指切り
鬼姫は僕と妹と座敷童子が床に座ると口を開いた。
「あたしはその昔、人をたくさん殺した鬼よ。罰として封印されたけど、それの効力が消滅しかけてきたから、こうして動き回れるのよ」
「あー、えーっと、今のお前は……その……本体なのか?」
彼女は僕の方を向くと首を横に振った。
「違うわ、この体はただの思念体……まあ、魂と言った方が妥当ね」
「魂か……」
なるほどな。だから宙に浮かんでたのか。
「えーっと、まあ、そんなわけでこれからしばらくよろしくね」
その直後、座敷童子がキレた。
「私は認めませんよ! 本来、あなたのような悪意の塊に居場所などないのですから!」
「まあまあ、仲良くしようよー。いくら怒鳴っても何の解決にもならないんだしさ」
座敷童子は彼女の巫女装束の襟首を掴むと、歯を食いしばった。
「あたしを殺すつもりなら、やめておいた方がいいよー。あたしと彼は一心同体だから」
彼女がニコニコ笑うと、座敷童子は殺意を押し留めた。
「あのね、あたしはあんたたちがおとなしくしてれば危害を加えたりしないんだから、もっと仲良くしようよー」
「あのー、一ついいか?」
彼女は僕の方を向くと、ニコニコ笑いながら「はい、どうぞ」と言った。
「お前は俺の体の中にいる『鬼姫』で間違いないんだよな?」
「ええ、そうよ。あんたが鬼の力を使えるのは、あたしがあんたの体の中にいるからよ」
なるほど。ということは、こいつが僕の体からいなくなれば、鬼の力は消滅するんだな。
「まあ、あんたの細胞が一つでも、この世に存在していれば、あんたの中にある鬼の力は消滅しないんだけどね」
「そうか……。じゃあ、僕は死ぬまでお前と共に行動を共にするんだな?」
彼女は僕のその言葉に一つ付け加えた。
「正しくは、あんたの遺伝子を引き継ぐ存在が誕生するまでよ」
「えっと、それはつまり……あれか? 僕の子どもが生まれるまでってことか?」
彼女は、うんうんと頷いた。
なんてこった、僕はとんでもない力を受け継いでしまったことに気づかないまま、今まで生きてきたのか。
というか、どうして両親はそのことを教えてくれなかったんだろう。
まあ、話したくない気持ちも分からなくはないが。
「一つ確認するが、お前は僕たちがおとなしくしていれば、危害を加えたりしないんだよな?」
「ええ、そうよ」
こいつの言葉には重さがないけど、嘘をついているようにも思えない。
「なら、こうしよう。よっぽどのことがない限り、お前は僕たちの前に姿を見せない。僕たちもよっぽどのことがない限り、お前に手を出さない」
『……!!』
座敷童子と妹はそれに反対しようとしたが、その前に彼女はこう言った。
「それで構わないわ。じゃ、そういうことで」
「おう、約束だ」
彼女は彼と指切りをした直後、その場から姿を消した。
「ということで、この件はこれでおしまい。解散」
僕がその場から去ると、妹は座敷童子に声をかけようとしたが、彼女が親指の爪を噛んでいたため、それをしようとはしなかった。
妹は座敷童子を僕の部屋に残したまま、僕の後を追い始めた。