第9話 同人誌を届けよう!
いよいよイベントが始まり、会場には少しずつ人が増えていく。
「和泉がんばろうね。」
「おう!黒瀬大丈夫だ。俺もいるからな!」
すると、お隣の金髪お姉さんはびっくりした表情で俺たちに声をかける。
「いいじゃん!最高じゃん!ふたりとも!てか、コスプレのクオリティ高すぎ!!!」
「それ魔法少女ルミナだよね!?やばいんだけど!」
黒瀬のコスプレに目を輝かせ、子供のようにはしゃいでいる。
「そういえば自己紹介まだだったね。私の名前は星野!黒瀬ちゃんでいいのかな?仲良くしようね!!」
「よろしくお願いします。星野さん!わ、私も仲良くしてくれたら嬉しいです......!」
綺麗なお人形さんのような金髪、豊満な体つき。
まるで二次元から飛び出してきたかのようだった。
お隣のお姉さんこと星野さん。その圧倒的な存在感に俺は思わず見入ってしまった。
「......は?和泉。どこみてんの。」
「べ、別に見てないわぁ。」
黒瀬は不満そうに俺に視線を向け、バシッと俺の背中を叩いた。
何かを勘違いしたのであろう星野さんが慌てた様子で言う。
「あ!黒瀬ちゃん!彼氏さんは取らないから!」
「へ!いやっ!ち、違いますよ!!」
黒瀬はいつもの俺のような間抜け声で顔を赤らめる。
「だってどう見ても、いい感じじゃんー!」
「だから、そういうんじゃないですってばぁ!!」
顔を真っ赤にして否定する黒瀬に、星野さんは楽しそうに笑った。
「はいはい、わかったわかった! じゃあ、お互い頑張ろうね!」
「は、はいぃ。」
星野さんはひらひらと手を振ると、自分たちのブースへと戻っていった。
するとその直後。
「すみません。これ見てみても良いですか?」
「は、はい!大丈夫です!」
初めてのお客さんに黒瀬は嬉しそうに返事をした。
「......うーん。うんうん。なるほど。」
険しい顔をし、ぶつぶつと呟きながら読んでいる。
すると、黒瀬......いや、ルミナがなんとギュッと服の裾を掴んできた。
(おっふ。いやこれは黒瀬だ騙されるな俺......)
「うん。一冊いただきます!」
「は、はい!ありがとうございます!700円になります!」
掴んでいた裾を離し、嬉しそうにお金を受け取った。
「ルミナ再現度高すぎます!お写真も大丈夫ですか?」
「も、もちろんです!」
黒瀬は少し硬い表情で、精一杯ぎこちないポーズを取る。
「ありがとうございましたー!頑張ってください!」
「ありがとうございます!」
お客さんの姿が見えなくなると、黒瀬はふうっと大きく息を吐いた。
「......は、はぁぁ。緊張した......!」
「良かったぞ!お疲れさん」
先ほどまで緊張で強張っていた顔が緩んだ。
「嬉しいね。頑張ってよかったよ!」
「良かったな!自分が一生懸命描いたものを誰かに読んでもらえるって、すごいことなんだよ。」
黒瀬は机に並べてある同人誌を見つめ、嬉しそうに頷いた。
その表情を見て、俺も笑みがこぼれた。
「......ちょ!二人とも前見て!」
隣の星野さんから声をかけられて、前を向く。
......ん?
「え、えぇ......!?」
目の前には数人のお客さんがこちらを見ていた。
「すみません!これ一冊ください!」
「ルミナちゃんですよね!?写真いいですか!?」
「再現度高すぎ!SNSとかやってますか!?」
と、気がつけば俺たちのブースの前には囲みができていた。
「え、えぇ!はい!ありがとうございます......!」
どうやら、黒瀬のコスプレがかなり注目を集めているらしい。
それに加えて、同人誌を手に取ってくれる人も少なくない。
「黒瀬、落ち着け!俺が会計するから、お前は本を渡すのと写真対応を頼む!」
「わ、わかった!」
_____こうして俺たちは、慌ただしくも充実したイベントの時間を過ごすことになった。
「以上で第26回コミック・ステラを終了いたします!お疲れ様でした!」
パチパチパチと会場から拍手が鳴り、イベントが無事終了した。
「......黒瀬、お疲れさん。」
「和泉こそ、色々ありがとね......」
五十部用意した同人誌は、予想をはるかに上回る勢いで売れ、見事に完売した。その後は黒瀬の撮影会がノンストップで行われた。
「二人とも初めてなのにハードだったねぇ。」
「は、はい......もうクタクタです。」
星野さんが俺たちを労ってくれ、麦茶を差し入れしてくれた。
「......そういえば星野さん!ラスト一冊残しておいたので、ぜひ読んでください!」
と黒瀬はマジカル⭐︎ハート本を星野さんに渡した。
「ありがとう!実はね、私も残しておいたのよ!はい、どうぞ!」
「ありがとうございます!」
黒瀬は嬉しそうに本を受け取った。
黒瀬にとっては、初めての同人誌イベント。
緊張もしたし、予想外のことばかりだったけれど。
「じゃ和泉今度はコミケ行ってみよ!」
「おう!だな!」
......どうやら、俺は結構楽しみにしてるらしい。
「えぇ?乗り気だねぇ?私とコミケデート行けるのがそんなに楽しみなんだ!?」
「はぁ!?ち、違うし!!」
_____そんなこんなで俺たちの同人活動はこれからも続いていく。
(ああ、黒瀬まじ可愛かったな......。)




