第2シナリオ 人を刺す時まず、金属にアレルギーがあるかを聞くべきだ!01
第2シナリオ 人を刺す時まず、金属にアレルギーがあるかを聞くべきだ!01
箱庭のルールを知ったペットはケモノになり、沈黙を貫いたケモノは、やがて化け物と化す。それでも、人間にはなれなかった。
首輪を振り切ったペットはケモノとなり、居場所を求めたケモノは化け物に変わる。それでも、人間にはなれなかった。
魂に刻まれた呪いは、化け物を同じ道へと誘い、もう一匹の化け物を生み出す。呪いは終わらない。
騒音を止めたくて、更なる騒音を求め続けた化け物は、飼い主の真似を始めた。それでも、その声は消えなかった。
そして、彷徨う化け物は、飼い主の笑顔の意味に気づいた。その瞬間、騒音が途絶えた。わずかな時間ではあったが、静寂が訪れた。
「ギャハハハハハッ!もっとだ、もっと盛り上げろや!あははははっ、苦しそうだな?なら、もっと笑えや!死にたくないんだろ?ギャハハハッ!」
王宮前広場に響く狂気の笑い声。だが、その姿は見えない。
街を荒らした犯人は、爆音と瓦礫の影を巧みに利用し、姿を隠していた。
実際の被害の多くは、混乱した騎士団の団員たちによるものである。
「どうなってるんだ、これは!」
「ギャハハハッ!」
海唯は魔法に対する拒絶反応を逆手に取り、団員たちの目を欺きつつ、精神を揺さぶり続けていた。
1対多数の市街戦を熟知している者の動きだった。
「ぐわっ!」
仲間の絶叫と海唯の笑い声が、さらに団員たちの恐怖を煽る。
「クソッ、どこに隠れてやがる!正々堂々かかって来い!」
叫んだ団員の男は、横目で箱の影に揺れる影を見た。見えないふりをして背を向け、一気に斬りかかった。
しかし、それはただの袋だった。
「バッカじゃないの?」
「ぐわっ!」
上から飛び降りた海唯が現れた。男は反応しきれず、気絶させられた。
「クソッ……仲間が次々やられてるのに、俺は何もできねぇ!」
「誰のせいだと思ってるの?そろそろ誰彼かまわず喧嘩を売るのはやめたら?」
「そいつが先に俺をバカにしたんだよ、先輩ー!」
別の団員が路地裏で待ち伏せていたつもりだったが、瞬きの間に、向かいに隠れていた仲間が倒された。
「市街戦、初めて?」
海唯の声だけが響く。
姿は誰にも捉えられていなかった。
「……死角の確認、できてないよ?」
「なっ……」
また一人、背後から現れた海唯に倒される。
「団長!出動した団員の大半がやられました!」
魔水晶から伝令の声が響く。
その一方で、屋台で肉串を食べる男の姿。異様な対比だった。
「団長さん、部下が可哀想ですよ~」
肉を売る美人が胸を揺らしながら肉を切る。
「心配ないさー。祭りには支障ない」
悠々と食べ歩く男、それが第三騎士団団長、リヒル・ダーテオだった。
「いい加減にしてください、ダーテオ団長」
「おお~カファロ、お前も肉食うか?ぐふっ」
副団長のカファロがダーテオの顔を掴んだ。
「団長なら、団長らしい仕事をしてください」
「我々の仕事は?」
「“秩序を守る”ことです」
「正解~じゃあ質問。祭りを楽しんでる市民たちは元気か?」
「……まあ、それなりに」
カファロは苛立ちを抑えながら、団長の戯言に付き合っていた。
屋台を巡るうちに、ダーテオは市民の様子を観察していた。
確かに、祭りは続いていた。
「じゃあ次の質問。陛下の命令は?」
「“聖女召喚のお供を生け捕りにしろ。魔法が使えない奴だ。簡単だろ?”との命令です」
ダーテオは笑顔を消し、真顔になる。
「厄介な奴に喧嘩を売ったもんだな、あのバカ」
「……団長でも厄介ですか?」
「地面に転がってるうちの団員を見てみろ」
「……ほぼ無傷で気絶してますね」
二人は祭りのエリアを離れ、王宮前広場へ向かう。
そこは、まるで別世界だった。
倒れているのは騎士団の団員ばかり。
「……だが、数人は重傷だな。内臓までやられてる」
「救助班を呼びます!」
「ああ、頼む」
剣を奪い、魔法を消し、次々と相手を倒していく海唯の動き。
その一挙手一投足に、一切の無駄がなかった。
見た者は、ただ息を呑む。
団員の腕を折っている海唯を見て、カファロは戦慄した。
だが、本当に驚いたのはその後だった。
高級ポーションで即座に治癒する姿。
「カファロちゃん、どう思う?」
「怖い……でも、戦ってみたい、と思いました」
「素直でいいね。でも、やめときな。あれは“人間”じゃない」
「どういう意味です?」
「“未知”だよ。あれは魔人でもなければ、理性ある魔物でもない。我々の管轄外ってこと」
「にゃは~団長発見~」
海唯が笑いながら近づく。その一歩に、ダーテオは即座に反応し、カファロの抜刀を止めた。
「うちの若いのは血の気が多くて困るね~」
首元にナイフを突きつけられても、ダーテオは平然としていた。
「……話が通じて助かるよ。手綱はしっかり握ってくれよ、飼い主さん」
「悪いな。それで、兄さんの目的は?」
「いや、私は女……」
轟音が海唯の声を遮る。魔法が再起動したのだ。
「……まあいいや。団長さん、任務中なんだろ?これ、あげる」
そう言って海唯が渡した水晶石。
金色の網が光を放ち始めた。
クレインが広場へ駆けつける。
――SS級魔道具《探し人の意志》:特定条件の人物を一度だけ探し出せる。魔力を注ぐと、特徴をもとに相手を呼び寄せる。
今回は「魔力を持たない人物」という簡単な条件で発動できた。
クレインは王の命令で“もう一人の召喚者”を見つけようとしていた。彼の信念は、名誉回復と人命救助の両立だった。
「何やってんだよ、海唯!第三騎士団は関わるなって……え?」
金の光に包まれた次の瞬間、クレインは海唯とダーテオの間に立っていた。
「ご無事でなによりです、クレイン王子様っ!」
団長と副団長が同時に敬礼する。
「……え?ちょ、顔を上げてください!」
「体が……4年前と変わらない……まさか記憶が……?」
困惑するクレインと、戸惑う二人。
だが、運命の歯車は確実に回り始めていた。




