28.真夏のハイウェイスター
今回のタイトルは光希編『6月のマーメイド』から対比になるように付けました。
ちょうどそんな感じのタイトルの曲を聴きながら書いていたのもあります(地味に推しておくw)
季節は初夏から移り変わって真夏。
普段は千葉・中山競馬場か東京・府中競馬場で行われている関東での競馬開催だが、気温の上昇と共に『暑さに弱い競争馬という生き物』に合わせて主戦場は北海道と緑の多い北関東・北陸へと移動する。
その中で7月に行われる福島競馬場での開催。ここを本格的な復帰の場所と決めて6月から積極的に調教を開始していたオレは、そこで想定以上の成果を上げる事に成功する。
夏の福島開催最初の週、北条馬主の所有馬で武田厩舎期待の新馬であるマイシンゲンに乗って快勝したのを皮切りに、その翌週の七夕賞では兄のミホシンゲンで重賞を制覇。それ以外にも東京競馬場でのレースでは条件戦を勝ちきれなかった馬たちも続々と勝ち星を挙げてくれた。
『福島の虎』を自称する武田調教師がメインで行っていたのは勝手に【騎馬軍団調教】と名付けた、ゴール前の混戦を想定して勝負根性を鍛える3頭併せ馬。
それは馬も人も密集した状態で体力ギリギリまで追い込まれるかな~りキツい調教方法だったのだが、『直線が短く坂のあるゴール前に先行馬が殺到する』というまさに福島競馬場のコース特性を想定してあった事が功を奏し、6月中にほぼ連日、この厳しい調教メニューをこなしてレースに挑んだ馬たちは、前走での直線で競り負けたレース内容がウソのように快勝していたのだ。
そして月が変わって8月になると6週間に渡る新潟開催。今度は北条馬主がもう1つのメイン厩舎として馬を預ける『新潟の直線鬼』を自称する上杉厩舎の所属馬とともに快進撃が続く。
最初の週の新馬戦、青野氏と約束していた期待の新馬・ヘブンリ―ブルーで8馬身差の圧勝劇を飾ると、その日のメインレース、1000mの直線勝負・アイビスサマーダッシュで同じく青野氏所有のブルーヴァレットで大外枠でのスタートダッシュから最速の逃げ切り勝ちを決めて重賞を制覇した。
その後も1600mの関屋記念では上杉厩舎の期待馬・アイアムビシャモンで差し切り勝ちを決め、ヘブンリ―ブルーの2戦目で初重賞となる新潟2歳ステークスも5馬身差の圧勝。
最後の開催週のメインレース、2000mの新潟記念では大阪杯以来久しぶりにコンビを組むジオウハチマンで勝利し、気付けば6つある夏の新潟競馬開催での重賞のうち4つを勝つというとんでもない成果を出してしまっていたのだ。
《なんとなんと今週もこの騎手! 加賀流星騎手とジオウハチマンの鮮やかな差し切り勝ちです! まさに【真夏のハイウェイスター】!! この勢いで秋本番に弾みをつけるか!?》
勝利数でも夏の新潟開催だけで13勝と他の騎手たちもいる中でトップを記録し、夏の新潟首位騎手という表彰と共に新潟米1俵(60kg)も貰ってしまった。嬉しいけど……さて、コレどうやって持って帰ろうか?
