第3シナリオ ミケ?ポチ?ティラノサウルス!01
第3シナリオ ミケ?ポチ?ティラノサウルス!01
親は子に名を付ける。子は家族の一員であるペットに名を付ける。脚本家は作品に名を付ける。
政府は車に番号を割り振り、売人は商品にコードを付ける。人は陳列ケースに置く物に値段をつける。
名、愛称、番号、バーコード、価格。
人は物事を区別し、価値を定めるためにラベルを与える。
つまり、それらはすべて、個としての存在を表すための便宜的な手段に過ぎない。
その共通点は一つ――必ず、誰かに付けられるということだ。
「『いい映画は錯覚を与える。逃れられた錯覚を。』……何から?何で逃げる?逃げたいのか?」
海唯は巨大な影を見つめながら、ぽつりと呟いた。カファロの方を振り向く気配はまるでない。その生物がここでどれほどの存在感を持っているのか、海唯にとっては関係のないことだった。
「『特に、人が食われるやつ。名を持ってるから。』……人の名?個体?意味は?」
カファロはその言葉に反応せず、ただ古代生物の前で戦慄し、動けずに立ち尽くしていた。それは、そこにいた誰もが同じだった。
「『食って生きる。生きて食う。同じなのに。』……同じ?違う?『ヒトだから』……ヒトだから、か」
海唯は左腕の具合を確認し、糸を手に絡めてナイフを投げた。ナイフは石の間に正確に突き刺さり、糸を利用して壁を駆け上がる。まるで壁を走っているような動きだった。その間も海唯はずっと古代生物の方を見つめ続けていた。
動きは完全に身体に染みついていた。
「我らの王は貴方様を待っていた」
低く震えるような声が、空気を振動させる。
龍の言葉に誰もが驚いたが、聖女は反応を示さなかった。言葉が通じていない様子だった。面白みを感じなかったのか、龍――ウビノはそのまま去ろうとした。
空へ飛び立とうとした時、血の匂いが風に混じって漂った。人間の血だ。鉄のような匂い、粗い肉質。ウビノにとって人間の血肉は好みではない。争いが絶えない種族でもあった。
しかし――
「名前ウビノってか?誰かに付けられた?王が待ってるってどういうこと?お前は使いか?それとも抜け駆けか?」
すでに高く舞い上がった背後から、声が飛んだ。
「お主は誰だ!?高貴な我の背に乗るとはいい度胸だな!すぐに降りろ!」
ウビノは振り返った。血の匂いの主――黒髪の少女がそこにいた。鉄臭さに反発を覚えつつも、気づかれずに背に乗ったその少女に、ウビノはごくわずかな興味を持った。
一方、クレインは石のように固まり、驚きで声も出せなかった。
「ウビノは龍だったか。恐竜かと思った。ま、似たようなもんか。それより質問に答えてくれ」
海唯はそう言いながら、ウビノの耳を掴んだ。
「我に命令するな!人の子よ、食ってやる!」
「ペットだ。それより質問」
次の瞬間、海唯は迷いなくナイフをウビノの首元へ突き立てた。鱗の隙間を狙い、刃は肉に沈む。想像よりも柔らかかったその感触に、海唯は少し意外に思った。
「ゴォン!!」
激痛に叫び、ウビノは大きく翼を広げて一気に高度を上げた。その勢いに乗じて、クレインの悲鳴と海唯の笑い声が雲を突き抜けていった。
「はあ、はあ……お主、何をした!この我に傷をつけるとは……ただの人間の分際で!」
「ペットだ」
「ほ、本当に龍……赤い鱗、光ってる……鳴き声も凄い!雲の上だ!飛んでる!いや、乗ってる!?」
海唯はナイフを引き抜いた。
「何を言っている。我は龍。世界の始まりを告げ、人に知恵を授けた神聖なる存在。その気になれば一国を吹き飛ばす力も持つ、恐ろしき古代種!」
「ふーん、続けて」
「そうだ!もっと言ってやれ、この生意気なガキに!」
「高い知性と魔力を持ち、めったに姿を現さぬ高貴なる種、龍族。出現は世界の変異の兆し。鳴き声一つで恐怖を与えるほどの存在!」
「へえ」
「そうだとも!よくぞ言った!」
「そしてな、龍の王は“待ち人”が現れた時に迎えに来るんだ。その者は世界の運命を握る存在で、彼に言葉を授けられることで、封印された力を解放できるらしい」
クレインは話しながらどんどん早口になったが、海唯は最後まで耳を傾けた。
学校に通ったことのないクレインにとって、同年代の子と話すのは初めてだった。母や教師の話を聞くばかりで、自分の話を聞いてくれる人はいなかった。
静かな空間の中で、ほんのわずかに居心地の良さを感じていた。
初めての感覚だった――話し相手がいるということが。
「おお~クレインは物知りだな」
「まあな!」
「おい、今“使える”って言っただろ」
「本読むの好き?図書館とか行くんじゃない?今度、連れてってよ」
海唯はそう言いながらウビノを無視した。
「おい、我を無視するな!我は高貴な存在だぞ!」
「先に無視したのはお前だろ」
「我は龍だ!人の子の話など聞く価値がない!」
「ペットだ」
「……なあ、誰と話してるの?」
クレインがようやく尋ねた。
「こいつだけど?」と、海唯は後ろを指さした。
「誰もいないけど?」
クレインはすでに龍の背に慣れ、落ちないようにしっかり座っていた。
「いや、いるじゃん。今、背に乗ってる龍」
「「……えええええええ!!!!????」」




