か!」
叔父様もまた、虜になっていた。
「パパだあれ?」
もう一度シエラが顔を出した。
「はっ!パパ…!」
パパ呼びに後ろで感激する大公を無視し、フローラはにこやかとシエラに微笑みかけた。
「この子はね、アウロラよ。シエラの新しい従姉妹なの。」
「いとこ…?」
「そう。いとこよ。」
シエラは瞳をキラキラと輝かせた。
「いとこ…」
「じゃ、僕は業務に戻るから〜バイバイ!」
叔父様は最後に言い残すと、通信機をブチっと切った。
「あら…切れちゃった。」
突然の切断に、一瞬シーンと静まり返った。
「なあ、フローラ。」
パパは愛しい妻の肩に手を回した。
「なあに?」
「俺も、パパって呼ばれるようになるか?」
夫の可愛らしい質問に、ママはニコリと微笑む。
「パパって呼ばれたいなら、ちゃんとおうちにいてね。戦争に行かないで。」
少し圧のこもった返答にパパは頷いた。
「もうミルクの時間だわ。じゃあね、オンブル。」
ママはそっと大公に口付けすると、部屋を後にした。
「アウロラ〜」
可愛らしい娘をあやしながら、ママは廊下をゆっくりと歩く。
すると、アウロラは母の声に反応するかのように、膨大な眩い光を体から放った。
「ア、アウロラ!?大丈夫?どうしたの?」
ママの慌てた声に驚いたアウロラが、静かに泣き出した。
「ママがなんとかするわね!ちょっと我慢してね!」
そう宣言すると、ママは私の小さな手を握り、自分の神聖力を注ぎ始めた。




