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拒むな

 僕が妹を起こそうとすると、妹は僕の右手の手首をつかんだ。


「……夏樹なつき?」


「お兄ちゃん……大丈夫?」


 その質問の意味は分からなかったが、とりあえず返答した。


「ああ、大丈夫だよ。ピンピンしてる」


「本当?」


 妹は何かに気づいているようだが、そんなことはないだろうと思うことにした。


「本当だよ。心配してくれて、ありがとな」


 僕が左手で妹の頭を撫でると、頭の中に見たことのないビジョンが映し出された。

 火の海。逃げ惑う人々。崩壊している建造物の数々。いったい何から逃げているんだ?

 それに、このビジョンは何なんだ?

 僕は何を見せられているんだ?

 その時、燃え盛る炎の中から不気味な笑みを浮かべた何者かが、こちらに近づいてきた。

 お前は……まさか……。

 僕がその人物の名前を言おうとした瞬間、妹が僕の体を揺すったため、僕は我に返った。


「今のは……いったい……」


「お兄ちゃん、どうしたの? 顔色悪いよ?」


 妹は僕の顔をじっと見つめながら、不安が伝わってくる表情を浮かべている。


「大丈夫だよ、ちょっとぼーっとしてただけだ」


「そう……」


 妹はそう言うと、僕のひたいに手を当てた。


「熱は……ない……。けど、何か良くないものを感じる」


「まあ、僕は鬼の力を宿しているからな。少なからず邪気を発してるんだろう」


 妹は僕から離れると、黒い長髪で僕の体をグルグル巻きにした。


「あのー、夏樹なつきさん。これはいったい」


「少し静かにしてて」


 真剣な表情を浮かべている妹が発した言葉には、それをこばむことは許さないという意味が込められているように思えた。


「……分かった」


 僕はそう言わざるを得なかった。

 ここでその言葉を言わないという選択肢は最初からないように思えたからだ。

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