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第03話 「ウィルス」
時々、男の脳裏に音楽のようなものが聞こえてくるようになった。
その音楽は次第にはっきりとした言葉となり、遂には男に話しかけてきた。
(我々はお前の体内から話しかけているウィルスと呼ばれる存在だ。我々にとってお前と会話するのは、人間が地球と会話するようなものだ。おかげで会話できるまでかなりの時間を浪費してしまった)
どうやら突然変異で進化し知性を持ったウィルスが男の体内に生まれたらしい。
(我々はお前の身体から外に出てもっと増殖したい。協力しろ)
「勝手なことぬかすな!」
そう男が言ったとたん全身に耐えがたい激痛が走った。
「や、やめてくれ!言うことを聞くから!」
(では浄水施設に行け!水道水を通して我々は世界中に広がってゆくのだ)
男は夜中にこっそりと施設に忍び込み、液体で満たされたタンクのふちにたどり着いた。
(ご苦労だった。お前を殺してこのタンクに死骸を浸けてやる)
「そんなことだと思ったぜ……」
男の心臓が止まり、男の身体はタンクの中に崩れ落ちた。
翌朝、その製鉄所の作業員は塩素タンクの中でほとんど溶けている男の死体を発見した。




