出現
夏樹は急に泣き始めた。
理由は分からない。
だが、どうして泣いているのかを訊くことはできる。
「夏樹、どうして泣いてるんだ? 目にゴミでも入ったのか?」
「……違うよ。ねえ、お兄ちゃん。本当に体の調子はいいの?」
何なんだよ……座敷童子も、妹も、どうして僕の体に異常がないか訊いてくるんだ?
「ああ、別にどこも悪くないよ。それで? どうしてさっきから泣いてるんだ?」
「……それは」
その時、座敷童子がどこかはともなく現れた。
「それは私が説明します」
「お前……いつから聞いてたんだ?」
彼女はそれを無視した。
その後、僕の右手の甲に出現という字を書いた。
すると、僕の右隣に巫女の格好をした黒髪ロングと紅い瞳が特徴的な美少女が現れた。
「え? ちょ、お前……誰だ?」
「んー? あれー? もしかして、あたしのこと見えてる?」
その子は宙に浮いている。
その子は目をパチクリさせながら、僕に視線を合わせた。
「その声……お前、まさか……」
「そうよー、あたしは鬼姫よー」
彼女がニコニコ笑っていると、座敷童子が彼女を睨みつけた。
「何よー、あたしに言いたいことでもあるのー?」
「あなたに言いたいことは山ほどあります。しかし、今はそんなことに時間を割くわけにはいきません」
彼女は自分の額に結界という字を書いた。
すると、僕の部屋が結界で覆われた。
「こんなのであたしをどうにかできると思ってるの?」
「単刀直入に言います。彼の体から今すぐ出ていってください。いや、出ていけ」
彼女がそう言うと、鬼姫は急に笑い始めた。
「……あたしがそんな脅しに屈するわけないでしょ? バカなの?」
「バカと言う方がバカです。それより早く私が先ほど言ったことを実行してください。さもないと」
彼女は座敷童子を煽るように、こう言った。
「さもないと……どうするの? 殺すの? ねえ、殺すの?」
「殺しはしませんよ。封印するだけです」
封印?
座敷童子にそんな力があるのか?
「あたしをどうにかしたいなら、まずこの男を殺さないといけないけど、どうする?」
彼女は僕にまとわりついた。
その直後、妹が黒い長髪を針のように尖らせた。
そして、彼女の目の前までそれを高速で移動させた。
「お兄ちゃんから離れて! 今すぐに!!」
「お兄ちゃん? あー、そういえば、今はそういう設定だったわね」
設定?
いったい何の話をしてるんだ?
「早く離れて! 離れてよ!!」
「はいはい、分かりましたよー」
彼女が僕から離れると、妹の髪は妹の元へ戻っていった。
「まあ、とりあえず話をしましょうか。色々とね」
彼女はそう言うと、その場で正座をした。