そんな今までの状況を覆すような快進撃の福島・新潟での開催中、オレは明らかに今までとは違う感覚を味わっていた。
今までは観客席から上がるどよめきは「馬券を買った馬に興奮する人たちの声の塊」でしかないと思っていたのだけど、その中にオレの名を叫んで応援する声が幾つか上がっているのに気付き、驚いたのだ。
とくに新潟競馬場は最後の直線が長く、東京競馬場とは違って坂も無いために芝の荒れていないアウトコースで加速しての差し切りになるレースが多い。となると自然と観客席側に近い場所を通るレース展開もあるのだがその時に自分と騎乗馬に向けられる声援は間違いなく、あとひと踏ん張りという所を後押ししてくれる力に繋がっていた。
「行けぇ!! 行ってくれ加賀ぁ!!! 」
「差せる差せる差せる!! 」
「そのまま踏ん張れ!! 加賀頼む!!」
そんな叫び声が耳に飛び込んでくると、自然と手綱を握る手に力が入る。
ずっと前に何かで『応援は、力になる』って言うフレーズを見た時には『じゃあオレみたいに応援もされないヤツは無力に消えていくだけがお似合いなのかよ』なんて愚痴っていたけれど、今になってようやくその意味が分かった気がした。
それを特に実感したのは、青葉賞後の放牧から戻ってきたリブライトとの復帰戦。注目度的にはメインレースとは到底かけ離れた2勝クラスの馬しか出ない日中の時間のレースにも関わらず、見ている人たちの応援がその日のメインレースよりも凄い熱気だったのが印象的だった。
レース内容は春よりもさらに筋肉が発達して力を付けたリブライトが、他の馬を終始圧倒して1番人気に相応しい勝利。次のレースとの間にある短い表彰式には重賞の勝利セレモニーにも引けを取らないくらいの大勢の観客が詰め掛けていて、すごく温かい雰囲気だったのを思い出す。
「サインお願いします。加賀騎手のサインと、リブライトって名前も添えて、ね」
リブライトという名前にふと気が付くと目の前には、見覚えのある顔が色紙を目の前に差し出していた。そういえば今は、夏の新潟リーディング表彰式の後でその場に残っていた多くの人に色紙へのサインを求められ、あまりの数の多さにほぼ無心で書き続けていたのだ。辺りを見回すと彼女が最後のサインらしく、観客も係員も殆ど残っていない夕暮れ時の競馬場が目に映った。
「新堂さん……お久しぶりです」
「覚えててくれたんですね、嬉しい」
「そりゃあんな記事書いてくれてたって分かれば、気になりますよ」
新堂さんが書いていた記事……それは先週の新潟2歳ステークスの後、色紙にサインを書いている時に大学生風の子が言った一言で気付いたものだ。
『最初はTVで後輩イジメとか出てた人だー!って思っただけだったんですけど……加賀騎手とリブライト号についてずっと書かれてる記事を読んで、応援したいって思って来ました!これからも期待してます』
何の事かその場では分からなかったので、帰ってから検索してみると『Re:bright ~この馬と共に、もう一度あの場所へ~』というタイトルで何話にも渡って書かれたコラムを見つけた。著者は新堂 紗耶香、最初の投稿は4月の最終週……つまりあの青葉賞のすぐ後。
コラムを書き始めた時には競馬専門紙の記者という肩書きも捨て、誰でも気軽にコメントできるブログサイトに投稿開始していたので誹謗中傷のようなコメントが殺到していたのだが、新堂さんはそれら一つ一つに真摯に返答し、また馬主や調教師、他の騎手など色んな方に取材を行って記事を更新し続けていた。彼女なりに、オレと一緒に戦ってくれていたのだ、多分だけど。
「私は今でもリブライトとのコンビで貴方が大きな目標に挑戦し、そして達成してくれるって信じてるわ。聞かせてもらえないかしら、貴方の視点でしか知らない物語を。
……アレを美浦まで一緒に乗せていく代わりに」
そう言って指差されて振り向いた先には先程送られた新潟リーディング祝いの米俵が鎮座していた。
「あぁ。ちょうど、どうやって持ち帰るか困り果てていた所でした。一緒に乗せてもらえるなら、話しますよ」
今回は大好きな夏の新潟開催を取り上げてみました。夏の新潟、最高ですよー!是非皆様遊びに来てください♪
アイビスサマーダッシュとかG1に昇格しないかなぁと毎年思ってる。あと新潟リーディングの米俵、獲得した騎手の人どうやって持って帰ってるのかなってw作中の米俵はこの後スタッフ(上杉厩舎・武田厩舎・福山厩舎の皆さん)が美味しくいただきました。




