序章 最後まで笑っていられるのは私だ!上篇
序章 最後まで笑っていられるのは私だ! 上
『檻の外側と内側、その差は心臓の音がこの世を響く時点で決められた』
黒い影のような人は、微かに動く鼻先でカビ臭い匂いを確かめていた。冷たい床に頬をぴたりとつけ、その湿った感触にはすっかり馴染んでいる。だから、どんな状況でも笑っていられたのだ。
彼女の意識はとっくに戻っていたが、瞼は閉じたまま、両耳を澄ませて後ろから聞こえる退屈そうな声を聞き取った。
男二人の声に加え、左上からは微かに足音と人の話し声が聞こえる。つまり、檻の外に出たとしても、上へと続く出口にはまだ衛兵がいることが分かった。
情報を集め終えたら、彼女はこれくらいなら余裕だと判断し、身を起こそうとした。しかし、背後で手錠をかけられた両手のせいで思うようには動けなかった。
それでも邪悪な笑みを浮かべ、この甘い拘束を嘲笑った。
ゆっくりとこっそり身を起こし、囚われの身でありながらも獲物を狩るような鋭い瞳で、檻の外で机を囲みトランプをしている二人の衛兵を見つめた。
指を動かし、手首をねじると「ガラッ!」と手枷にじんわりとした振動が伝わる。そこでようやく左腕の骨が折れていたことを思い出した。
汚れが目立ちにくい黒い服には、微かに赤く染みた跡があり、「Snow World」と真っ白な文字がその汚れに穢されているのが見て取れた。
そして、甘くハチミツのような声が響いた。性別を判別できないその声は言った。
「はいは~い、こっち見て~」
光に照らされ揺れ動く黒影の如く、彼女は続けてからかうように言う。
「……ん?黙ってろって?まあまあまあまあ~、そんなつれないこと言わないでよ~、お兄ちゃんたち~。ほら!」と、揺れる手錠がカラカラと綺麗な金属音を鳴らす。
「大怪我してる人に手錠なんて、大袈裟だと思わない?だからさ~、少しは話に付き合ってよ!」その揺れる光に照らされた顔には、場違いな笑顔が浮かんでいた。
衛兵の話を遮りながら、彼女は軽い調子で続けた。
「あれ?関係ないって?え~、だって~私、つまんないから死んじゃうかもよ~。それにさ、目覚めたら地下牢にいた人の気持ちも考えてよ~。やだ~、コ~ワ~ィ~」