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30.The Saint Light -後編-

《朝日杯セントライト記念、今スタートしました! 勢いよく飛び出したのは快速の二冠馬・クリアディザスター! そこにエダテルオーも続く! 菊花賞への切符を掛けた前哨戦、早くもペースは荒れそうだ》


 レースが始まるとこれまで通り、スタートから先団に入ろうという集団を躱して中段から後方へと控える。


 2冠馬クリアディザスターがここまでの全てのレースを圧倒的な逃げ足で制してきているのを踏まえて、早めに捉えてフタをし、ペースを握ろうという馬が前へ詰め掛けて混戦状態になっていた。だがそんな他馬とその鞍上の思惑など構いもせずに、彼と鞍上の横浜騎手はぐんぐんとペースを上げる。


 セントライト記念は2200mで中山競馬場の直線コース手前からスタートしてきて1周を廻って来るレースだが、最初の直線ゴール手前からすでにどよめきが起きていた。


 

《最初のコーナーを廻って先頭はクリアディザスター、2番手以下が様子を伺う様な恰好! 後方はさらに開いて先頭から最後方まで15馬身程度と縦長な展開になりました。2番手はエダテルオ―からなんとレーヴァテインに代わって岩野康夫がペースを上げながら先頭に迫ります》



 先程の事があったので周囲を確認していたが、岩野の父親は今回、後方一気の作戦ではなく先行集団に混じっての作戦を選んだようだ。2番人気のヴィントメッサーと川原さんは最後方から虎視眈々と出るタイミングを窺っている。そして俺の外側には馬をかぶせるように優馬の跨るシャドウオブザデイがピッタリとマーク。


 前の方でもレースの主導権争いは行われていたが、こちらも静かに読み合いが続いている。今、先頭とはどのくらいの差で残りはあと何メートルなのか?どのタイミングで追い出すのか?その時の進路取りは?と一瞬一瞬、脳内でのシミュレートを更新していく。



「今のペースだとどうでしょうか?」

「この()なら差し切れるけど、アイツの脚には届かないかもだね」

「んー、このペースで追い出しタイミングがあと0.5秒早いとどうだろうか?」


 セントライト記念から3週間前。福山調教師と千葉さん、そしてオレの3人でクリアディザスターのダービー動画と200mごとの通過タイムデータに最近のリブライトの調教タイムのデータを照らし合わせ、毎日それらを確認しながら「先行する併せ馬を後ろから差し切る」というメニューをほぼ毎日のように試していた。


 実際のレースでは他の馬が居たりレースのペースに左右される部分があるとはいえ、どの状況を想定しても差し切れる様になっていなければ本番のレースではとても勝てる可能性など無いに等しい。のだが、実際2冠馬のダービー走破タイム考慮しながらのハンデで先行馬を走らせると、ゴール前で捕え切るにはあと一歩足りないという結論に至る事が多いのだ。


 ただ、夏の放牧前に比べてのリブライトの成長度合いも素晴らしく、一週間ごとに筋肉の発達とそれに伴ってリアルタイム計測での最高速度も上がってきているのは感じる。そして、この数週間のデータからの結論ならば、適正な位置からの追い出しで滞りなく差し脚を繰り出す事が出来れば……勝てる可能性を示唆していた。


《先頭は残り800mを通過して2番人気ヴィントメッサ―はまだ最後方で1000mを通過。さあここから各馬が動き始めるか!?》


 オレはチラリと斜め後ろ、川原さんの馬がまだスパートをかけていないのを確認して最小限の動作でリブライトにゴーサインを送る。リブライトは即座に反応し、ギアを一段上げたかのような加速で、前を行く馬のすぐ真横へと飛び込んだ。

 

《手綱が動いて上がってきたのは4番人気リブライト!ほぼ同時に天才・川原の手が動いてヴィントメッサ―! 天才二世・横浜 優馬のシャドウオブデイも上がってきているぞ!!》


 川原さんと優馬も動いて、中段で固まっていた馬群の均衡が一気に崩れるのを感じるが、時間にしてその初動0.5秒の差が大きなアドバンテージになるのを確信する。


 中段が壁になって後方からの馬がそれを割って出るのに労力を割くタイミングの頃、それらに並んで難なく躱しているのは多分オレだけだ。そしてこのスピードをゴールまで維持しきれるとしたら、1着でゴールする事が出来るハズ! そう思ってコーナーを回り切る直前、前方でも更なる動きがあった。


《第4コーナーを廻って直線、ここでレーヴァテインがクリアディザスターに外から強引に並びかけに行くがクリアディザスターもうひと伸びで躱す! ここからの二の脚について来れる馬は居るのかどうか!?》


 

 さすがにここまでハイペースで飛ばしてきて、これ以上の脚は残っていないと思っていたクリアディザスターが更なる加速を見せたのだ。リブライトが成長してきてるのと同じように、敵も成長しているという事か。ならばこちらもさらに加速していかなければ勝ち目はない。そう思ってムチを振るうが、今以上に加速するような反応は無い。


「リブライト!? 」

「っせやぁぁぁぁぁ!!」


 オレの外から凄まじい剣幕と勢いで川原さんのヴィントメッサ―が一気に加速していくのを感じる。まさにその名の通り【風の刃】だ。そして【陽の中に潜む影】と名付けられた通り、優馬の駆るシャドウオブザデイが気配もなく上がっていく。このまま先頭を捕えきれずに2頭とも見送ってしまったら3着以内、つまり菊花賞への切符は無い。


(このままじゃダメだ。何とかしないと……)


 焦ってムチを反対に持ち替えて振るうが状況は何も変わらない。ただ1つだけ状況が変わったとすればゴール前の急坂で前を行く優馬のシャドウオブザデイの脚色が鈍り、ゴールを割る前のタイミングでギリギリ並べたことぐらいだろう。


 9月3週・日曜日、中山競馬場第11レース。

 G2・朝日杯セントライト記念 芝2200メートル。

 

 1着 1番  クリアディザスター  2.09.8 コースレコード

 2着 9番  ヴィントメッサー   1/2馬身

 3着 7番   リブライト      2馬身

 4着 10番 シャドウオブザデイ  ハナ差

 5着 5番  エダテルオー     1馬身



 こうして、勝たなければいけない相手には何一つ近付けないまま、セントライト記念は幕を閉じた。

 お読みいただき、ありがとうございます。

いよいよ物語も佳境、この後、優先出走権は取れた菊花賞に向けて

リベンジを目指して進んでいきます。


 本編終了まで、あと3話!!


どうぞ最後までよろしくお願いします。

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