♥ 拝啓、僕はナイン皇子殿下です。
此処は≪ モイクリンド大陸 ≫の中にある≪ サントシーグ ≫の中央に聳え立つ立派なサントシーグ城の中庭だ。
僕はアルラシール・モル・デュワス・サントシーグ。
通称は “ アルス ” で愛称は “ アル ” の男子で、サントシーグ国皇の実子で九男だ。
実父である国皇には正室の皇妃が1人と側室の側妃が4人も居る。
皇妃は自国の貴族令嬢から選ばれたそうだが、4人の側妃は他国から嫁がされて来た王女ばかりなんだとか。
僕の実母であるオリゴートゥル側妃の故郷は、北の隣国≪ ハベシュリ王国 ≫になる。
お母様から聞いた話だと、北の隣国の冬は極寒地獄で、春でも肌寒く、夏は涼しく、秋は小寒い故郷らしい。
全く以て考えられない環境だ。
≪ サントシーグ皇国 ≫の気候とは、どえらい違いで信じられない事だけど、お母様からすると、≪ サントシーグ皇国 ≫の気候は天国並みなんだとか。
サントシーグ国皇の側妃として嫁がされると聞いた時は相当悩んだらしいけれど、≪ サントシーグ皇国 ≫へ入国したら気持ちがコロッと変わったらしい。
何とも現金なお母様だ。
そんなお母様は父上との間に3人の子供を授かった。
兄と姉と僕だ。
兄と姉は双子で、僕とは6歳も離れている。
僕が今年の6月に12歳を迎えるから、兄姉は成人した18歳だ。
≪ モイクリンド大陸 ≫の陸民は種族に関係無く、子供は15歳を迎えた翌月から成人となる事が〈 大陸の法則 〉で決まっている。
≪ サントシーグ皇国 ≫では、成人してから1年の準備期間を終えて、16歳を迎えると同時に結婚が許され、神殿の傘下である教会にて婚礼儀を執り行う事が出来る。
妻を迎えて自分だけ家族を持つ事が可能になるんだ。
長子の兄は由緒正しい何処ぞの貴族令嬢と結婚しているし、長女の姉は他国の王子の元へ嫁いでいる。
姉に関しては完全に国益を考えた政略結婚だ。
次男の僕にもそろそろ婚約者候補の貴族令嬢達と顔を会わせる機会が設けられる頃だろうか…。
憂鬱だな…。
激しく憂鬱だ。
仮病でも使ってボイコットとか出来ないのだろうか?
僕は九男だから皇位継承権第9位の立場だけど、何故だか昔から皇位継承権に対して興味が無い。
他の異母兄弟達なんて、皇位継承権を狙ってギラギラしまくっているのに、僕は無関心で冷めきってしまっている事もあり、周りから浮いた存在になっていた。
そんなわけで、僕は成人の儀式を済ませた後、続けて皇位継承権放棄の儀式を執り行いたい意向を父上とお母様に伝えてある。
権力を求めて私腹を肥やしたい大人達の卑劣で醜いドロドロな権力闘争に巻き込まれて、何処の誰かも知らない輩から命を狙われて暗殺されるなんて真っ平御免被りたい。
だから、僕は11歳の足りないオツムをフル回転させて皇位継承権から解放される道を模索したわけだ。
反対されて厳しく叱咤されるかと覚悟をしていたけれど、意外にもお母様からはすんなりと御許しを得られた。
4人目を授かっているからだろうか?
兎も角だ、ヒステリックに捲し立てられながら、長い説教込み込みで反対されなくて本当に良かった。
心の底から安堵している。
問題なのは父上の方だ。
これから成人する迄の3年間で皇位継承権を放棄する為に父上を説得させないといけないからだ。
他にも皇子が居るんだから、僕1人が皇位継承権を放棄したからって問題はないと思うんだけどな…。
父上の考えが全く以て分かない。
面子の問題なのかな??
因みに兄は皇位継承権5位だったけど、16歳を迎えて直ぐに教会で婚礼儀を済ませると早々に皇位継承権の闘争から離脱して行った。
なんでも相手の伯爵家には跡取りが居らず、婿養子に入ったんだ。
元々、跡取りはちゃんと居たらしいけど、事故に遭ってから病弱体質になって、3年前に他界したんだとか。
運が良いよ、兄さんは!
伯爵家へ婿養子に入った事で、皇位継承権放棄の儀式を行わずとも皇位継承権放棄を受理してもらえて “ ばいなら ” 出来たわけだからね!
僕も逸その事、婿養子でも狙ってみようかな〜〜〜〜、なんちゃって??
もう数日で12歳の誕生日を迎える日になるって時に、僕の身体に異変が起きた。
僕は1週間程寝込む事になり、高熱と悪夢に魘されながら、生死の境をさ迷いながら臨死体験なるものをしたらしい。
どうやら僕は、日本國…と呼ばれる異国人として生きていたようだ。
小さな≪ 島国 ≫の中にある八尾馳県朔谷岐郡丕亊町中之埜っていう地域に暮らしている家があった。
僕は一般家庭の中でも割かし裕福な暮らしをしていた子供らしかった。
テレビ…と呼ばれる横に長方形な薄型の画面に映る動く映像を夢中になって見ていた。
動く映像を見ていた最中に突如、大きな揺れが起きて──、段々激しい揺れに変わって──、部屋の中にある物が落ちたり倒れたりして次々に容赦なく壊れていく。
僕は激しい揺れの中、身動きが取れなくて──、割れて飛んで来た窓ガラスで怪我をして、落ちて来たオシャレなシャンデリアの下敷きになった。
仰向けになった僕の上で落ちたシャンデリアが激しい揺れで動く度に、僕の顔や身体を容赦なく傷付けた。
揺れが続く中で、僕の意識は途絶えてしまったんだ。
ハッ── (( ゜ロ ゜;; ──と意識が戻った僕は……ベッドの中に居た。
僕は……助かったのか??
僕は……シャンデリアの下から救急隊員から救助されたのか??
自衛隊員に助けられたのか??
レスキュー隊員に助けられたのか??
震度は分からないけれど、地震は収まったのか??
◎ 訂正しました。
サラトシーグ ─→ サントシーグ
10歳 ─→ 11歳
11歳 ─→ 12歳
4年 ─→ 3年